6 巨大なユニークモンスター!

「さっき聞いた話だとこの辺にポップするはずなんだけど……」

「あ、あれじゃね?」


 和希が頭から両手に腕を生やした岩を指差す。確かに他の雑魚とは違うしそれっぽい。表面に所々露出している鉱石が弱点だろうか、特定の場所に当てないといけないのは少し難しいな。

 とはいえ流石に初心者向けなのか大きさは俺の首元くらいまでだ。そこまで大きくないしそんなに苦戦はしないだろう。


「うん、大丈夫そうだな。行こう」

「オッケー、まず弱点狙って先制しちゃうね!」


 そう言ってカリンが鉱石を正確に狙って弓矢を放つ。

 攻撃と同時にカルストン高原のライトロックという名前と、ユニークモンスターであるというマークが表示された。

 露出した鉱石が弱点なのは正しかったようで、クリティカルエフェクトが出た。幸先良く始まった……と思ったのだが。


「なんか地面揺れてないか?」

「うん。攻撃かな?」

「ムーン、カリン、何してくるか分からないから距離取って様子見するぞ」


 和希にそう言われ一度離れる。その判断が正しかった事は数秒後に分かった。


「おいおい……嘘だろ」

「うわぁ……でっかいなぁ……」

「俺、今の姿でアイツとまともにやりあえる自信無いんだが?」


 そこには地面を盛大に突き破り、巨大な今の下半身を露出させたライトロックが居た。


「全然ライトじゃねえ、俺の身長の数倍はあるぞあれ!あそこに潜り込むとか嫌だぞ!」

「お前しか前衛職居ないだろうが。ウィザードは紙装甲だし」

「ごめーん、アタッカーでも弓装備時は防御力下がるの」


 という訳で、前衛は非常に頼りない姿の俺がやるしかないらしい。正直元の体でもこの迫力の奴とはやりあいたくないが仕方ない。こうなりゃヤケでやるだけやってみるだけだ!

 幸いデカい図体に違わず動きは遅いので、殴りつけてくる腕を避けながら近くに潜り込む。一度頭の上を通り過ぎたが、小さい体のお陰で当たらずに済んだ。これが元の体なら確実に頭を殴られて吹っ飛んでいたところだ。何とか少し恐怖を感じるレベルまで密着して大剣を振りかざす。


「よっこら……しょ!」


 初心者の体力と慣れない体の二重苦に耐えつつ、弱点に一撃を叩き込む。クリティカル音が聞こえ、手に鉱石が割れる感覚が伝わってくる。


「よし、入った!」

「ムーン、後ろ!」

「へ?」


 和希の声に振り向くと、ライトロックが自分に向けて拳を振り下ろし、ちょうど自分を体と挟んで潰そうとしてきていた。エグくないか?


「しゃがんで!」


 カリンの声を聞きしゃがむと、頭の上を弓が通過してクリティカルが入る。流石。


「ショックウェイブ!」


 和希も魔法でライトロックを硬直させる魔法を使ってくれたので、その隙に俺は2人の元へ退却する。


「一応、近接攻撃でかなりダメージ入ったな。図体こそデカいが流石に初心者向けか」

「けど遠隔攻撃主体じゃ厳しいね。やっぱムーンに近接攻撃してもらわないと」

「頑張るわ。結構怖いんだけどなアレ」


 なんせ自分の数倍の身長である。確かにVRの迫力を体験させるのには丁度良いけども。

 そんなこんなで何度か同じ要領で攻撃を繰り返し、体力が残り3割くらいになった時に岩の破裂音と共に行動変化があった。


「うわ、アイツ動きが早くなったぞ!」

「その代わり全体的に体からボロボロ岩が崩れて軽くなってるみたい。特に頭はかなり鉱石が露出してるし」


 なるほど、攻撃が激化するのと同時に装甲などが剥がれて弱点も増えるのか。今回で言えば鉱石を沢山露出された頭だな、覚えておこう。……問題は、だ。


「あれ、どうやって攻撃届かせるんだ……?」

「多分、近接するなら体を登るしかないな。頑張れ」

「いや頑張れじゃないんですけど!? あれに登れってか!?」


 冗談じゃない。あんなのに登らされるとか命が保っても精神が保たない。潰されるかもしれない恐怖と戦いながら巨大な岩石に登りたいバカがどこに居るのか。


「大丈夫、私とヤマトでこっちにヘイト集めておくからムーンは後ろに回り込んで背中から登って」

「あーもうやったらぁ! 支援頼むぞ、絶対だぞ!」


 半分ヤケクソになりながら後ろへ回る。宣言通り向こうにヘイトは向かっているようで、残り2割ほどまで体力が削れた所でダウンが入る。今だ。

 背中にしがみつき、なんとか肩まで登り、バランスを崩さないように必死になりながら一撃を加える。すると思ったより強烈な一撃だったのか残り1割ほどまで削れたので、なんとかもう一撃加えようとする。

 そして次の一撃を入れた瞬間……肩から落ち、後ろから質量相応の重さで倒れ込んできたライトロックの背中に吹き飛ばされ、後ろへと不様な不時着を遂げた。


「おいムーン、大丈夫か?」

「大丈夫ー?」


 PPOは戦闘不能になっていない限り戦闘状態が解除された後は自動的にHPが回復する仕様である。そして、手に入ったアイテムのログと回復していくHPがそれを示している。しかし……


「あー、もう最悪だよ……」


 大の字で空を見上げているこの状況が果たして無事だと言えるのだろうか。勝つには勝ったが何か大事な尊厳を失った気がする。


 こうして、俺たちの初ユニークモンスター討伐は終わったのだった。


 余談だが、後日調べてみると行動変化後のライトロックへの正攻法は『腕を破壊して倒れ込んできた所で頭に攻撃を畳み込むべし』、だそうだ。つまり、わざわざ怖い思いをしながら必死こいて登ったり吹っ飛ばされて大の字に転がった俺の努力は無駄だったのである。


 ◇


 必死こいてライトロック倒した翌日。朝食を食べPPOにログインしようとすると、インターホンが鳴った。


『こんにちは、里野です!』

「……今は留守です」


 そう言って俺はインターホンを切った。

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