36 加入希望者!
一応元の知り合いという部分は伏せて、神部から家族へ説明がなされる。
「……という訳で、今回の件は少々厄介でして。力及ばず申し訳ない」
「いえいえ、ありがとうございました」
「また何かあればこちらへご連絡ください」
そう言うと俺へ渡した物と同じ名刺を渡す。
「良いんですか?」
「はい。何一つ解決出来てない訳ですし、個人的にもこのようなケースにも興味があるので」
「分かりました。そういう事ならよろしくお願いします」
神部へ頭を下げる。
「それではみなさん、お気を付けてお帰り下さい」
「ありがとうございました」
感謝の言葉を述べて神社を後にした。
◇
「あの神部さんって人、真摯で良い人だったね」
帰りの車内で母さんが切り出した。
「そうだな、特に何も説明せずにこっちの事情を全部理解したのには驚いたよ。良い人に見てもらえたな、志月」
「ああ……」
一応父さんが言った通り、女になった件は神部が全て見抜いた、という事にしてある。実際は細かい所は俺から説明したが、知り合いだからとかその辺が面倒になりそうだったので伏せてもらった。
とはいえ、全てでは無いにしろある程度当ててきたのは驚いたのは同じだ。
神部の発言を思い出す。
『どうにもならなかった場合の覚悟はしておいてくれ』
どうにもならなかった場合の覚悟とはつまり、元に戻れないという意味である。その時は、今後の人生を全てこの姿のまま生きていくという事になる。
「もしそうなったら、俺は女として生きる事を受け入れられるのかな……」
「志月? 何か言った?」
「いや、何でもない。気にしないで」
つい脳内で考えている事がそのまま声に出てしまったので、適当に誤魔化す。
「心配な事があったらすぐに言うんだよ? みんな志月の味方なんだから」
「そうだぞ。どんな些細な悩みでも聞くからな」
「いつでも相談に乗るからね」
そう言ってくれる父さんや母さん、姉さんに優しさを感じて、少し不安が和らいだ。
「うん、ありがとう」
◇
翌日。サムエル……つまり神部からPPOで会わないかというメッセージが入っていたので、了承の返事をしておく。恐らく昨日からの進展の話だろう。
その後、先にやるべき事を片付け、PPOへインする。集合場所へ向かうと、既にサムエルが待っていた。
「お待たせ。待ったか?」
「いや、俺も今来た所だ。昨日の今日で済まんな」
「昨日絡みの話なら、むしろこっちが感謝したいくらいだよ。わざわざありがとう」
「まだ依頼が終わってないからな。それに今回の件、個人的にも興味がある。そんでちょっと話したい事があるから、個室で話させてくれ」
「ギルドじゃ駄目か?」
「個人的な話だからな、2人で話したい」
「了解」
そう言って店へ歩き始める。それにしても……横を歩くサムエルの顔を見上げてじーっと見る。
「……どうした?」
「いや、本当に雰囲気違うなあって。オールバックにして髭生やすだけでもこんなにおっさん臭くなるのか」
「だからおっさん言うなって」
そんな事を言いながら歩いて、近くにある和風の店に着く。どうやら遠い異国の文化の料理が出てくるらしい。まあ、要は和食なのだが。
サムエルが個室を取る。
「2人部屋で頼む」
「了解しました。こちらへどうぞ」
NPCに案内され2人で部屋へ入る。和食らしく畳部屋だ。落ち着いて腰を降ろし、早速本題を切り出す。
「……で、話したい事って?」
「ああ。実は、お前さん達のギルドに入ろうと思ってな」
「ギルドに?」
てっきり昨日から分かった事の話だと思っていたので、意外な内容だった。
「ああ。ムーンの問題を解決するなら、近くに居られるんだからそっちの方が良いだろ?」
「いや、待てよ。わざわざそれだけの為にギルド入るんだったら俺は止めるぞ。そこまではしてもらえない」
いくら何でもそこまでしてもらう訳には行かない。PPOのプレイスタイルにも関わってくるし、プライベートでまで気を遣わせたくは無い。
「もちろんそれだけが理由じゃない。前もそろそろ1人では限界を感じてるって言っただろ? どっちにしろギルドには入ろうと思ってたんだよ。けど俺にはギルドとの付き合いなんてあんまり無いし、だったら一度勧誘を受けてるムーン達のギルドが丁度良いんだよ。それに、腕の良いクラフトプレイヤーも居るしな」
そう言ってサムエルがニッと笑う。
「まあ、そういう事なら……」
「もちろん他のギルドメンバーにも話は通さなきゃならないから、あくまで俺はそう思ってるというように受け取ってくれ」
「分かったよ。後で入れるか聞いておく」
「頼むな。今日の要件はそれだけだ」
とりあえずの話は終わったので、適当に雑談する。
「でも、まさかリアルで会うとはなあ」
「本当だよ。気づいた瞬間びっくりしたぞ」
「そりゃこっちのセリフだ。お前の見た目は目立つし一発で分かるからな」
まあ、その通りである。どうしてもこの姿は目立つ。
「それにしてもお前さんがそんな厄介な問題抱えてたとはなあ。猫被ってるとか言った件は済まなかった、大変だよな」
「事情知らなかったんだから仕方無いって。気にしないでくれ。それに、あんな突飛な話を信じてくれたしな」
「明らかに異様な雰囲気放ってたからな」
だからと言ってそう簡単に信じられる話じゃないと思うんだが、そうでも無いのかな。
「そんなに変なのか?」
「少なくとも俺がやってきた中では1番異様だな。そもそもこんなレベルで取り憑かれてるのに平然と共存してるのが不思議だ」
「やっぱずっと同じ家に住んでたのが関係ある?」
「それは何ともな……関連はしてそうだが。もし気になったり、また何かあったりしたら実際に家を見てやっても良いぞ。その時は気軽に言ってくれ」
「分かった。この先頼む」
これからの事を頼んだ所で、その後は男同士でくだらない雑談を繰り広げた。
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