第19話 結晶石
数日後の校外学習で二クラスずつ行われることを知った凜華は、黒瀬さんのクラスと一緒になったことを知って、がぜん、張り切ってた。
どのくらい張り切ってるかと言えば、出会って数日の百宮さんを引っ張って、私のマンションで作戦会議をするくらい。
ほとんど知らない人の家に行くなんて、怖いだろうに、百宮さんは物怖じしない。冒険者であり、勇者のアルだから?
さすがに三人いると、手狭な感じ。私はお勝手に立って、簡単なパスタを作った。今日は木曜日の夜。
「明日の校外学習、決めるわよ」
凜華は計画が大好きだ。それを参加者に言わないのがダメなところだけど、「計画8割」と言い切る。校外学習は、森の中でカレー食べたりする日。私はホント面倒だなって思うんだけど、女子校だからか、みんな遊びに行く感覚で、楽しみにしてる人は一定数いるみたい。
『バスの中で黒瀬さんの警戒を解き(百宮さんの仕事)』
『自由行動の時に全員で黒瀬さんから結晶石の半分を貰う』
凜華の字を眺める。
そんなにうまくいくかなー?
「私が持っててほしくて、渡しただけなのに」
百宮さんは、困ったように言う。そうだよね、持っててって言ったものを、返して~なんて言いづらいよね。私も凜華にプラネタリウム返してって言われたらヤダっていうよ。
「そんなのかんたんよ、親が返してって言ったから~とか、新しいお守りを渡したらどう?もしも返さなければ、あっちにも何か思惑がある、試金石にもなるでしょ」
「はあ、凜華さんは、天才だ」
百宮さんはなにか納得したようにうなずく。まあ、どうしてもって気持ちを汲み取って手離すのは、あるよ、好きな人のお願いならさ。
黒瀬さんがすでに百宮さんを好きって前提でお送りしてますけども!
「ところでさ、その石ってなに?」
透明な水晶?をみる。
「ともえ、まさか、覚えてないの?」
「あー、凜華の悪いとこ出てる。説明を省きまくって、わかってない人に自分でわかるまで考えなさい!ってするやつ」
「……!」
赤い顔で横を向く仕草は可愛い。こういう、突っ走る凜華は、誰かの心配をしてる時。私が、あまりにも、ディアとアルの悲恋に傷ついたからかな。でも、他の人には荒っぽく見えちゃうだろうから、百宮さんに嫌われないか、心配になっちゃう。百宮さんをチラッと見ると、真剣な表情で真面目に凜華と私を見ていた。こちらを見て、ニコリと笑う。今世でも光属性なのかな。
「この結晶石。水を魔法で固めただけのモノなんだけど、私とアルで作ったモノなの。この中に、魔族を寄せ付けない魔法を入れてあったのよ。彼女が魔物だって知らなかったから、ディアへのプレゼントだったんだけど」
つまり魔よけのお守りみたいな?
「今はだいぶ変異していることだけは感じる……もう片方と再結晶化ができればいいってことだけはわかるけど、今の私には、精査する技能がない。王の管理する図書館の本に書いてあったはずなんだけど」
凜華が悔しそうに、本の内容を思いだそうとしている。凜華なら頑張れば、思いだしそう。
「たぶん、この結晶石がキッカケで私たちは記憶を思い出した。魔力が発動条件だったはず。再結晶化には、さらに魔力が必要になるから、何とも言えないけど。たぶんすごいオーパーツよ」
「オーパーツ」
なんだそれは。私、実はファンタジーそこまで詳しくないんだよね。
「この時代にありえないものってこと!あの世界のモノよ」
「ええ!?」
あの世界って、ジルとかエストが生きてた世界のモノってこと!?
「もしかして、地続きなのかな?何千年も前、この地球も魔族と人間にあふれてて、的な……」
思わずナレーションのように叫ぶ。
「考えられる。私たちの努力のおかげで魔族が淘汰されて、人間だけの世界になったのかもね。その中で、この結晶石だけは、脈々とアルの血族に受け継がれて……今、この地にあるのかもしれない」
怖いこと言う。もしも、黒瀬さんたちの復活が、魔族の復活だとしたらさ、また人間たちが、今度は逆に淘汰されたり……まあ、今考えなくていいか。
聞いていた百宮さんも、怖そうにこちらを見つめて口を開いた。
「結晶石は、親が私にお守りがわりにくれたもので、もう一個は、姉が持ってるよ」
「え?!お姉さんに連絡して、取りよせることはできる!?」
「やってみる。じゃあ、黒瀬さんは」
「そっちも、お願い。百宮さんに頼みたいのは、それだけよ」
凜華は本当に、先走るなあ。もう少し段階を踏むものじゃない?レベル上げをしてから魔王に挑むでしょ、普通。現代って、LVあげはどこですればいいんだろうね?
私は、みんなが食べきったパスタのお皿を洗うために、立ち上がった。
百宮さんが、残りの洗い物を持ってきてくれたので、お礼を言う。コーヒーを飲むか問うと、百宮さんは甘いカフェオレしか飲めないんだって、かわいい。牛乳は帰りがけに買ってきてた。ひとり暮らしの冷蔵庫は簡素なものだ。
私はインスタントコーヒーと砂糖を練って、お湯でときながら、鍋で温めている牛乳の淵を眺めて、百宮さんに問いかける。
「百宮さんは、どこまで覚えているの?ディアのこととか」
「……エスト、じゃない、ともえさん」
ニコッと笑う百宮さんは、凛々しく誠実。昔のアルはどこか子どもっぽく我儘だったから、やっぱ育ちで、性格が少しずつ違うんだなって実感した。
「この結晶石が、ジルたちと作ったモノってことは覚えてる。それから、ディアが魔王ってことは、まだよくわかってない。とにかくすごく好きで……大事に思ってたディアに、この結晶石を渡した日の記憶も」
「!」
「それ、どうなったの?」
凜華が、百宮さんに問いかける。
「……ディアの変化が解けた。たぶん、あの結晶石に、魔力を吸われてたのかな?ほとんど私たち人間と変わらない、弱い魔物だと思っていた」
「……この結晶石には、魔王の魔力すら閉じこめる力があったってこと?」
凜華は、たぶんそこじゃない部分に食いついてる。
私は、魔物だってわかった後のアルも、ディアと交流があったことに驚く。魔物がいれば、すぐ倒していた、あの勇者が。
「アルは、魔物のディアもすきだったんだね」
「……、うん。ディアは、すごく孤独で……、その孤独が、魔王のモノだとは思わなかったけれど、私のちょっとした行為にすら感動して、心を許してくれていた。……ディアは羊さんの魔物で、黒い角と耳がついていて、耳がぴくぴくしててあったかくて、すごく可愛いの」
「……ふふ」
途中から、ちょっと惚気になっていたことに百宮さんも気づいて、ハッとする。
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