35 まさかの神主!

「あ、このお団子美味しい!」

「ね、そうでしょ。志月も食べる?」

「2人とも今日の目的分かってる?」


 今日は原因を確かめる為に除霊で有名な神社に来ている……のだが、母さんと姉さんはすっかり観光気分である。

 まあ、有名な神社で色々屋台とかも出てるからテンションが上がるのも分かるけども、結構大事な用事なんだからもう少し緊張感を持って欲しい。


「お、受付はあそこだな」


 父さんが受付を見つけたのでそちらへ歩く。


「あの、除霊をお願いしたいんですけど……」

「分かりました、しばらくお待ち下さい」


 しばらく近くのベンチで待っていると、先ほどとは違う男の人が出てきた。……何か、見覚えがあるような?


「お待たせいたしました。神主の神部と申します」


 そこまで言ってこちらの顔を見た時、何故かは分からないが少しピクっとした気がした。……気のせいかな?


「……本日はよろしくお願いします。除霊をご希望の方はこちらの娘さんでよろしいですか?」

「そうです」

「では、ご説明しますので、本人だけ着いてきて頂けますか?」

「はい」


 1人で着いてくるよう言われたので、家族と別れ神主さんと歩いて奥へ進む。


「すみません、1つ変な質問をさせて頂くのですが、パラレルポータルオンラインというゲームを遊んでいますか?」

「えっ? 遊んでますけど……」


 え、なんで知ってるんだろう怖い。


「いえ、実は私も遊んでいる物で」

「なるほど」


 それなら知っているのも……いやそれでもおかしいだろう。見ただけじゃ分からないだろう。


「ちなみに、プレイヤーネームはムーンだったりしますか?」

「……そうですが」


 ああ、この人俺を知ってるんだ。まあ割と名の知られてる方だから見た目で割れてても仕方ないが、わざわざ詮索されるのは少し良い気がしない。


「あの、ちょっとこれ以上その話は……」


 そう言い終わる前に、神主さんがこちらへ向き直った。


「では、私の事もご存知ですね?」


 そう言うと帽子を外し、手で髪の毛を後ろへ搔き上げた。その顔は……


「……サムエル!?」

「正解。あとあんま大声出すなって」

「あ、すまん。いやでもそれは驚くって」


 そりゃ見覚えがある訳である。あまりにもイメージとかけ離れすぎてて頭の中で結びつかなかった。


「驚いたのはこっちだよ。まさか来るとは思わないって」

「それにしても……サムエルが神主とか、あまりにも似合わなすぎて」

「失礼だぞ、おい」

「というか神主ってゲームとかやるの?」

「偏見が過ぎないか? プライベートってそんなもんだぞ」

「そうかあ……」


 そんな話をしながら個室へ通される。


「で、今日はどんな用なのよ」

「フランクすぎないか」

「今更丁寧に話してもな。こう見えて結構霊感とかには自信あるんだぞ」

「サムエルが言うと説得力無くなるな……」


 なんというか、あの無骨なおっさんとイメージが噛み合わなさすぎる。ゲーム中と違って髭剃ってるし。


「失礼だな。じゃあ当ててやろう。お前、相当な厄介事に巻き込まれてるだろ。ちょっと普通じゃない奴。体に関係したりって所か?」

「……すっご」


 正直舐めていた。ここまでピッタリ言い当てるのか、少し怖い。


「もしかしてゲーム中から気づいてた?」

「いや、流石にそれは無い。ただ実際に会ってからは相当厄介な案件だなとは思ってた」

「そうか……」


 うーん、まあ特殊な事情がある自分としてはむしろサムエルのおっさんの方がやりやすいか?


「じゃあサムエ……神部、今から話すのは大分荒唐無稽な話何だが大丈夫か?」

「おう。その為にやってるんだからな」


 サムエル改め神部なら知り合いな分話しやすいか……それに、既に少しは把握出来てるらしいから全部話しても大丈夫か。そう判断し、全てを話す事にした。


「実は……」


 ◇


「なるほどねえ。お前さん……志月の言動の原因も全て理解したわ」

「で、信じるか?」

「正直話だけ聞いたら信じなかったと思うが、実際に感じたから分かる。本当なんだな……」

「で、どうにかなりそうなのか?」


 本題はここからである。とりあえず霊が関係してるのは間違いなさそうだが、元に戻れなければ意味が無い。


「まず大前提として、危害を加える類の悪霊では無いから安心して良い」

「いや、既に被害食らってるんだけど」

「そういう意味じゃない。要は、この世に恨みを持って取り憑いた奴を殺そうとしたりするような霊では無いって事な」

「ああ、なるほど」


 とりあえず死ぬ事は無さそうで安心する。


「そして、お前が言ってた元々家に住んでた霊が原因なのも間違い無いと思う」

「そうか、やっぱりか……」


 うーん、やはり事故物件。


「何とか出来るか?」

「いや、さっきも言ったがこれは相当に厄介な案件でな。一筋縄では行かないかもしれない」

「というと?」

「体に定着しちゃってるんだよ。だから、無理に引っ剥がそうとすると2つで1つになっているバランスが崩れる」

「そういう物なのか」


 なるほど、2つで1つ。体と魂で分かれてるんだから、直感で理解はしやすい。


「あれ、つまりもう戻れないって事?」

「努力はする。たださっきも言ったように一筋縄では行かないから今日は無理だな。一応色々考えてやってみるが、要観察って感じだ」

「そうか……」


 普通はあり得ない現象だから仕方ないが、やはり簡単には行かないらしい。


「……それから」

「それから?」

「どうにもならなかった場合の覚悟はしておいてくれ。もちろん最大限努力はするが、力になれない可能性はある」

「そうか……」


 極めて真面目な顔をしている神部が冗談を言っていないのは分かる。ここまで言うという事は本当なのだろう。


「これ、名刺。困ったらいつでも電話してくれ。俺への直通番号だ。それかPPOで相談してくれても大丈夫だ」

「……何から何までありがとな」

「なあに、仕事だからな。一度受けた以上やり切るさ」


 神部の笑顔に感謝する。困ったら頼らせてもらおう。


 ――それでも、元に戻れないかもしれない覚悟をしておいてくれ、か……

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