ベネさんに会ってきた
みーこ
ベネディクト・カンバーバッチが……いる!
諸君らはもう既にベネディクト・ティモシー・カールトン・カンバーバッチ氏の事はご存知だろうが、中には知らないという人もいるだろう。そんな人の為に簡単に紹介しよう。
ベネディクト・ティモシー・カールトン・カンバーバッチは、声に出して言いたい名前ランキングで常に上位に入る(筆者調べ)イギリス出身の俳優だ。
イギリスBBC制作の現代版シャーロック・ホームズのドラマ『SHERLOCK』でシャーロック・ホームズを演じたり、マーベル・シネマティック・ユニバース通称MCU(アベンジャーズやってるやつ)で
そんなベネさんが、日本に、東京コミコンに、来る……!
それを知ったのは10月20日の事。マッツ・ミケルセン氏のサインチケットを買うか悩んでいやでも大阪で写真撮ったしチケ代安いわけでもないし交通費も掛かるし他の方に譲るか(ああでも大阪で撮った写真にサイン欲しい~!)……と見送った後だった。
この分のお金をベネさんに貢げという事か……ッ!
ベネさんのチケットが販売開始となる11月7日正午。私は震える手で撮影チケットを購入した。33,000円。悔いは無い。ベネさんがコミコンに来る日が来たら絶対行く、と決めていたのだから。チケ代がどうとか交通費がどうとかいう話ではない。来るから、行くのだ。
私がベネさんを知ったのは全くの偶然だった。何か面白い番組がやってはいないかとテレビのチャンネルをぽちぽちと変え、しかし私が好むような番組が地上波でやっておらず、BSに変えた時だった。
一目惚れと言ってもいいだろう。
知性を感じさせる顔立ち。澄んだ青い瞳。特徴的な面長の顔は鋭い表情で横を向いていた。確か、ホームズが推理をしているシーンに出くわしたと記憶している。
途中からであるにも関わらず、私はそのホームズに魅了され、また映像的にも面白く、番組を最後まで見た。
私が見ていたのは『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』という、原作版シャーロック・ホームズと同じ時代を舞台にした映画版SHERLOCKだった。
もちろん私はホームズを演じる彼が誰なのか調べた。ホームズを演じていた彼の名前はベネディクト・カンバーバッチというようだ。彼は他にどんな作品に出て……え!? ドクター・ストレンジ!? これ絶体映画館で見たら面白いだろうから絶対ハマる自信あるしハマったら絶対散財する自信があるけどファンタスティック・ビーストに金をつぎ込んだ後故に金欠気味だから映画館で見るのを我慢したあのドクター・ストレンジ!?
あれを映画館で鑑賞しなかった事は未だに後悔している。あの頃の自分に言ってやりたい。2作目は監督がサム・ライミになって作風もガラリと変わるしあの映像は映画館の、それも3Dで見るのが一番いいだろうから映画館で見てくれ、と。マルチバース・オブ・マッドネスも好きだけどね。デッドストレンジがカッケーんだわ。
という訳で『ドクター・ストレンジ』を借りて見て、それから話の内容全然わからないだろうけどドクター・ストレンジが出てるからという理由で『ソー・ラグナロク』を劇場へ観に行き(人間関係とかてんでわからなかったがそれでも楽しめた)、私の好きな俳優リストにベネディクト・カンバーバッチが載った。
それからもベネさんが出演した映画を幾つか借りて観てみたり、出演作が劇場公開するとなれば映画館へ赴いた。同じ過ちを繰り返さない為に。……いや、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が映画館で公開された時、観に行こうとしたのに上映開始時間に家を出るというヘマを犯した事はある。
また私はベネさんの事を知るたびに、その人柄にも好感を抱いた。彼はまさに英国紳士と呼ぶにふさわしい人だ。真摯で、思いやりがあり、正義感に溢れている。妻のソフィーさんを見つめる眼差しからは、本当に彼女を愛しているのだという事がうかがえる。家では子供からも愛されている事だろう。
だから私は、そんなベネさんに会ってみたかったのだ。
チケットを購入してから時は過ぎ、新しい化粧品を買ったり髪を切ったり何を着るか考えたりしていたらあっという間にコミコン当日がやってきた。12月9日。まだ暗い時間に起床着替え化粧始発で出発新幹線に乗っていざ東京へ……って幕張メッセがあるの千葉県じゃねぇか! 何で“東京”コミコンって名乗ってるんだよ⁉
とにかく私は初めてかと思ったらいつぞやに東京ゲームショウ(お前も似非東京か)の為に訪れた幕張メッセの地を再び踏んだ。チケットを引き換え、撮影会の列に並ぶ。
一人で来た事もあり、並んでいた時は暇かつドキドキしていたのでその時々の様子をノベルスキー分室(ミスキーという分散型SNSに、ノベルスキーというその名の通り小説好き字書きの集まるサーバーがあり、ノベルスキー分室というのはそのノベルスキー内のチャンネルの一つ)で実況していた。「手を握っててくれ」と言えば「ギュッ」という絵文字で応えてくれる温かい人達に見守られながら、私はその時を待った。
