24 もう1人は!

「……という訳で、志月とどう距離を取ったら良いか分からなくなった。相談に乗ってくれないか」

「えー……まあ良いけど」


 普段なら相談にも快く応じる私が少しげんなりしたのには理由がある。つい数時間前、その距離を取られていると感じている志月から距離を取られてるという相談をされたばかりだからだ。


「……ダメか?」

「いや、大丈夫。こっちの話」


 まあ、考えようによっては2人の関係性修復にはぴったりのタイミングかもしれない。私は気合を入れ直す。


「それで、何か原因に心当たりは?」

「ああ。多分、デパートに出かけた時だと思う」

「うん」


 こっちもか!本当に似た者同士というか……まあ概ね予想は出来てたけど。


「実はあの日、つい女の子にしか見えないって口走っちゃったんだよ。それが発端なんじゃないかって」

「なるほど。でも、実際女の子に見えるのは事実だし、少しは仕方ないと思うよ?」

「でも志月は気にしてたんだから言うべきじゃなかったんだ……」


 和希が続ける。


「しかも、その後ギルドハウス買う時にあいつが女の子らしい仕草をした時、つい可愛いと思っちまった。そんで、それを誤魔化す為だけに適当な事言って傷つけた」


 うんうん、なるほど。


「他には?」

「あの後、ちょくちょく女の子らしい姿をあいつが見せるようになった。正直、何度も可愛いって思った。けど、あの体になった志月が一番苦しんでるはずなのに、そんな事思っちゃいけないってなるんだよ。だから、その度に直視出来なかったり、けど気づいてない所では目で追っかけてしまったり」

「つまり、要は女の子になった志月が可愛い、けどあいつは可愛いと思われたくないんだからダメだ、そしてそのせいで距離をどう取れば良いか分からなくなった、って事?」

「そうだ」


 ……なんか、予想以上に話が拗れてない?というか、和希の志月への感情が思ったより重いんですけど。しかも可愛いって思ってるのが原因って。もうそのまま付き合えば良いのでは? あ、いやそれは良くないか……


「本人に直接話すっていうのは?」

「今の話聞いて全部直球で話せると思うか? それこそ誰からも男から見てもらえないってなって再起不能になるぞ」

「だよねぇ……」


 とはいえ正直如何ともし難い。志月が可愛い、しかもここ最近女の子らしい仕草とかが加速してるのは事実だし、かと言ってそんなの気にしてる本人に言うのもなあ。


「一応聞いておくんだけど、別に女の子らしくなったからって志月が今までと違う人間になったとか、そういう事じゃないよね?」

「まさか。そんな事は思う訳ないだろ」


 つまり、あくまで女の子らしい仕草をするようになったのだけが問題と。なら……


「やっぱ、直球で伝えるしか無いんじゃないかなあ。女の子らしくなって可愛くなった事に動揺してた、けど志月が志月である事には変わりない、ってさ」

「でも、あいつがそれを受け入れられるかどうか……」

「もうそれはやってみるしか無いでしょ。それに、あんま距離取り続けられると多分志月も悩んじゃうと思うよ?」


 まあ、多分悩むと言うか既に本人から悩んでるという相談を受けたので知ってるんだけど、それは黙っておく。


「そうだな。変に隠してても絶対バレるもんな」

「うん。……そうだ! 明日って暇?」

「え? ああ」

「だったら3人でどっか出かけて、そこでちゃんと話さない? 私も居た方が話しやすいでしょ?」


 というか、2人の話を聞いた限り緩衝材が入らないと確実に拗れる気がする。


「あのさ、2人の事を見てて思うんだけど、確かに志月は変わっちゃったり女の子らしい事をするようになったりはしたけど、やっぱり本質は変わってないでしょ? ほら、例えばギルドハウスの件だってみんなの為に恥を偲ぶっていうのも志月らしいし。庭の件は……まああっちは自分が欲しかっただけだろうけど、それはそれで志月らしいし」


 実際、志月はどうしても欲しい物には割と手段を選ばない……気がする。そう思うのは私だけじゃないようで、和希もそうだな、と苦笑した。


「ありがとう、星奈。明日ちゃんと全部話してみる。フォロー頼む、情けなくてすまん」

「大丈夫だって! こんな事があったんだから情けないなんて思わないよ。友達でしょ?」

「……ああ、そうだな」


 私だって友達2人が拗れる所なんて見たくない。出来るだけの事はやらないと!


「それじゃ、どこ行く?」

「そうだな……落ち着いて話せる場所となると、あそこか」

「あそこ?」

「実は昔良く行ってた崖上の公園があってな。人も少ないし、わざわざあんな所を指定してきたら志月も話の重要性は理解してくれると思う」

「なるほど、分かった。呼んでおくね。……良いなあ、そういう思い出……」


 2人の色んな話を聞いているだけでどれだけ仲が良いのか分かる。この2人の仲が裂けるなんてあってはならない。


「何か言ったか?」

「……ううん、なんでもない!」


 さて、正念場だぞ私。なんとしてもこの2人の仲を修復させなければ!

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