第18話 魔王
「百宮さん」
声をかけると、百宮さんは、お礼の意味も分からないようだった。そうだよね?私だけじゃないよね!?
でも一緒に登校しようってお願いしたら、ついて来てくれた。やさしい。
凜華の後をついていく。
私も、百宮さんも、わけがわからない感じで、凜華だけが道を知っているみたいな気持ちになる。路地裏を通ると、本当に学校へ行くか不安になったんだろう、一緒にいた女生徒たちはいなくなり、三人だけになった。
「長い旅を一緒にした仲間なのに、まだわかんないの?」
「?」
私も、百宮さんと同じ顔になる。わ、凜華、まってまって!
「凜華、説明を飛ばさないで」
「私は大和凜華、ジル・アカデミア。与猶ともえ、エスト・リアージュ」
「もう!」
そういう自己紹介をしろってことじゃないのに!
百宮さん、ぽかんとしてる。凜華は私を恨めしそうににらむけど。
ごめんね、凜華の初見って、結構きついよね、本当にいい子なんだ、誤解されないといいなと思って、百宮さんを見つめた。
私たちをまじまじと見る百宮さんの表情が、暗いものから、ぱぁあああっと明るくなっていく。
「ジル!エスト!!!」
旧友に逢った時のような、華やかな笑顔だ。
「!」
「ほらね」
ドヤっと笑う凜華に、「強引すぎる」と唸った。
でも強引でよかったんだ、百宮さんも、私たちを覚えていたってことは、つまり、彼女も記憶を保有している。
「だってアルは見た事しか信じないから。顔もまんまだけど、さっきの動きで確信したわ、あなたはアリューシャ、勇者よ」
「ほんとに勇者!?わたしが!」
「うそをつく理由がない。私たちは前世で魔王軍を打ち破った勇者パーティだよ。過去と同じ16歳で覚醒したから、声をかけたの」
少し頬が紅潮している百宮さんを眺める。アルがディアの話をする時もこんな感じだったななんて思いだして、ほほえましくなってしまう。
「私が賢者で、ともえが弓兵。魔物を倒す力があるかどうかはまだ確認できてないけど」
凜華が言う。
「凜華はすごく頭がいいし、私も弓道を頑張っているよ」
慌てて付け加えた。弓兵のエストのこと、おぼえてる?
「私たちが思いだしたことには意味があると思う、例えば、魔王討伐とか」
「……」
百宮さんが、ポケットに手を突っ込んでなにかに触れている。なんだろ?ハンカチとか?緊張で汗が出るよね、私もそう。
だって、「魔王討伐」だよ?そんな大それたこと、するのかなぁ。っていうか、できるのかなぁ。黒瀬さんは、悪さをしているわけじゃないのに。
ぽろっと透明ななにかが百宮さんのポケットから零れ落ちて、凜華が拾った。
「これ……!あと半分は!?」
「黒瀬さんに、あげたよ」
すでに百宮さん、黒瀬さんと仲良しなんだ、やっぱりね。
……それは、かんがえちゃう。
もしも魔王討伐なんてことになったら……また、百宮さんが傷つくんじゃないかな。でも……私は、エストの時代の、いつでも死を望んでいた気持ちを思い出した。(自分の生死を決めるのは、自分がいい)そんなことを、ぼんやり思った。だから、エストはアルが死出の旅に出たことを、止めなかった。ジルがどんなに泣いても、ディアのあとを追うことを、止めなかった。
「あの、”ディア”はおぼえてる?」
思わず問いかけると、百宮さんははにかむ。かわいい。
「ディアのことも知ってるの!?」
嬉しそうに、私に問いかける赤い顔の百宮さんが微笑ましい。大好きな気持ちのままなのかな。それって、
──もしかして、百宮さんは、ディアを殺したこと覚えてないとか?
「黒瀬はディア」
また凜華が、あっという間に結論を言ってしまう。待ってよ。まだ、百宮さんがどこまで思い出してるか、確認しようよ。
「やっぱり!?」
嬉しそうに声を弾ませる百宮さんは、私に笑顔を向けた。
「ディアは、魔王」
「……」
凜華が言うと、百宮さんはハッとした。それは、覚えているのかもしれない。凜華、待って。思わず腕を引っ張るけど、凜華は止まらなかった。
「黒瀬は、魔王の生まれ変わり」
「!!」
百宮さんは言葉を失う。それはそう。だから、凜華は説明を省き過ぎなんだって。
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