32 テレビ電話!

 その後、一応確かめる為の質問などしてしばらくした後、父さんと母さんが急に帰ってきたせいで来る必要が無くなってしまった和希へ連絡する。


「……という訳で、とりあえず助けは必要無くなった」

「あの決意の約束は何だったんだ」

「仕方ないだろいきなり帰ってきたんだから。文句は父さんと母さんに言ってくれ」

「ま、とりあえず無事そうで良かったよ」

「ああ。もし良ければまた挨拶してやってくれ」

「それじゃ、またな」


 そう言って電話が切れた。なんか悪い事をしちゃったな、今度奢ろう。


「志月ー、夜ご飯出来たよー!」

「はーい!」


 夕飯に呼ばれたのでリビングへ行ってテーブルに着く。


「こうやって3人で食べるの久しぶりだなあ」

「ごめんね、出張ばっかで」

「別に気にしてないから良いよ、仕事なんだし」


 ……まあ半分趣味が混ざってる気もするが。


「本当は志織も一緒だったら良かったんだけどなあ」

「そういや、姉さんは今何してんの? ずっと海外居るけど」


 湊 志織しおり、俺の姉。両親と同じく研究者で、負けず劣らずの変人である。ちなみに海外へ行ってからは2人よりも更に忙しいのか、もう1年半以上再会していない。


「志織は長期研究でずっと忙しかったからね……一応成果が出て今まとめてる最中らしいから、そろそろ1度帰ってくるかな?」

「……そうか」


 嬉しいようなやめて欲しいような。嫌いじゃないんだけどめちゃくちゃブラコンなので若干面倒な部分があるのがなあ。


「そうだ、テレビ通話で姿見せてあげたら?」

「え、いや良いよ」

「良いから良いから! ほら、掛けたからこっち来て!」

「もう!?」


 何故人の言う事を聞いてくれないんだろうかこの母は。まあ落ち着いててもそれはそれで変だが。


『はーい、わざわざテレビ電話なんてどうしたの母さん?』

「えっとねー、ちょっと見て欲しい子が居るんだよねー」


 そう言って携帯の前に無理やり抱き寄せられる。


「あー、そのー……」


 俺がとりあえず説明しようとする前に、姉の黄色い声で遮られた。


『きゃー! 何この子かわいい! 母さんどうしたのこの子? ねえ名前は? 今何歳?』

「……もう少し落ち着いてくれ、姉さん」

『あっ、今姉さんって! ……姉さん?』


 段々顔が不思議そうな顔になっていく。それに母さんが説明する。


「実はねえ、この子志月なの。女の子になっちゃったらしくて」

『へ?』


 不思議そうな顔から信じられないといった顔になっていく。そりゃそうだ。


『ちょっと、母さん大丈夫?』


 うん、まあ言いたい事は分かる。とりあえずここは適当に昔あった出来事を……


「俺が6歳の時」

『……?』

「家で2人きりだった時の深夜、テレビでやってたホラー映画見ちゃった姉さんを世話したの覚えてる? ほら俺が焦ってタオル持ってきて……」

『わーわーわー! 分かったから! 信じるから! それ以上は黙って!』

「何それ面白そう! 後で教えて?」

『母さんは知らなくて良い! 志月、絶対喋っちゃ駄目だからね!?』


 話したら絶対面白そうだが、信じてくれたし姉さんの尊厳の為に黙っておこう。


「まあ、信じてもらえたなら嬉しいよ」

『でもそっかあ、志月がこんな可愛い子に……あ、勘違いしないでね、前も十分可愛かったからね?』

「いや、そこはどうでも良いんだけど」

『よし、決めた! 今週帰る!』

「はあ!?」


 何を言い出すんだこの姉は。いや我が家は俺以外全員こんなんだけども。


「あら、大丈夫なの?」

『どっちにしろそろそろ帰ろうとは思ってたんだ。それがちょっと前倒しになるだけだから』


 なるほど。……いや本当かな。姉は色々とやらかした前例があるので若干信用出来ない。


『という訳で、楽しみにしててね! 私も楽しみにしてるから!』

「はいはい。それじゃ、またね」


 そう言って電話を切る。なんか、周りがみんなあっさり信じすぎて怖い。まあ今回は母さんの口添えが大きかったと思うけど。


「それにしても、元気そうで安心したよ」

「しばらく会ってなかったのか?」

「志月よりは会ってるけど、それでも最後に会ったのは半年前くらいかな? 忙しかったからね」

「そっか」


 姉さんも割と寂しかったりしたのかな。昔は結構寂しがり屋だったからなあ、今は知らないけど。


「それで、友達とは上手くやってる?」

「ああ。といっても慣れないこの姿で外で遊ぶのも……って事で大体PPOだけどな」

「なるほどねえ。母さんも始めようかな?」

「おっ、じゃあ俺もやるか」

「やるのは良いけど2人でやってくれよ。俺は親と一緒に遊んだりするのは流石に御免だからな?」


 流石に親と一緒にMMOはキツい、恥ずかしすぎる。姉ならまだしも……


「なんだ、残念」

「残念じゃない。息子は思春期なんだから理解してくれ」


 母さんに理解を求めていると、父さんが質問してきた。


「ああ、思春期で思ったんだが……」

「どうしたんだ? 父さん」

「その体、何歳くらいなんだ?」


 なるほど、それは自分も気になっている質問だった。


「それが分からないんだよ。多分見た目的に中学生くらいだとは思うけど、それもかなり大雑把だし」

「そうだなあ。もしお祓いしたりしても簡単に元に戻れなかったら、俺が知り合いに頼んで肉体年齢の検査を、してもらおう」

「元に戻れないのは嫌な想像だな……」


 元に戻れないか。……いや、考えるのは実際そうなってからにしよう。


「とりあえず、お祓いに行こう。それで解決するかもしれないしな」

「うん、そうだね。大丈夫だよ志月、なんとかなるって!」

「そうだ。安心して俺達を信じてくれ」

「……分かったよ」


 その力強い笑みは、俺を安心させてくれた。

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