39 姉さんと一緒に!

 検査した大学から帰って来ると、姉さんがリビングでやたらデカい箱をいじっていた。買ってきたんだろうか。


 「ただいまー……って姉さん、その大きい箱どうしたの?」

「今日買ってきたの。あ、後で志月も手伝って」

「俺に手伝えるのか、それ」

「出来る出来る。とりあえず今は先に結果を聞こうか」


 なんだか良く分からないが、とりあえず家族全員でテーブルに座り、姉さんに結果を話す。


「DNA鑑定の結果だけど、遺伝子上は間違いなく父さんと母さんの子供だってさ」

「そっかあ……でもそれだと、今度は見た目とか明らかにおかしい、って問題が出てくるよね」

「それなあ。父さんはどう思う?」


 帰り道からずっと難しそうな顔をしている父さんに聞いてみる。


「そうだな……色々考えてはみたんだが、どうしても納得の行く理由が分からない。まあ、人体は専門外だからかもしれないが」

「やっぱり、超常的な現象が原因のせいなのかも……ごめんね志月、力になれなくて」

「大丈夫、仕方ないよ」


 こんなの分からなくて当然だ。父さんと母さんは悪くない。それに……


「今回の検査で父さんと母さんの子供で間違いが無いと分かっただけでも嬉しいよ」

「志月……」


 こうなるまで気づかなかったが、やっぱり俺はこの2人の子供で居たいんだな、と思った。一段落付いたらもっと親孝行しよう。


「でも、私は志月の顔見て安心したよ」

「なんで? 姉さん」

「だってずっと不安そうな顔してたからさ」

「あはは、心配させてごめん」

「本当だよ。後で抱きつかせないと許してあげないぞ」

「それは勘弁!」


 そんな会話をしてみんなで笑いあう。久しぶりに、家族の時間が戻ってきた気がした。


 ◇


 その後、姉さんの手伝いをする事になった。眼の前にあるのは大きいダンボール箱が2つ。片方は少し小さいが、それでも十分大きい。


「……で、手伝いってのは?」

「ああ、まずこっちの大きな方から開けてくれる?」


 言われた通り大きな箱を開けると、ゲーミングPCが入っていた。


「パソコンか。研究用?」

「まあ、そうね。それ以外もあるんだけど」

「それ以外?」

「まあ、すぐに分かるよ。次はそっちの箱を開けてくれる?」


 もう1つの箱を開けると、そこには……


「……ヘッドセットと、PPO?」


 ヘッドセットとPPOのセットが入っていた。


「いやー、志月がやってるって知ったから一緒にやりたくなっちゃったんだよね。しばらくオフの時間が無くてゲームも出来なかったし、フルダイブVRも気になるからいっそこの機会にやっちゃおうと思って」

「なるほどなあ」


 確かに姉さんはゲームが好きだ。まさかPPOに手を出すとは思ってなかったけど。


「という訳で、レベル上げとか色々付き合ってね!」

「え、やだよ。俺ギルドの活動とかもあるし」


 ゲームとはいえ仲間との活動を考えれば時間にそこまで余裕は無い。

「もちろんタダとは言わないよ。やってくれたら……」

「やってくれたら?」

「焼肉に連れて行ってあげよう」

「OK手伝うわ」


 俺は即答した。焼肉が食べられるなら話は別だ。時間に関しては店をしばらく閉めてればなんとかなるだろう。


「それじゃ、これからセットアップとかするから手伝ってくれる? PCは大丈夫だけど、ヘッドセットは初めてだから」

「分かった。任せてくれ」


 ◇


 それから数時間後、一通りの準備を終えた。その頃にはもう夜遅くなっていた為、始めるのは明日にした。


「ありがとね、志月。助かったよ」

「別に、これくらいならやるよ」

「焼肉があるから?」


 そんな風に姉さんがニヤニヤと聞いてくる。分かってる癖に。


「これくらい、何も無くてもやるよ。分かるだろ?」

「うん、知ってて聞いた」


 そう言って姉さんが笑う。こういうやり取りも、久しぶりで懐かしい。


「いやー、志月と一緒に遊ぶのが楽しみだな」

「言っとくけど、結構PPOは大変だぞ? まず体を動かすのに慣れる所からだからな」


 まあ、自分ほどの苦労はしないと思うが。それでも初めてのフルダイブVRに慣れるのに時間が掛かるプレイヤーはそれなりに居る。


「あんまりハードル上げないでよ。初心者には優しくしてね?」

「初心者には優しくするのが当然だけど、姉さんは別。スパルタで行くからな?」


 そう言ってニヤリと笑う。もちろん冗談だ。


「それじゃ、お手柔らかに。そういえば、おすすめの職業とかってある?」

「まあ、今ある職業なら大体大丈夫かな? ソロで遊ぶならヒーラーはおすすめしないけど」


 ソロだとヒーラーだけではほぼ攻略出来ない。1人に優しくないが、MMOである以上避けられない問題だ。逆にヒーラーが1人で戦えるような性能ならバランス崩壊待ったなしだ。


「そっか、なら私はタンクにしようかな?」

「理由は?」

「何となくカッコいいから!」


 なるほど、割と豪快な所がある姉さんらしい。


「なるほどね。まあ、アタッカーに比べると火力は少し落ちるけど、防御系が充実してるから攻略には困らないと思うよ」

「それじゃ、明日からはそれをやろうかな」

「了解。手伝うよ」


 こうして、焼肉に釣られ姉さんをPPOの世界に引きずり込む作戦が始まった。

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