21 噂!

「おはよう、待ったか?」

「良いや、大丈夫だよ。今日はクラフト頼むな」


 今日はサムエルのおっさんとのクラフトの約束を果たす日である。歩いてギルドへ案内する。ちなみに昨日の素材を整理する為今日も店は休みである。


「良いか、一応ギルドでは敬語で通ってるからそのつもりで」

「ギルドでも猫被ってるのかよ、お前」

「猫被ってるというか……まあ、色々と事情があってな。頼む」

「訳アリって感じだな。気を付ける」


 ここら辺は流石大人って感じだ。助かる。


「よし、ここだ。話は通してある」


 扉を開けギルドへ入る。


「おはようございます。今日は昨日言った通り人を連れてきました」

「おう、サムエルだ。今日はムーンに世話になる」


 一応昨日助けてもらった事、礼にクラフトをする事はギルメンに伝えてある。


「ギルドマスターのルースです。よろしくお願いします」

「私はパメーラ。よろしくー」

「カリンです。よろしくお願いします」

「ヤマトだ。よろしく頼む」


 一通りサムエルが挨拶を終えた所で裏の庭に案内する。庭にはギルド内から出る事も出来る。……というか、ギルドの外の通路を無理やり店として扱っているだけで、本来はこっちが正規の出入り口である。

 クラフト場所へ辿り着き、2人になったのでいつもの口調へ戻す。


「ここが作業所。ここで店をやってるんだ」

「おお、結構本格的じゃねえか。これ棚とかは自作か?」

「大体はな」


 ちなみに作業所は一応簡易的な屋根を置いてあるが、風避けとかは無いので普通に雨風は入ってくる。いつか簡易的なログハウスでも立てられないかと目論んでいる。


「よし、何をクラフトして欲しい?」

「おう、兵士の盾を強化してくれ」


 PPOの片手剣は剣と盾が別装備である。なので、別々に強化しないといけないのだ。


「強化先は?」

「とりあえず上級兵士の盾で頼むわ」

「オッケー、それならやった事ある。待ってろ」


 サムエルから素材を受け取り、手順に従いながら強化していく。何度もやっただけあって手慣れたものだ。作業中にも会話くらいは出来る。


「なあ、ちょっと良いか?」

「ん? どうした」

「何かさっきから視線を感じるんだが」


 視線と言っても、PPOはギルドメンバーか許可したプレイヤーしかギルドハウスには入れない。そして今入るのが許可されているのはサムエルしか居ないので、必然的に視線を向けているのはギルメンの誰かとなる。第1候補はパメーラ。……だったのだが、ハウスメンバーリストを見るとパメーラは出かけているようで名前が無かった。つまり、パメーラではない。え、他にそんな目線向けそうな奴居るか?


「あ、あれじゃないか? 窓からこっち覗いてる奴」

「え?」


 サムエルが指した先、ギルドの窓から和希がこちらの様子を伺っていた。いや、なんでだよ。


「なんでヤマトがこっち見てるんだ……?」

「うーん、ありゃ嫉妬してるんじゃないか? お前の事が好きなんだろ」

「絶対に無い」


 食い気味に即答する。あまり考えたくは無いが、完全に女の子に染まってしまった俺が男に恋をする可能性はゼロでは無いかもしれないが、和希は俺の事を男として見ているんだからそれは100%無い。


「おいおい、断言出来るのか? 兄妹とか?」

「違うけど、ちょっと訳ありなんだよ。まあ深くは聞かないでくれ」

「分かったよ」


 適当にはぐらかしておく。流石に中身が男だなんて言えない。サムエルは多分納得はするが。


「よし、出来たぞ。結構自信作」

「おっ、早速チェックさせてもらうぞ」


 サムエルがステータスをチェックする。ちなみに、クラフトスキルが上がったお陰で+20くらいまでになっている。こんなの普通はかなり金が掛かる。


「いやあ、これは驚いた。正直少し半信半疑だったんだが、こりゃ本物だな」

「おいコラ。失礼だな」

「ま、噂ってのは尾ひれが付くもんだ。話半分に聞いとけよ」


 まあ、それはそうだ。噂なんて大概当てにならない。そもそも噂になってる事自体初めて知ったけど。

 ちなみにギルメンに噂について聞いた所、全員から「知らなかったの!?」と突っ込まれた。こっちは忙しくて外界から隔離されてたんだよ……


「ああ、そうだ。噂が当てにならないとか言った直後に言う話じゃないんだが……」

「どうした?」

「実はな、クラフトプレイヤーを狙った悪質なプレイヤーが居るらしいんだよ。なんでも裏路地に追い込んで無理矢理クラフトさせるとか」

「はあ? 何だその噂。大体そんな嫌がらせ行為してたらBANされるだろ」

「とはいえシステム上はあくまでクラフトして提供した、ってだけだからな。通報もされてるだろうからそのうちBANされると思うが、それまでは気を付けとけよ。特にムーンは腕も良い有名人だからな」

「はいよ、気を付けとくよ」


 一応頭の片隅に入れておく。全く、暇な連中も居たもんだ。さっさとBANされりゃ良いのに。


「それじゃ、俺は帰るわ。他のギルメンさんにも挨拶していくわ」

「はいよ」


 再びギルド内に入り、挨拶した後に出ていくサムエルを見送る。


「それじゃ、また会いましょうね。今日はお疲れ様でした」

「ああ、お疲れ様」


 そう言ってサムエルは帰っていった。……小声でいきなり猫被って怖えなぁ……って呟いたの、聞こえてたからな。


 ◇


 一度作業所に戻り、後片付けをする。


「あ、しまった……」


 昨日はアイテム集めだけで満足して店売りの素材を買うのを忘れていた。仕方ない、それなりに量も必要だし和希に付き合ってもらおう。


「おーいヤマト。クラフト素材の買い物付き合ってくれないか?」

「……ん? 何か言ったか?」

「どうした? クラフト素材の買い物付き合ってくれって言ったんだよ」

「すまん、少しボーっとしてた」

「おいおい大丈夫かよ。疲れてるなら1人で行ってくるけど」

「いや、大丈夫だ。行こう」


 少し不安だったが、付いてきてもらう事にした。


 ――そして、この判断は正しかった。

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