7 下着が勝負を仕掛けてきた!
朝食を食べPPOにログインしようとすると、インターホンが鳴った。
『こんにちは、里野です!』
「……今は留守です」
そう言って俺はインターホンを切った。
しかし間を置かず、もう一度インターホンが鳴る。
『居るじゃん!入れてよ!』
「やだよ面倒だ、来んな」
『和希は入れたんだし良いじゃん、ケチ!』
「お前と和希じゃ付き合いの年数がちげーんだよ!」
『良いじゃん!あーけーて!』
「ああもううるさいな、分かった開けるよ、ちょっと待ってろ!」
あまりにもしつこいので仕方なく星奈を出迎える。
「わぁ……本当にそのまんまだ、可愛い」
「だから可愛くないって」
「抱きしめて良い?」
「駄目に決まってんだろ!」
同性と同じノリでやってきてないかこいつ。星奈は割と普段から女子同士でのスキンシップはしてる方だが俺を同じ括りに入れられるのは困る。
「まあ、半分冗談だよ。今日はちゃんと理由があって来たんだから」
「半分は本気なのかよ」
半分とは言ったが正直目がマジだったので本当に半分かはだいぶ怪しい。
「で、理由って?」
「着る服が無いんでしょ?女の子の服を探すってなったらこの見た目の女の子と一緒に居たら和希はやりづらいだろうし、私が選んであげようって思って」
「ああ、なるほどな。それは助かる。というか最初にそれを言え」
確かに和希に服まで頼んだら若干気まずくなるのは分かる。星奈に見てもらえるのは純粋にありがたい。
「という訳で、今日は一緒にデパートね!」
「まあそれは良いんだけど、デパート行くにも服が無いぞ」
「それなら大丈夫、私のお下がり持ってきたから」
「いやちょっと待てよ」
マジか。こいつマジか。平然と自分のお下がり持ってきたぞ、しかもヒラヒラした奴。流石に下はスカートじゃなくてズボンだけども。
「あのさ、俺これでも中身は男子高校生なんだよ?躊躇とかそういうの無いの?」
「いや、流石に男子高校生が女の子の服を着たらドン引きするから貸さないけど、女の子の姿ならおかしくないから別に大丈夫じゃない?」
気にする所はそこじゃないと思うんだけどな。色々とズレてる部分があるのが心配になる。とにかく、星奈的には全く問題が無いらしい。
「あ、下着も持ってきたから。こっちは新品だけど。あと目算だからちょっとサイズ合ってなくても我慢してね」
「え……」
女の子の……下着……。
「女の子の下着……?」
脳が理解を拒んでフリーズしている。そんな物絶対に着たくないんだが。ライトロックにボコボコにされた方がマシだと思うくらいには嫌だ。尊厳破壊にも程がある。
「まあ嫌な気持ちは分からなくもないけど、ちゃんと着ないと駄目。体がダメージ受けるんだから」
「いや、それはそうなんだけど……」
躊躇う俺に正論パンチを打ち込まれる。
「もしどうしても着ないなら私が着せるけど?」
「ごめんなさい今すぐ着ます」
いくらなんでも異性に裸を見られるよりは自分で着た方がマシだ。星奈が出ていき、仕方なく着替えに手を付けた。
まずはショーツ。自分が着るんじゃなければ男子高校生らしく喜んだかもしれないが今は全く喜べる気がしない。というかボスモンスターだ。
覚悟を決めて足を通す。すべすべで密着するのが不思議な感覚で、なんとも言えない気分になる。
次にブラジャー。こっちは更にキツい。ダブルボスじゃないんだから。意を決して着用する。
……これ、精神的にだけじゃなくて物理的にもキツいんじゃないか。多分星奈が目測見誤ったな。とりあえず無理やり着よう。
「星奈……早く行こう、出来るだけ早く」
「え、服とか着せたらすぐでも良いけど……なんで?」
「胸が……胸が苦しい……」
このブラジャー、サイズが合っていない。あんまり苦しいのでもうブラが恥ずかしいとか言ってる場合じゃなくなってしまった。
「ああ、サイズ合ってなかったのね。ごめん」
「良いから早く」
「分かった」
本当はお下がりの女子の服も嫌だったがもはやそんな事を言ってられる状況では無くなってしまったので言われるままにさっさと着替える。幸い上は落ち着いたデザインのTシャツで、下もズボンでスカートじゃなかったのでそこはありがたい。
「デパートまでは歩ける?」
「なんとか。頑張る」
小さくなった歩幅で必死に歩き、デパートへ向かう。下着を売っている店へ辿り着いた時には慣れない体も相まって疲労困憊だった。
「すみません、この子のブラを見て欲しいんですけど。サイズが合ってないみたいで」
「分かりました。こちらへどうぞ」
もう恥ずかしいとかそういう感情が抜け落ちてるので素直に店員にスリーサイズを測られる。それに合ったサイズのシンプルなブラを星奈が持ってきてくれた。
さっさと購入して、少しお行儀が悪いがその場で着用した。これにてようやく苦しさから開放された。
「良かったね、楽になって」
「はあ、これでやっと苦しく……なくなる……」
「ん?何か気になってるみたいだけど、どうしたの?」
ここまで苦しさで気にならなかった事が一気に脳裏に浮かび上がる。シンプルとはいえ女の子らしい可愛らしいデザインの服。苦しさから星奈の腕に半分抱きつきながら掴まった自分。無抵抗で女子の下着売り場に踏み込んだ自分。女の子としてスリーサイズを測られる自分。
それらを自覚して。
「あああああああ〜〜〜!!」
その恥ずかしさから心の中で尊厳が破壊される音が聞こえ、デパートに俺の叫び声が響き渡った。
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