45 好きな服を着る!

「さて、これだけされたら気合入れなきゃね。良い宿選んどくから」

「楽しみにしてるよ」

「それじゃ今日は落ちるね、お疲れ」

「お疲れ様でした」

「お疲れ、織姫姉」

「それじゃ、みんなまたね」


 そう言って、レベル上げと新たな武器を手に入れた姉さんは落ちていった。


「カリン、この後って暇か?」

「え? 特に用事は無いけど」

「ならちょっとデパートの買い物に付き合ってくれないか?」

「うん、良いよ」


 今からやろうとしている事は俺1人だとちょっと心許ない。星奈も一緒に来てもらった方が助かる。


「なんだ、俺も手伝うぞ?」

「今回の件に関してはヤマト役に立たない案件なのでパスで」

「なんだそれ、まあ良いけど。気を付けて行ってこいよ」

「ああ。それじゃカリン、デパートで集合な」


 ◇


 その後、デパートへ赴き星奈と合流した。要件を伝えていなかったので、星奈に質問される。


「ねえ志月、何の用なの?」


 今回星奈を呼んだ理由、それは……


「服が欲しいから色々アドバイスして欲しい」

「なるほど、服が欲しいのね。それなら……え?」


 それを聞いた星奈が納得しかけ、プチフリーズした後に一気に動き出した。


「ええええええ!? 服が欲しいって……あ、女の子でも着れるカッコいい服が欲しいって事?」

「いや、普通に女の子女の子してる奴も検討してる」

「なんでぇ!? 嫌って言ってたじゃん! どういう心境の変化!?」


 星奈がめちゃくちゃ慌てている。なんか面白いな。まあ、実際今までの俺を見ていれば気持ちは分からなくもない。


「え、ついに女の子みたいな自覚が出てきちゃったって事……?」

「んな訳あるか。とりあえずDNA上は家族と血が繋がってる事が確認出来たし、和希との距離感も戻った訳で。別に見た目が変わったって中身が変わる訳じゃないし、だったら目立たないような相応の見た目の方が良いだろ」


 変に意識すると逆に浮く。なら自然な見た目をしていれば目立たずに周りからも注目されないから、そっちの方が落ち着くという理屈だ。女の子モブになりきる作戦。


「うーん……納得行くような行かないような。まあ志月が良いなら私は何も言わないけど」

「ありがとう。女の子の服に関しては俺のセンスは壊滅的だと思うから、頼りにしてるぞ」


 ◇


「これはどう?」

「いや、ちょっと男の子すぎるかな」

「じゃあこっちは?」

「うーん、それもちょっと似合わないかも」

「あ、これなんかどう?」

「それメンズだよ? 真面目に選ぶ気ある?」


 うーん、ダメ出しの嵐。メンズの件は完全に俺が悪いが。


「これは思ったより重症だなあ……」

「そりゃそうだろ。こちとら17年間男として生きてきたんだぞ」


 そんな人間がまともに服を選べる訳無いのだ。だから一緒に来てもらった訳で。


「それじゃあ、私がいくつか候補を見繕うからそれの中で好きなの選ぶのは?」

「それで頼む。思った以上にセンスが無かった」


 分かってたとはいえ少し悔しい。今度勉強しようかな?


 ◇


「よし、こんなもんかな」

「うん。みんな似合ってると思うよ」


 なんとか選び終え、袋を覗き込み買った服を見る。星奈に持ってきてもらったとは言え自分で選んだ服なので、前と違って満足感がある。


「ありがとう、助かった。今後はこれを着ようと思う」

「なら良かった」

「それじゃ、帰ろうか」


 2人で出口へ向かっていると、途中の店の前で星奈の足が止まった。


「どうした?」

「ねえ、今度の旅行で海に行ったりする?」

「え? 分からないけど、行くって話が出たりはするんじゃないか?」

「それじゃ、水着買わない?」


 水着。確かに海に入るなら必要だが……


「水着かあ……ちょっと勇気は居るなあ」

「今買うなら見てあげるよ?」


 確かに、見てもらうなら今しかない。ここは男らしく覚悟を決めるか。


「それじゃ、せっかくだしお願いするわ」

「分かった!」


 ……なんか星奈が活き活きしてるのは気の所為だと思いたい。


「うーん、どれが良いかな……」


 置いてある水着を眺める。多分スク水は論外でNG食らうと思うので諦め、普通の水着を探す。


「ほら、このビキニはどう?」

「肌面積多いからパス」


 流石にそこまで覚悟は決められていない。出来るだけ肌の露出が少ない奴を……


「あ、これなんてどうかな」


 手に取ったのはワンピースタイプの水着。色はシンプルな水色、袖や胸の下などにフリルが付いた可愛らしいデザインだ。


「お、良いんじゃない? ちょっと着てみたら?」

「ああ」


 試着室を借りて着てみる。初めてなので少し手こずったが、なんとか着ることが出来た。カーテンを開け星奈に見せて、感想を求める。


「こんな感じだけど……どうかな?」

「……ちょっと羨ましくなるくらい似合ってる」


 自分でも鏡を見てみると、いつも以上に可愛らしい美少女がそこに存在していた。これが俺かあ……


「……これ、和希に見せたら面白そうだな」

「え?」

「何でもない!」


 つい口に出た言葉を適当に誤魔化す。なんか最近いかにこの体を使って和希をからかおうと意識しすぎている気がする。気をつけないと。


「それじゃ、これにしようかな? 似合ってるみたいだし」

「うん、とっても良いと思うよ」


 その後、星奈の水着を選ぶのを手伝ったりして(どれくらい参考になったかは謎だが、男子の視点が欲しかったらしい)、無事に買い物を終えた。


 ちなみに、星奈の水着を見て「俺より胸小さいな……」とつい口走り怒られたのは内緒だ。

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