9 スイーツ祭り!

 話をしながら歩き、フードコートへ辿り着いた。


「ほら、好きなお店選んでいいよ。あんまりお高いのはやめて欲しいけど」

「流石に付き合ってもらってそんな高いの奢られる気にはならないから安心してくれ」


 それにしても、ここは甘いのばっかりだ。何を選ぶか迷う。しばらく悩んだ末に、パフェをチョイスした。星奈も同じ店で別のパフェを頼むらしい。


「そんじゃ、ちょっと会計してくるわ」


 自分のパフェは星奈から預かったお金で払い、星奈の分を自分のお金で払う。


「はい、これお釣り。星奈の分は俺が払っといたから」

「え?でも奢り……」

「良いんだよ、今日付き合ってもらったからどっちにしろ何か埋め合わせするつもりだったから。これでチャラって事で」

「変な所で真面目だなあ」


 そういって星奈がクスクス笑う。人が感謝の意を示してるんだから素直に受け取って欲しいんだけどな。


「なんだかんだ言って、志月って優しいよね」

「そうだよ、優しいんだよ俺は。もっと感謝しろ」

「自分で言ったら台無しでしょ。ま、そういう所がらしいんだけど」


 なんか変な所でらしさを感じられた。星奈の感覚はちょっと人とズレてる所があるのであんまり気にしてないが。そうして話していると、スマホの通知を見た星奈が内容を話してきた。


「ねえ、運営アカウントのポスト来たよ」

「わざわざアカウントの通知オンにしてんの? 中毒すぎないか」

「別に良いじゃん。気になるんだもん、ゲーマーとしてすぐ知りたい気持ちは分かるでしょ?」

「ま、それは分からなくもないけどな。で、内容は?」

「明後日、メインストーリー1章開放だって」


 実はPPOのメインストーリーはまだ0章しか開放されていない。というのも、サービスインして数日はフルダイブVRの感覚を掴んで欲しい、という意図とのことだ。実際、数日経ってようやくフルダイブの感覚に慣れてきた! というプレイヤーが多いので運営の目論見は正解と言って良いだろう。


「ふむ。あらすじとかある?」

「えーっと、ちょっと待ってね……公式サイトが混み合っててリロード連打してるから」

「お前な……」

「あっ、出てきた。読むよ」


 呆れ返る俺を他所に星奈が1章のあらすじを読み上げる。


「行くよ。『グラン城下街からカルストン草原を抜けた地にあるフーズル森林。この地には森の精霊が住んでいるとされており、今までは誰も近づく事が無かった。ところが、国立図書館から発掘された文書に封印された宝が存在する事が判明。冒険者たちは宝を求め未踏の森へと足を踏み入れる』……だそうで」

「なるほど、宝探しみたいな感じか」


 話としては結構オーソドックスだ。最初の章と考えたらこんなものかな?


「森林かあ、迷わないと良いけど」

「大丈夫、安心しろ。そこら辺の把握は出来るから信用してくれ」


 自慢では無いがこれまで迷った事はほとんど無い。地理の把握にはそれなりの自信があるのだ。


「それじゃ、今日と明日はメインストーリーに向けてレベル上げでもする?」

「そうだな、攻略には万全を期しておきたいし。けどそうなるとタンクとヒーラーが欲しいな……」


 今の三人はアタッカー2人にウィザードが1人という構成だ。バランスが良いとは言えない。


「一応心当たりはあるよ。けど、志月は大丈夫?」

「何が?」

「いや、志月とは面識ない人達だから、女の子っぽく誤魔化すの大変かなって思って」

「心配ありがとうな、でも大丈夫。どうせいつかは和希と星奈以外とも喋らなきゃいけないし、初対面の人とはどっちにしろ敬語だから」

 

 そんな事を話しながらパフェを食べ終える。元々甘いものは嫌いじゃないけどここのパフェはめちゃくちゃ美味しかったな。また食べに来よう。


 ◇


 そんな訳で翌日。俺は星奈と2人でレベル上げを敢行していた。ちなみに昨日は和希も参加していたのだが『宿題のスケジュールにズレが出てるからやらないとまずい。メインストは集中してやりたいから今日は先に終わらせる。だから入れない、すまん』とのこと。真面目な和希らしい。ちなみに俺は全く手に付いていない。女の子になってドタバタしていたのもあったし。まあ去年も最後に詰め込んでたような気もするけど。


「よし、あともう少しでレベル20!」

「おめでとー、頑張った甲斐があったねー」

「という訳で、次はドウドノシシをソロで倒してみようと思うんだけど」


 ドウドノシシは雑魚モンスターのドノシシの上位モンスターで、序盤ではそこそこのボスである。ユニークのライトロックよりは弱いが、ソロだとまた話は違う。だが、当然ソロで倒せば貰える経験値が増えるという旨味がある。


「ソロでも大丈夫? 慣れない体の動きとか」

「完璧とは言えないけどある程度は慣れた。それにソロで倒せれば一気にレベル20に上がるだろうし、それくらいじゃないとメインストの攻略はキツいだろ」

「まあ、それはそうだね。けど危なくなったら割り込んで助けるからね。いい?」

「大丈夫だよ、過保護だな。ちょっと行ってくる」


 ……と、自信満々に乗り込んだ訳だが。相手の体力こそ3割まで削ったがこちらの体力は2割を下回っている。このままだと星奈の介入不可避だ。


「大丈夫? 入ろうか?」

「良い! 1人でやれる!」


 子供のような台詞を吐く。とはいえ実際の所かなりまずい。相手の動きが意外とすばやく、ヘイトが分散されるパーティでやっていた時と違い動きが遅い大剣使いにとってはかなり不利。しかも定期的に空振っている。

 その後もジリ貧になりつつ体力を削り、溜め技を食らわせれば倒せる所まで追い詰めた。この隙を逃せばそのまま攻撃を食らって一巻の終わりである。極力時間を稼ぐため当たるギリギリの距離で構え、溜め技を思いっきり放ち――


 ――見事に空振った。


 ああ、終わった。吹っ飛ばされる衝撃を想像して思わず目を瞑ったが、想像に反して数秒経っても吹っ飛ばされる事は無く、経験値の入る音がした。

 俺が呆然としながら目を開けると……


「大丈夫かい? 怪我はない?」


 そこには、イケメンが立っていた。

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