23 離れない為に!

 昨日の事件の後ギルドハウスに戻ってきた俺は、疲れてしまってつい和希に膝枕をしてもらいながら寝てしまった上、ギルメン全員に目撃されてしまうという失態を犯した。お陰で和希と気まずい雰囲気となってしまった。

 ……というより、そもそも昨日買い物へ行っただけで、距離が離れている事は全く解決していない。まずはこれをどうにかしよう。


 ◇


「という訳で星奈、相談に乗ってくれ」

「うん、良いよ。で、内容は?」

「ああ、実は……」


 今はギルドから抜け出し、レストランの個室に星奈と2人で入っている。困った結果、星奈に相談する事にしたからだ。

 こういう相談は信用出来そうだし、リアルでの付き合いがあるのは星奈だけだからだ。


「なるほど、和希に距離を置かれている気がするのが気になってると」

「ああ。急に女の子らしくなって引かれて嫌われた、とかじゃなければ良いんだが」

「そんな訳無いでしょ、そもそも嫌われてたら必死に助けられなかったと思うよ? それに、安心して寝ちゃった志月にわざわざずっと膝枕もしててあげた訳だし」

「でも……」

「大丈夫、そんなに簡単に嫌われるような仲じゃないでしょ? 自分達の絆を信じなって」

「星奈……そうだよな、急に嫌われるなんて事は無いよな」


 少し安心する。俺は和希に嫌われたりしたら耐えられない。それ程、和希は俺にとって大事な存在だ。


「でも、クラフトのお店を手伝ってもらったり、やり取り自体はしてたよね?」

「ああ。けど、事務的なやり取りしかしてないというか。作業指示みたいな奴の他に、ちゃんとした会話をしてないなって思うんだよ」


 実際、業務的なアドバイスこそしてもらっている物の普通の話とかはあまりしていない。以前だったら作業中でも普通に雑談をしていたが、そういった話も何故かしなくなってしまった。


「で、具体的にはどんな風に距離を置かれてると感じるの?」


 具体的に、か。なんとなくそんな気がする、という感情だったので、改めて頭を巡らせ、何があったのかを思い出す。


「うーん……例えば目を逸らされるとか、反応が薄かったりとか。ギルド組んでからもあんまり2人で喋ったりしないし。人数増えたのもあると思うけど、それにしても話してないなあと思って……」

「心当たりは?」


 心当たりか……いくつか思い出してみる。


「ギルドハウス買う時に女の子っぽい事したりした事あったじゃん? あの時に女の子らしい仕草に引かれたりしてさ。思えばあれが最初に具体的に溝を感じた時だったかなあ」

「なるほど、他には?」

「後は……最初にクラフトしたハートのピアス付けた時、顔を逸らされたりしたな」

「なるほどねぇ……他には何かある?」


 後は……ギルドの窓から見ていた件か。


「昨日サムエルにクラフトしたろ?」

「うん、そうだね」

「あの時、なんでかは分からないけど和希が窓からこっち見てたんだよ」

「偶然じゃないの?」

「いや、ずっと見てたから偶然じゃない。その後も心ここに非ずって感じだったし」

 

 星奈は顔を上へ向け悩んだ表情をする。しばらくして、またこっちに向き直る。

 

「和希と具体的に距離を感じるようになったのはいつ頃から?」

「時期は……そうだな……」


 始めてからしばらく、つまり女に変わってからしばらくは特に距離が離れたという事は無かった。確かに困惑こそあったが、元と変わらない距離感で話す事も出来ていた。


「あー、和希と一緒にデパート出かけた後からかなあ」

「……そっか。志月ってさ、あの件結構悩んでたよね? 完全に女の子になったらどうしよう、って」

「え、ああ。そうだな」


 確かにあの時もかなり悩んで星奈に相談した。いつか女の子になってしまうんじゃないか、という心配で。


「きっとさ、和希くんも悩んでたんじゃないかな」

「えっ?」


 虚を突かれる。確かにあの時、自分の事で頭が一杯であいつの気持ちを考えた事は無かった。


「きっとさ、元々男だった志月がどんどん女の子っぽくなっていって、どう接すれば良いのか分からなくなっちゃったんだと思う。私は付き合いが短いからスッと受け入れられたけど、付き合いが長い和希はそんなに簡単に受け止められないと思うし」

「……そう、かもな」


 俺はバカだ。あいつに女の子っぽくなったって言われて、自分の事ばかり考えて。急に親友が女の子になってしまった和希もどうしたら良いのか分からなくなるのは当然じゃないか。


「……距離を置いてたのは俺なのかもな」

「えっ?」

「今までだったらとっとと本人に聞いてたはずだ。どうしてって。けど、俺はあいつが不自然な反応をしてもわざわざ聞かずにスルーしたりしてた。そんなの心配させるだけなのに」

「志月……」


 ちゃんと向き合わないと。俺は変わらないし、例え変わったとしても芯は湊志月だと伝えないと。このままじゃ、本当に離れきってしまう気がした。


「和希と話す。きちんと向き合う」

「そっか。私も協力するよ」

「助かる。もし何かあったらお願いするよ」



 ……さて、そうと決めたら何を伝えるか、きちんと考えないと!

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