42 旅行の提案!

「じゃあ、ムーンが喜ぶとっておきがあるよ」

「え、俺が喜ぶとっておき?」


 一体何を用意したのか、全く検討がつかない。焼肉もう1回とか? まあ、正直ゲーム内で払ってくれても良いんだけどな。今の俺へのクラフト依頼料はちょっと初心者の懐事情にはキツいし、そもそも武器をクラフトで改修するのは初心者脱出してからでもと思うし。一応ドロップ増加とか経験値増加はありだけど。

 そんな俺の心を動かす物って何だ?


「この間テレビでやってるの見て羨ましがってた観光地あったでしょ。私の自腹で旅行に連れて行ってあげるよ?」

「よし行こう今すぐ落ちて行こう」


 あそこ、行ってみたいけど結構高かったのだ。自分にそんなお金は無いしめちゃくちゃありがたい。


「待って待って、それなりの条件はあるよ」

「まあ、内容考えればね。何すれば良い?」

「まず、私の装備のクラフト。それからムーンと同じくらいまでのレベル上げに付き合ってもらおうかな」

「よっしゃそんくらい任せとけ」


 それくらいなら安いものだ。


「あ、そうだ。ヤマトくん、カリンちゃん。2人もこっちに来て?」


 姉さんが少し離れて話を聞いていた2人に呼びかけ、こちらに呼び寄せる。


「どうしたの織姫姉」

「どうしたんですか?」

「今の話聞いてたでしょ? ムーンがお世話になったし、レベル上げ手伝ってくれたら2人も連れて行ってあげようかなーって」


 マジか。というか懐は大丈夫なんだろうか。全く同じ事を和希も考えたようで、質問を飛ばした。


「あの、そのお誘いは嬉しいんだけど、お金とか大丈夫なの……?」

「ああ、私向こうでほとんどお金使わなくて貯金余りまくってるから大丈夫」


 流石、良い大学行って向こうで研究するのは儲かるんだなあ。

 ……いやどうだろ。単に研究以外興味無かったからな気もする。他の人と一緒に何かするのは好きだけど1人だと研究以外何もしない人だし、本当に本人の言う通り余ってるだけかもしれない。まあ、いずれにしても。


「姉さんが良いって言うなら遠慮しないよ」

「あ、もちろんレベル上げは手伝ってね?」

「分かってるって。2人もそれで良いよね?」


 2人に改めて確認を取る。


「そういう事なら、私も参加させてもらおうかな」

「ギルドも今は忙しくないしな。俺も織姫姉が良いなら行く」


 こうして4人での旅行計画が立案された。もちろん、行くのは姉さんのレベル上げした後だけど。


「よし、頑張るぞ!」

「「おー!」」

 

「……レベル上げするのは私なんだけどなー。まあ楽しそうだしいっか」


 ◇


 その後、気合の入った俺達はそのままの勢いで姉さんのレベル上げを手伝っていた。姉さんは『明日からで良いよー』と言っていたけど、高校生では手に届かない観光地に行けるとなれば気合も入るという物だ。


「よし、弾いた! 攻撃して姉さん!」

「う、うん……」


 姉さんの攻撃でモンスターが倒れ、レベルが上がる。


「あの、もうちょい私が戦っても良いんだよ? それにこれじゃ練習にならないし……」

「手っ取り早くレベル上げたいでしょ。戦闘はもう上手いし問題無いって!」


 姉さんが困惑してるのには理由がある。俺達が立てた作戦が『とにかく3人で壁を作って攻撃を受け、反射スキルで怯んだ瞬間に姉さんに攻撃させて経験値を稼ぐ』という物だからだ。これなら基本攻撃は姉さんに行かないから、レベル差のあるモンスターからも沢山経験値が貰える。

 

 実際、姉さんのレベルは今日だけでかなり上がっていた。作戦は成功と言える。ちなみにこの作戦、別に俺達が思いついたという訳ではなく後から入ってきたプレイヤーのレベル上げとしては結構ありがちだったりする。


「いやあ、姫プでレベルが上がるね。織姫だけに」

「ちょっと違う気がするけど……」


 微妙にズレた事を言ったからか星奈に突っ込まれる。


「織姫なら年に1回しか姫プ出来ないな」

「もうちょい手伝って欲しいかなー?」


 ついでに2人も呑気な会話を繰り広げている。


 その後、そんなこんなで緩い空気のままレベル上げは数日に渡って行われ、無事に姉さんのレベルを俺達と同じくらいまでに上げる事が出来た。あともう少しって所。


 さて、もうそろそろ終わるし、何事も無く終われそうで何よりだ! 観光旅行が待ってるぜ!

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