34 お風呂!
「ああ……嫌だ」
「そんなに一緒にお風呂入るの嫌だ? お姉ちゃんの事嫌いなの?」
「どっちかというと嫌いな方がまだやりやすかったかな」
特殊な性癖持ち以外で姉の裸を見てみたいという人の方が稀だと思う。
……それだと姉さんが特殊な性癖みたいな事になるか? ちょっと変な人みたいになってしま……いや元々ちょっと変だから少しくらい性癖曲がってたとしても変わらないか。
「そうだ、こうしよう。姉さんは水着を着るっていうのはどうかな?」
我ながらナイスアイデアである。体を洗う俺はまだしも、少なくとも姉の裸は見ずに済む。
「そんな物持ってないよ?」
「さいですか……」
俺の妙案は一瞬で破壊された。なんで持ってないんだよ。今日帰ってきたばっかりだからか。そりゃそうだ。
「ほーら、諦めて入って」
「イヤダー! シニタクナーイ!」
ギリギリまでの抵抗虚しく無理矢理入らされてしまった。こうなったら出来る事は1つだ。
「俺は姉さんの方向かないからな。ずっと向こう向いてるからな」
「はいはい」
これなら最低限で済むだろう。そう思った直後である。
「それじゃ、私の膝に座って」
「えっ?」
体を抱きかかえられ、強制的に一緒に浴槽に入らされる。そして膝に座らされて、後から手を回して抱きつかれる。
「ああ、可愛いなぁ」
「あの、あのあのあの」
思いがけない行動に口をパクパクさせる。この状況は不味い。確かに姿は見なくても済んでるが、それ以上に姉の体を背中で感じてしまっている。具体的には上半身のお山とか。
「これは流石にっ……!」
「ふふふ、可愛いねえ」
駄目だ人の話聞いてない! 本格的に貞操の危機を感じる。何とか方法を……
「ちょっと離して!」
「えっ?」
一瞬の隙を付いて浴槽から抜け出す。そのまま脱衣所に戻り、白くなる入浴剤を入れてから向き合うように浴槽に入り直す。これで向き合っても体は見えない。
「あのー、もしかして怒ってる?」
「怒ってない、身の危険は感じる」
「ごめんごめん、ついやりすぎちゃった。許して?」
「全く……」
ジト目で睨みつける。限度って物があるだろう限度って物が。
「はあ……そろそろ体洗う。のぼせそう」
「はーい。じゃあまず、普段どうやってるか見せてくれる?」
「あい」
体は丁寧に洗う。まあ、こっちは元々だ。
「ふむふむ、体は股間が少し遠慮がちになってる事以外は問題無いかな?」
「わざわざ分析して口に出さなくて良いから」
なんで気にしてると分かるであろう部分をわざわざ口に出しちゃうのか、もしかして男の自分よりデリカシー無いのでは。
「次は問題の髪ね」
「はいよ」
適当にシャンプーを付けて適当にゴシゴシと泡立てながら長い髪を洗っていく。最後に流して終了。
「どう?」
「アウト」
「さいですか」
どうやらこの洗い方は駄目らしい。浴槽から出てきた姉さんの指導が入る。
「まず、手のひらでシャンプーを軽く泡立てる」
「うん」
「その後、指で頭皮を揉みほぐすように染み込ませていく」
姉さんに手を掴まれ一緒に動かされる。ゆっくりと指でマッサージしていく。
「出来たら、今度は後ろ髪の部分を指で梳かしながらシャンプーを馴染ませていく」
「なんか髪の毛抜けてるんだけど大丈夫?」
「ちょっとくらいなら」
そう言いながら姉さんと一緒に指で髪の毛を梳かしていく。
「これで終わり?」
「まだ。梳かし終わった部分に今度はシャンプーを揉んで馴染ませていく」
一緒に髪を揉んでいく。
「そうしたら、洗い残しが無いようにきちんと水で流す。コンディショナーはシャンプーの逆で毛先から揉み込んで、量は沢山使って良いから。今シャンプーやったし出来るよね?」
「やってみる」
何度もコンディショナーを手に取り毛先から揉み込んでいく。全体に行き渡った所で同じように流して落とす。
「はい、これで洗うのは終わり!」
「これ毎日やるの……? 面倒過ぎるんだけど」
「あ、まだ乾かすのもあるよ?」
「そうだった……」
風呂を出て適当にドライヤーで乾かそうとすると、姉さんに止められた。
「なんだよ、ドライヤーするんじゃないの?」
「まだ駄目。まずぎゅーっと髪を掴んで絞る」
そう言って姉さんが握ると髪から水滴が垂れる。
「その後、タオルで挟みながら水気を吸い取る」
タオルを下から順に当てた事で、髪から水が垂れなくなった。
「はい、これでドライヤーね。櫛で梳かしながら全体が乾くまでやるんだよ?」
「はい……」
全体を櫛で梳かしてドライヤーで乾かしていく。全然乾かないので随分時間が掛かった。そして、ついに全て乾かし終えた。
「はい、これで終わり! お疲れ様」
「つ、疲れた……こんなのやってないんだけど」
「ちゃんとやらないと痛むよ?」
「……ショートにしようかな」
ぶっちゃけロングには違和感しか無いし切るのはアリだ。さっさとそうした方が楽かもしれない。
「駄目。せっかくこんなに綺麗なんだから」
「いや、別に綺麗なのは目指して無いんだけど」
ああ、せめてもうちょい普通の見た目だったらなあ。なんでこんな無駄に綺麗なのか。
「まあ良いや。先上がってるから」
「はーい。私も洗ったら行くね」
こうして恥ずかしいやら面倒くさいやらで長く感じた風呂は終わった。服を着終わった後、改めて鏡の中の自分の姿を覗き込む。
「……確かに綺麗かも」
これまで無かった艶が出て、今まで若干ボサボサ気味だったという事実を認識する。
「はあ……面倒だけど、やるか」
あんまりやりたくはないが、これを維持しないのも勿体ない。明日からはきちんとやろう。
……一瞬思考が女の子に寄ってきている気がしたのは気の所為だと思う事にした。
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