彗星の夜

はる

第1話

「達也ぁ、当たったよ」

 当たり棒を隣にいる男、高堂達也に見せると、彼はにやっと笑った。

「もう一つもらってこいよ」

「でももう腹いてぇ。食べて」

「え、いいの?」

 駄菓子屋のおばちゃんからソーダアイスをもらってきて、達也に渡した。

「ラッキー! センキューな」

 がりっとアイスを齧る達也。じりじりとした熱線が、駄菓子屋の外のベンチに座る俺達の肌を焼く。

「あっちーな」

「それな。ったく、いい加減にしてほしいわ」

 アイスを食べ終わった達也が立ち上がって、ううーんと伸びをした。

「今年の夏、なんかおかしくね? 異常に暑いわ」

「確かにな」

 確かにこの夏はおかしい。40度近い気温の日が何日も続いていた。ニュースは地球温暖化と絡めて解説していたけど。

「……それだけが理由なのかなぁ」

「ん? 何が」

「や、暑いのって、温暖化のせいなのかなって」

「どうなんだろうな」


 気候操作の技術については、今や公然の秘密となっていた。他国が日本を疲弊させるために気温を上げていたとしても、なんの不思議もない。

「変な世の中だよ全く」

 達也はゴミ箱にアイス棒を捨てると、俺を振り返って歩き出した。俺もその隣に並ぶ。

 達也は背が高い。前身長を訊いたら176センチあると言っていた。対して俺は160センチ。下手したら女子より小さい。他の友達からは「凸凹コンビ」とからかわれた。

「また身長伸びたんじゃね?」

 と訊くと、達也は苦い顔をした。

「そうなんだよ。別に伸びる必要ないんだけど」

「言ってみたいよそのセリフ」

 燦々と陽の光が降ってくる。燃え立つような道を二人で歩く。何度も繰り返した行動は、これからも続くと確信できた。

「今年、夏休みないとか正気かよ」

「仕方ねぇよ。エアコンが強すぎる」

「付け替えなくて良かったのに。第一、学校までの道が暑いんだよ」

「そう言ってくれよセンコーに」

「我慢しろって言ってた」

「はぁ〜……」

 高校二年の夏はなんでこんなにゆっくり過ぎていくのだろう。それでいいんだけど。平穏な日常を俺は愛していた。

「悠」

 達也がこっちを見てきた。

「何?」

「俺、お前にまだ言ってないことあってさ」

「うん」

 なんだろう? なぜかこのタイミングで、蝉の声がふっと静まった。

「俺、宇宙人なんだよね」

「……はぁ」

 なんだそんなことか。……ん?

「宇宙人?」

「そう」

「宇宙人って、あの? 宇宙から飛来してくる?」

「そうなんだ」

「……はぁ!?!?」

 平穏な日常がガラガラと崩れていく音がした。

「もしかして暑くて疲れたか? ちょっと休んでく?」

「いや、マジな話」

「そうか……」

 俺は眉間を押さえた。

「それ、俺以外に言ってる?」

「いや誰にも。親さえ知らない。ほんとは親ですらないんだけど」

「マジか……お前のご両親、いい人なのに……」

「……信じてくれるのか」

「そりゃな。お前のそういう眼は嘘ついてない時のだし」

「悠……」

 感激して抱きついてきそうだったのでさっと身を引いた。

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