第21話 校外学習①
校外学習当日。
眠い目をこすりながら、黒瀬さんと、お知り合いになった。太鳳美音ちゃんが、黒瀬さんと虎走さんを連れて、一緒の席に座ってくれた。ナイスミラクル。
「ともえさん、本当にさっぱりしたな」
美音ちゃんが、子犬のように笑顔になる。
──美音ちゃんは、凜華の好きな人。
隣のクラスだから、あんまり逢わないけど、凜華の友人だからと、中学時代から私とも仲良くしてくれる。凜華がブスっと横にむいていても、慣れた様子だ。とてもいい子だから、凜華が好きになるのもわかる。
「真緒さま、お水持ってきましょうか」
「太鳳もゆっくりごはん食べて」
「はい♡なんておやさしい♡」
語尾にハートが見える。
「太鳳、奴隷にでもなったの」
「凜華にはわからない崇高な志があるのだ!」
美音ちゃんはどちらかと言えば、クールな才女なのだけど、凜華の前では斜に構えた嫌味を繰り出す。それは凜華が、ツンを発揮するからなんだけど。私から見たらふたりは、赤と黒のポメラニアンに見えるのだけど。
美音ちゃんは凜華の心にもない悪口にポンポンと言い返しつつ、黒瀬さんの前ではまるで愛玩動物。「真緒さま♡」、黒瀬さんが言うことを、より良いように解釈して、黒瀬さんを常に持ち上げるみたいな感じで、今までのクールな美音ちゃんはどこかに行っちゃって、一緒にいる
これは……つまり、凜華の言うとおり黒瀬さんが魔王の生まれ変わりなら、美音ちゃんは、魔王軍幹部──、配下として転生した……ということかな。
「凜華さん、太鳳を独占しちゃってごめんね」
「!」
あっ。それは、凜華にはクリティカルヒット。
美音ちゃんは「私がお役に立てている」と感動しているし、凜華はもう何を叫んでるんだが……あまりの感情の乱れぶりに、思わず笑ってしまう。
黒瀬さん、きっと天然なんだろうな。というか、本当にいい子で、純粋で、学校のために動いている理想の生徒会長って感じで、好感しかない。
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ご飯を食べ終えた自由行動時間。結構覚醒してきた。
「全部演技で、太鳳をだましてるかもしれない!百宮さん、その辺りも探るべきとおもう」
「……ええ、絶対に黒瀬さんを凜華さんに認めてもらうね」
ディアを討ち取った話を聞いたあと、百宮さんの笑顔は少しぎこちなくて、こちらが心配してしまうぐらいだけど、まるでひとりで先んじて危険な魔物の巣穴に入る時みたいに真剣な眼差しで黒瀬さんの元へ急ぐ。自由行動デートくらいに思っていいのに。
黒瀬さんと合流した百宮さんは、野生のリスを腕に載せて、楽しそうにしててホッとした。リスってあんなに懐くものなんだ?同じリスのようなものだから??……病原菌とかは、勇者だから大丈夫なのかな。
あとをつける凜華に、黒瀬さんのよいところを言ってみる。
「……」
あまりに黒瀬さんを褒めるばかりだから、凜華のご機嫌がどんどん斜めになっていく。面倒くさいな。凜華はふたつに縛ってて、えりあしがみえてかわいいとか、今日はそんな話題をしているだけの浮かれた校外学習日でいいのに。
「やめない?」
問うても言い訳をして、凜華は百宮さんと黒瀬さんのデートを覗き見てる。
もう、魔王とか、どうでもよくない?多分さ。
「ねえ私バカだから、よくわかんないんだけどさ」
「なによ」
「凜華は美音ちゃんが変わったことが、さみしいだけじゃないの?」
「!!」
私も、凜華にクリティカルをお見舞いしてしまった。
いつもの……──凜華が大好きな、美音ちゃんに、私なんかより、そばにいてほしいだけなんでしょ。
「……みんなして黒瀬、って!私は!」
「わ~~ともえ様、ここにいる~~~!!!」
凜華がなにか言い返そうとした瞬間、棒読みの声が響いて、ハッとした間に、私は女の子数名に囲まれた。
「ともえ様♡食後の運動をしませんか?」
「ともえ様、読書がお好みですよね♡」
モテてる……「様」ってなんだ。でもなんか、今日のやつは、女の子同士、どちらが相手より長けているかのけんかしてるみたい。彼女たちが競い合って得られる、トロフィーガールが私、みたいな。
凜華はプイッと横を向く。いつもなら、女の子を見張っていてくれる凜華がいないからもみくちゃにされた。
百宮さんと黒瀬さんも、遠くへ行ってしまった。これじゃあ、尾行なんてもう無理。
遠くで、凜華が言うには、白い羽の魔力を持っている虎走碧さんが「ともえ様ヨ~~」なんて言っている。
もしかしてさっき、知り合った時になにか悪い印象を与えたのかも、いや、尾行してるのを見られたのから?黒瀬さんを守るために、虎走さんも奔走しているのかな。
木漏れ日がゆれる。本当なら、楽しい校外学習じゃないのか。
そりゃ、人類の存亡をかけた一大事なのかもだけど。
私は……凜華にひどいことをいったことをすぐさま後悔していた。大事にするって思っているのに、どうして拗ねたようなことをいっちゃったんだろ。もしもいま、世界が滅んだら、そのことを一番後悔するだろう。
いつもみたいに、そばにいてよ。
左側が寂しくて、5月の陽気は暖かいのに、寒い気がした。
凜華はよく、左側にいるけど、教室の席は右側。もしかして、ほくろのあるほうで見つめろってのは、恋愛感情が無くても、右目で見つめられたらドキドキしちゃうって意味だったりして……!
この状況で考えることか、──バカだな!片思いは!!!
凜華に視線を送る。
いつもなら、こっちを見てくれるのに、振り向きもしない。
気付いてて、わざとなんだろうな、……。
周りの女の子たちがキャッキャと私に抱き着く。
本当に好きなら、触れるのも、緊張して、ドキドキしてしまうんじゃないの?
──。
凜華から目をそらして、私の左側にいた女の子を凜華だと思ってじっと見つめる。真っ赤になっていく。
「え、あの、ともえさま?」
「……」
むなしい。私はぐずぐずと、凜華のことを考えているだけなのに、ごめんね。
……凜華のプロデュースのおかげで、私の周りに、暖かい人たちばかりになっても、そこに凜華がいなければ、私は、すごくさみしい。そばにいるって言ったのに。
(女の子、難しい)
私含む女の子全般の話。男子もこんなふうに悩むのかな、悩むんだろけど。
でも、ひしひしと思う。女の子、難しくない?むずかしいよ!!
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