第2話

「で、なんで俺に打ち明けたんだよ」

「んなの決まってるだろ、お前が無二の親友だからだよ」

 達也は缶コーヒーを傾けながらそう言った。俺は照れてそっぽを向いた。

「真美ちゃんには言ってないの?」

「真美? 言わないよ、あいつ信じないだろ」

「ふぅん」

 なんとなく優越感を感じて俺はこそばゆかった。彼女よりも親友を選ぶのか。

「なぁ」

 達也は立ち止まって言った。

「ここじゃない世界が見たくないか?」

 俺は達也を振り返って言った。

「見たい」

 俺は自分の青春を愛していた。だから、別に執着する必要もない。気がついたら、俺は宇宙空間に漂っていた。

「達也」

 達也がすいと泳いできて、俺の隣に並んだ。

「どこに行きたい?」

「達也の故郷」

 迷いのない俺の言葉に達也は驚いたみたいだった。

「……マジか。遠いぞ?」

「いいよ」

 達也は俺の手を引いて、左手を前に突き出した。目の前の空間がぐにゃりと歪んで、穴のようなものが出現した。僕達はそこを通った。しばらく泳いでいくと、赤い星が見えてきた。

「あれが達也の生まれた星?」

「そうだよ。昔は地球に似た青い星だった」

 達也は一体何歳なんだろう。俺は彼の横顔を見ながら、そんな場違いなことを思っていた。

「今はもう住めない星さ」

「……そうなんだね」

 ふいに、僕の目の前に炎が上がった。次々とビルディングを飲み込んでいく。戦争があったのだと思った。

「だから地球に来たの」

「そうだよ。もう何十年も昔からね」

「達也って何歳なの?」

「優に百年は生きてる」

「ずっと地球で生きてるの?」

「ううん。色んな星を渡ってきた。でも、地球が一番落ち着くなと思って、そっから動いてない」

「そうなんだね」

 じんわりと嬉しくなった。

「落ち着ける場所を見つけられたんだ」

「そうだよ。で、悠と出会った」

 なんとなくしんとした気持ちになって、僕は目の前の星を見つめた。

「こんなこと言ったらだめかもしれないけど」

「いいよ」

「こういうことがあったから、僕は達也に出会えたんだね」

「そうかもな。悲劇がいいことを生むこともあるのかもしれない」

 目の前の映像が逆再生されて、緑豊かな風景が広がった。

「俺は特別な体質だったんだ。他の誰とも違ってた。超能力を使えたから、俺だけ助かった」

 身の千切れるような孤独に一瞬触れた気がした。

「誰も救えなかった。誰一人として」

「……それは辛かったね」

 俺は達也の苦しみの全ては分からない。ただ想像することしかできないけど、俺は達也の手を取ることができる。

「でもこうやって、性懲りもなく生きてる」

「それでいいよ」

「それだけでよかったんだ。誰かに痛みを共有してもらうなんて、そんな贅沢までは欲していなかったはずなのに」

 達也は孤独でいるのに疲れたのかもしれない。

「話してくれてありがとう。達也の秘密を知ることができてよかった」

 達也は俺を見た。孤独が溶け出しているといい。星が一筋、達也の瞳を流れた。

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