40 初心者案内!
DNA鑑定の翌日、ギルド加入OKの件とDNA鑑定の件を伝える為に会いたいという趣旨のメッセージを送った。すると明日なら大丈夫という返信が来たので、予定に入れておく。
さて、それじゃあ今日は何をするのかというと、姉さんこと織姫の手伝いである。完全な初心者なので、1から教える。
余談だが、旧暦七夕ではちょうど月が半月の形になり、織姫がそれを渡り船に見立てて天の川を渡るという少し素敵なストーリーがあったりする。もちろん姉弟で意識して付けた訳ではないので偶然だ。
「それじゃ最短攻略で! しづ……ムーン、今日はお願いね!」
「口滑らせないでね、織姫……」
こういう所、姉さんは少し危うい所がある。うっかり口を滑らさないと良いんだけど……
「とりあえずタンクの就職クエスト受けて。そしたら街を巡るクエストあるから」
「はいはーい」
姉さんが職業案内所の入り口からカウンターまで早足で駆けて行く。離れて見ていると慣れていないからかわちゃわちゃしていたが、無事受けられたのかまたこちらへ小走りで帰ってきた。
「ねえムーン、このゲーム凄いね! 正直AIなんて……って舐めてたけど、凄い自然でびっくりしちゃった!」
「まあ街中に居るNPCに載ってるのはレベル低いタイプのAIだけどな」
PPOの会話AIはいくつかのランクがある。特に重要ミッションなどで関わってくる人物……つまりゴリラのミカルフなどは高性能な会話AIが搭載されているのでより高いレベルのやり取りが可能だ。
……その第一陣がゴリラって、やっぱミカルフ厚遇されすぎだろ。まあ、見た目とのギャップとその真摯さから色んなプレイヤーから好感を持たれているのを見るに運営の狙いは正しかったけど。
「えー! この先が楽しみだあ……」
「ま、しばらくは出てこないけどね。ほら、案内するから最短距離でお使いクエスト終わらせるぞ」
「ムーン、それじゃ風情も何も無いよ……」
「いや、最短攻略って言い出したのは織姫じゃん。しかもぶっちゃけ本当にお使いだし、後から自由に観光した方がよっぽど風情あるぞ」
「そうなんだぁ……」
姉さんはいまいち納得していないが、ぶっちゃけ就職クエストのお使いの範囲なんてたかが知れてるので後から自分で探索した方が遥かに楽しい。それに、最短攻略ならさっさと済ませて戦闘に慣れた方が良い。
「はい、こっちこっち」
「あっ、待ってよー!」
◇
「あっさり終わっちゃった……」
何やら少し寂しそうな姉さんだが、まだ就職クエストの最初をこなしただけである。問題はここから。
「就職クエストの本番はこっからだ。戦闘しなきゃいけないからPPOでの動きに慣れないと結構大変だぞ」
「何それ楽しそう!」
姉さんが目に輝きを取り戻す。子供か。全力でゲームを楽しめているんだからある意味正解ではあるが。
「それじゃ、雑魚倒しに行くぞ。あんまり泣き言言うなよ?」
「うん、頑張る!」
雑魚にボコボコにされた苦い記憶が蘇る。あそこまでにはされないようにフォローしなければ。
◇
そして、今目の前で繰り広げられている光景はボコボコとは程遠い物だった。
「よっと……えいやっ!」
軽い身のこなしで敵の攻撃を華麗に躱して正確に攻撃を打ち込んでいく。苦戦する様子なんてまるでない。
「なんでそんなに上手いの……本当に初見だよな?」
「え、みんなこんなものじゃないの? 普通にやってるだけなんだけど……」
「その『また俺何かやっちゃいました?』みたいなのやめろ! 上手すぎるわ!」
まさか我が姉にこんな才能が眠っていたとは。人には何があるのか分からない物である。
◇
結局姉さんの腕前もあり、就職クエストは初日にさっくり終わってしまった。
「ああ、疲れた……主に精神的に」
「今日はありがとうね! 助かった!」
「まあ、そう言ってくれるなら良いんだけど……」
本当に助けになっていたから大分怪しいが、とりあえず素直に受け取っておく。
「あ、そうだ。帰りにちょっとだけギルド寄って行く。 ちょっとクラフト素材の在庫確認したくて」
「良いよ! 外で待ってる?」
「いや、中に入ってて良い。適当に寛いでてくれ」
そう言ってギルドの中へ入る。今日は全員集まっていた。今日はというか、集まってない日の方が少ないけど。
「お、こんにちはムーンちゃん」
「こんにちはー」
「あの、そちらの方は……?」
姉さんの顔を知っている和希以外は正体を知らないので、適当にはぐらかして説明する。
「リアルの知り合いで、今日PPOを始めたので案内していたんです」
嘘は言っていない。少し隠しているだけだ。しかし、その後の発言が全てを台無しにした。
「それじゃあ、私からも軽い自己紹介をしますね。名前は織姫、ムーンの姉です。よろしくお願いします!」
「「「……ムーンちゃんの姉?」」」
どうして懸念通りの事をやらかすかなあこの姉は!!
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