やがて撮影が始まり、少しずつ列が進んでいった。ゆっくりと、だが着実に縮まっていく距離。会場内に設置されたモニターに映るマッツ・ミケルセン。どの角度から映されても顔が良いマッツ・ミケルセン。サインに訪れたトム・ヒドルストン。立って手を振るトム・ヒドルストン。みんなで手を振り返したら見えなくなってしまったトム・ヒドルストン。彼とも写真を撮りたいものだ。撮るなら「助けて」をやりたい。ステージを終えてこちらもサインに訪れたマッツ・ミケルセン。ああ、次来た時はサイン貰おう。それっていつだよ。
列が進んでいくに従い、緊張も高まってきた。手荷物を預けたあたりでもう心臓バクバクである。それでも私は脳内でベネさんに言いたい言葉を繰り返した。私はベネさんの青い瞳が好きだ。あの瞳を生で見つめる事ができたらどんなに素敵だろうと考えていた。だから英語で「あなたと見つめ合いたいです」と言おうと思っていたのだ。
無理だった。
撮影ブースに入ると、そこにはベネさんがいた。本物のベネディクト・カンバーバッチだ。本物のベネさんが、撮影に訪れたファンたちと次々に写真を撮っていく。
次々に。
そう。撮影スピードが、速い。思ってたより速い……!
東京コミコンが開催される度にツイッター(現X)で撮影がベルトコンベアだと言われているのを見ていたが、本当に流れ作業のように次々と写真撮影が行われていく。なんという事だ。これでは密かに計画していた“撮影時にベネさんと見つめ合ってベネさんの横顔写真を手に入れよう大作戦”がご破算だ。ベネさんの横顔……! 私だけの横顔写真が……欲しかった……! わかるだろう、ベネさんの横顔の美しさ……! 私は、ベネさんの横顔が……好きだ……!
そんなわけだからあっという間に私の番が来た。
ベネさんの右隣に立つ。近い。デカい。厚底のブーツを履いて身長を盛ってきたがそれでもデカい。流石183cm。ベネさんを見上げていたらスタッフに前を向くよう言われたので慌てて前を向く。ベネさんの手が私の肩を掴……ええ⁉ ベネさんの手が私の肩に⁉ がっしりとした手だ。私も自分の腕をベネさんの背中に回した。ベネさんがもう片方の手で何かポーズを取る。ピースだろうか。私はポーズの事なんて何も考えられず自分の右手は宙ぶらりんの状態で写真を撮られた。
体感約3秒の出来事だった。
“I love you in every universe.”すら言えないまま終わったが(これも言おうと考えていた)、感謝だけは伝えたい。撮影が終わりベネさんから引き離されつつも「ありがとう」だけは伝えねばならぬとベネさんを再度見上げ“Thank you.”と言うと、ベネさんと目が合った。
その時の私にはベネさんしか見えなかった。
ずっと画面越しで見ていた姿が、私が一目惚れしたベネさんの顔が、目の前にある。よく晴れた日の青空を写し取ったかのようなベネさんの瞳が、私の目を捉えて離さない。そしてベネさんはあの聞き心地の良い低音ボイスでこう言った。
“Thank you.”
撮影時間は速かった。言おうと思っていた事も、やりたいと思っていた事も何もできなかった。ベネさんにとって私は大勢いるファンの内の一人にすぎない。それでも私にとってベネさんは大好きな俳優であり、唯一無二の存在だ。ずっと会いたいと思っていた。ベネさんの写真を見て元気を貰う時もあった。そんなベネさんと会って、写真を撮って、ベネさんが“Thank you.”と言った。それは紛れもない事実だ。その一言だけで、私は胸が一杯になった。嗚呼なんて素敵な人なんだ……。撮影ブースを出て自分の荷物を受け取った私は、焼きあがった写真を受け取るまでくるくるに巻いたトレンチコートを抱き締めながら喜びを噛みしめた。
焼きあがった写真を見ると、ベネさんがしていたのはピースではなくドクター・ストレンジのポーズである事がわかった。なにそれめちゃくちゃ嬉しい……! 嬉しすぎる……! ありがとうベネさん……! あの短さで瞬時にポーズ決めるなんて流石プロ……!
時間は本当に短かったからもっと余裕があればよかったのに、とは思うが、大好きなベネさんとこうして写真を撮る事ができたのは一生ものの思い出だ。忙しい中時間を割いて日本に来てくれたベネさん他スタッフの方々にもお礼を言いたい。ありがとうございます。またいつか日本に来てください。
Thank you so much Mr.Benedict Cumberbatch!!
ああああああでも横顔の写真欲しかったああああああ!!!!!!!!!!!
ベネさんに会ってきた みーこ @mi_kof
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