43 熊にご用心!
翌日、姉さんのレベルが無事俺達と同じくらいまで上がった。
「よし、そろそろ終わりだな。姉さんもこれでどう?」
「これだけレベル上がれば大丈夫! みんな、ありがとうね」
「じゃ、次はクラフトだな。何が欲しいか、それか何を強化して欲しいかは決めた?」
「あ、その前に1章攻略しても良い?」
「ああ、そういえばまだだったね」
ずっとレベル上げしていたのでメインクエストの進行を忘れていた。とはいえこのレベルなら楽に突破出来るだろう。
「2人はどう?」
「私も大丈夫だよ」
「もちろん、俺も付き合う」
こうして、一行はフーズル森林へ向かう事となった。
◇
「ねえムーン、ここってこの人数でも攻略出来るの?」
「俺達が攻略した時はもっとレベル低かったけど、今の俺達のレベルなら多分大丈夫。そんなに時間掛からない」
実際ギミックも分かっている。一応ランダム要素はあるらしいが、スイッチの位置が変わるとかその程度で攻略手順が変わる訳じゃない。
という訳で、奥へ歩いていた……のだが。
「なあ、前はこの辺で最初のイベント起こったよな?」
「ああ、なんか変だ」
結構な奥へ来てもミカルフとの初遭遇イベントが起きない。確かに初対面の時は焦っていて場所をきちんと把握出来ていた訳じゃないが、ここまで遅かった訳じゃないはず。そう思っていると、星奈が口を開く。
「あの……ちょっと思い出した事があるんだけど」
「ん? 何を?」
「本当か分からないけど、攻略済みプレイヤーがここに来ると低確率でユニークが出てくるって話が……」
そこまで言いかけた時、低い唸り声を上げた大きな熊がこちらへ走ってくるのが見えた。
「カリンちゃん。あなたの聞いた話は本当みたいだね……」
ユニークアイコン付きのゲージとフーズル森林のビッグリズリーという名前が出てきた。……ダジャレかよ。
「全員戦闘態勢!」
思いっきり叫ぶ。別に近くに居るから叫ぶ必要は無いのだが、そっちの方がカッコいい。
「おい、あの熊デカいぞ!」
和希が叫んだように、近づいてくるにつれかなりの大きさな事が分かった、軽く身長5mくらいはありそうだ。PPO運営はとりあえず強敵は元の生物より大きくしておけば良いと思っている節がある。
「よし、私はカリンちゃんあの熊を引きつける! みんなはその隙に攻撃して!」
「了解!」
今回はヒーラーが居ない為充実した回復は望めないので、出来るだけ避けるしか無い。タンクの姉さんはスキル使えばある程度保つと思うが……
「速攻した方が良さそうだな」
「了解」
「今から攻撃しに行く。カリンは遠距離から攻撃、ヤマトは俺が懐に潜り込む直前のタイミングで電撃属性のスキル使って一時麻痺させてくれ」
「はいよ!」
カリンが姉さんからヘイトを奪わない程度に遠距離攻撃を食らわせていく。その姉さんだが、パターンを覚えたのかほぼ防御スキルを使わずに華麗に体を動かしながら攻撃を避けている。タンクのプレイとして絶対間違ってると思う。まあ仕事してるなら良いけど。
「よし、電撃麻痺頼む!」
「あいよ!」
大声で叫びヤマトと連携を取る。ちょうど辿り着く頃にスキルが放たれる。
「よっしゃ、タイミング完璧! 《大斬撃》!」
シンプルかつ威力のある《大斬撃》を使う。特殊属性がある相手にはあまり通らないが、ビッグリズリーに特殊属性があるようには見えないのでまず食らわせてみる。
結果はビンゴ。やはり特殊属性持ちでは無かった。
「よし、こいつ属性持ってないぞ!」
「分かった! 強撃矢使っちゃって良いかな?」
「良いぞ、後でいくらでもクラフトしてやる! かましてやれ!」
強撃矢とは弓だけに存在する特殊な攻撃アイテムだ。基本的に矢は無限だが、特殊矢は消耗品。単純に攻撃力が高い強撃矢は中々の貴重品だが、クラフトスキルさえ上がればそこまでコストを掛けずに量産出来る。
実際は作れるようになるクラフトスキルが高いので現在量産出来るプレイヤーは少ないが、俺には関係ない話だ。
「よーし、出し惜しみせずに行っちゃうよ! 《マルチプルアーチ》!」
「あ、バカ……!」
星奈が《マルチプルアーチ》で複数矢が放たれる。それを和希がバカ呼ばわりしたのには理由がある。
「カリン逃げろ! ヘイト値稼ぎすぎだ!」
「え、あれ? やっちゃった!」
普通弓の攻撃スキルはヘイト値を稼ぎすぎる事はない。じゃないと耐久面が弱い弓使いはまともに攻撃スキルが使えないからだ。
じゃあ何故今回ヘイトを稼ぎすぎたかと言えば、強力なスキルを攻撃力の高い強撃矢でやってしまったというミスが原因だ。
「ごめん! 普段の感覚でやっちゃった! 私の事は気にせずに逃げて。私の意思を受け取って……!」
「何映画みたいな事言ってんだ! 攻撃リソースが減ると困るんだよ!」
そんな事を言っている間にビッグリズリーはこちらに向き直り駆け出してきている。このままだと紙装甲の星奈が危ない。そう思っていると、横から別の影が飛び込んできた。
「カリンちゃーん!」
「え? うわぁ!」
その影は姉さんだった。カリンを飛びついてきた勢いのまま抱きかかえて、そのまま体を捻りカリンを上側にしながら自身が背中側から着地した。
あんな事やったら自分が背中からの衝撃で動けなくなりそうな物だが、しれっと背中に防御スキルが掛けられていた。だからタンクの運用として絶対間違えてるってそれ。
「織姫さん、ありがとうございます!」
「大丈夫、守るのがタンクの役割だから!」
「なんだろう、言ってる事とやってる事は合ってるのに釈然としない……」
愚痴りながら、攻撃をスカって狼狽えているビッグリズリーの首に攻撃を加える。すると、クリティカルダメージが入った。
「こいつ、首が弱点だ! 多分正面からだけだから、顔の真下狙え!」
「んな難しい事言われても……な!」
そう言いつつも和希がスキルを放ち、正確に弱点に当てる。
そして最後に決めたのはやはりというか、さっきやらかした凄腕スナイパーだった。
「決めちゃうよ! 《ストレートスナイプ》!」
矢が真っ直ぐな軌道で突き進み、首元に思いっきり刺さる。そのままゲージは消え、ビッグリズリーは倒れた。……首元に矢が刺さってるのが痛々しい。
とにかく、急に襲ってきた熊をどうにかこうにか倒す事が出来たのだった。
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