22 悪意に差し込む光!
和希と2人で商店街を歩く。結構人が多く、気づくと離れてしまいそうだ。
「いやー、混んでるな。うっかりするとはぐれそうだ」
「あんま離れるなよムーン」
「ま、最悪メッセで呼ぶわ」
なるべく離れないようにしながら目当ての店に向かって歩く。
「そういやさ、さっきなんでこっち覗いてきてたの?」
「……いや、特に深い意味は無いけど」
いや、絶対嘘だろ。その顔は何かあったって顔だろ。他の奴は騙せても俺は騙されんぞ。
「なあ、なんか最近俺と距離取ってない?」
「そんな事はない」
「あるだろ。なんか口数少ないし」
思えばあの日、一緒にデパートに行った後からだ。妙におかしいし、思い返してみれば喋る機会も少ない。もちろんクラフトで忙しかったのもあるけど……
「気のせいだよ。ほら、店着いたぞ」
「え? ああ」
考え事をしていて気づかなかった。メモを確認し、必要な物を買い込む。インベントリに入らない分は和希に預け、外に出る。
「悪いな。荷物持ちさせて」
「気にすんな。ほら、前向いて歩けよ」
「大丈夫だって」
なんだ、この違和感。いつも一緒に居るからこそ分かる、微妙な空気の違いが気持ち悪い。
「あっ、痛っ……」
「すいません! 大丈夫ですか?」
「あ、だ、大丈夫です。こっちも気づかなくてすみませんでした」
余計な事を考えていたからか、人にぶつかってしまった。何をやってるんだ俺は……
「……あれ?」
和希が居ない。しまった、はぐれたか。まあ良いや、一度1人で頭を冷やそう。メッセ送って集合しよう。
邪魔にならないよう裏路地の入口に立った、その時だった。
「……!?」
いきなり口を塞がれて裏路地の行き止まりまで引きずり込まれ、入口を数人で塞がれた。リーダー格であろう大柄な奴が前に出てくる。
「おい嬢ちゃん。あんたアレだろ、噂になってるクラフトプレイヤー」
「だったら?」
「ちょっとお兄さん達のお願いを聞いて欲しいんだけどねえ。クラフトして欲しいんだわ」
なるほど、サムエルのおっさんが言ってたのはコイツらか。どうやらこっちの見た目で舐めているらしい。
「お前らみたいな奴にクラフトする気なんて無えよ。例えどんだけ金積まれてもな」
「おー、怖い怖い。そんな事言っちゃって良いのかな?」
「別にお前らなんて怖くねえし。PKも出来ないのに」
PPOはFFが実装されてないので嫌がらせレベルの事は出来なくも無いが、それによって死んだりする事は無い。だから、こんな奴らに脅された所で何も怖くない。
「本当にそうかな? あんた、素手スキルは知ってるよな?」
「素手スキル?」
PPOの素手スキルは、ぶっちゃけ弱い。一応実用レベルの物も無くはないが、余っ程愛が無いとやっていけない。
「実はさあ、素手スキルってダメージは与えられないけど、当たり判定はあるからプレイヤーを吹っ飛ばす事くくらいは出来るんだよねえ」
なるほど。確かにPPOにおいてふっ飛ばされるのはかなり精神的に来る物がある。だから脅されるのが嫌なのも分かる。けど、それだけだ。
「一応言っとくが、俺は何されてもお前らにクラフトしてやるつもりは無いぞ。さっさとBANされちまえ」
「……クソガキが!」
殴られて壁に叩きつけられる。ダメージこそ無いが、衝撃で軽く肺から空気が漏れるのを感じる。
「ぐっ……!」
「黙って聞いてりゃつけ上がりやがって!」
散々喋り散らかしてただろうがと言おうと思っても声が出ない。一度立ち上がろうとするも、他の奴にまた殴られる。
クソ、5対1じゃ分が悪い。特に、今の俺は奴等とかなりの体格差がある。なんとか隙を縫って通報しようとする。
「おっと、通報されたら困るんだなあ!」
そう言って蹴り飛ばされ、どんどん隅に追い詰められていく。
「丁度変な噂流されてストレス溜まってたんだわ。体も小さいし、良いサンドバッグだな?」
……コイツら、ヤバい。至近距離で他人から悪意を向けられるのはこんなに怖いのか。体が動かない。このままじゃどうしようも……
「何やってんだお前ら!」
――そこに飛んできたのは、和希の叫び声だった。
「おいおい、王子様の登場か?」
「お前らはもう映像ログ付きで運営に報告済みだ、さっさと失せろクズ」
「チッ……!」
そう言って囲んできた奴らは逃げていった。
「ありがとう、和希……」
「すまん志月! 探すのが遅れた!」
「怖かった……」
全身から力が抜けかけた所を和希に抱きかかえられる。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫。ちょっと安心してくれ」
「だったら、さっさと泣き止んでくれ。説得力が無くてこっちは安心出来ない」
「……え?」
手で顔を拭うと、涙でぐしゃぐしゃだった。全然気づかなかった。
「……少しだけ、胸貸してくれ。今だけ」
「良いぞ」
和希に抱きつき、思いっきり泣きじゃくる。嫌だった、怖かった、助けてもらって嬉しかった――そんな感情が全て溢れ出してぐしゃぐしゃになる。
しばらくして涙が枯れ、和希を離す。
「大丈夫。ありがとう」
「そうか。それなら良かった」
「それから……」
「それから?」
「帰りは、手を繋いで離さないで欲しい」
そうして、帰りは和希と手を繋いで、はぐれないようぴったりと張り付いて帰った。
――翌日、ギルドに着いた後に疲れ果て、ついうっかり和希に膝枕をしてもらいながら寝てしまった所を全員に目撃され、別の意味で泣きたくなったのは別の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます