第17話 勇者にあいにいく

 朝。どうして朝は、何度もめぐるのかなぁ。ねむい。

「ちょっと!!二度寝禁止!!」


 凜華がいなければ、きっと私はずっと寝ているに違いない。だって今、登校中だけど寝てるもん。歩いてるけど、寝てます、ねむい。


 昨日はさらに夢見があれで。

「あのさ~」

「ねえさっきから、言いかけて寝てるけどなに?」

「やっぱ、黒瀬さんはディアだよね、もしもアルと再会したら、アルが可哀想で」

「……その話」


 凜華がうんざりとした。


 勇者・アリューシャには恋人がいる。

「ディア」


 黒髪で、背が高く、所作が美しい彼女の正体は、魔王。

 アルは魔王を倒す勇者なのに、それに気付かず彼女を愛してしまった。


 アルとディアは、正体に気付かないまま想いあい、そして、魔王討伐の時。世界をどちらかの手に委ねる試練として、殺し合いをした。ディアが先に気付いて、まるで受け入れるように、アルに殺されて…‥人間の世界は守られたけど、勇者なはずのアルはその後自暴自棄になり、私たちと離れた場所で、命を絶つ。


 悲恋。


 ディアは豊満で、黒瀬さんはスレンダーな部分が違うけど、凜華が見ている世界は魔力が見えるそうだから、たぶん確定なんだろうなあ。


「アル、隣のクラスにいたわ」

「え!?そうなの?!」

 凜華の探査能力に驚く。


「黒瀬のとなりの席。魔王の魔力の渦で見えなかったけど、確かにアルの顔をしていた。神出鬼没過ぎて、なかなか話しかけられないけど、晴れた日の登下校の時はわりと大人しく歩いているみたい」


「野生のリスの出現条件みたい」

「アルっぽいでしょ」

「確かに……」


 アルも、じっとしてなかったね、なんて思い出話をして、私たちは道を歩く。だから今日は朝練やすませたのか


 まって、アルの姿をした子が、黒瀬さんのとなりにいるの?


 眠い頭がグルグルする。それって、もしも二人がそれに気付いてないまま、恋に落ちたりしたら、悲恋が待ってたりしない??や、隣の席だからって恋に落ちるとかさすがに恋愛脳すぎるか。……いやでも、なんかすでに始まってたりしたら。

 それでもまた、アルが傷つく姿は、見たくないな……。


 銀色の鎧を付けた少女の慟哭を思い出した。


 愛する人を手にかけたなんて、たえられない。もしも私が、凜華を。──おっかない妄想をして、凜華を見おろすと、つむじが見える。かわいい。この幸せを、魔王軍が打ち消すかもしれないと思うと、なにかをすべきなのかもだけど。


 視線に気づいたのか、長いまつげが音を立てるんじゃないかというぐらいぐるんと上を見て、私をみつめる。すぐ気づくとこ、ほんと好き。


「もういいかげん、おちこむのやめなさいよ、バカね」

 字面は怒っているようにしか見えないのに、今、私のことすごい心配してくれてるんですよ、この子。私を笑顔にしようとかんがえてんの。なんてかわいい。愛しい。好き。


 まだ、抱きしめたい気持ちは継続中で、悲恋と交互に、ひどくえっちな夢も見ている。「歩くの面倒でしょ、私が運んだげる!」とかいえば抱きしめて連れ去れるんじゃないかな、エストみたいに!とかアホな考えがよぎる。


 凜華が他の人が好きだとわかってるけど──。

 片思いって、浮き沈みが激しい。



「きゃぁ!」

 悲鳴が聞こえて、ビクッとなった。


 四角いなにかが、私を横切って空を飛んで、歩くポニーテール女の子の後頭部に当たりそうになる。ショートカットの女の子が、こともなげにダイレクトキャッチした。歓声が上がる。ショートカットの女の子は、箱を持ったままそこからすぐに離れ、私を横切って後ろにいた倒れた女の子に駆け寄っている。

 ころんだ子がいる。

 私も心配して駆け寄った。

「怪我はない?!」

「ともえ様!大丈夫です、あの、これ、プレゼントで」

 女の子に当たりそうになった四角い箱を受け取ると、それは木で出来たもので、中に高級チョコレートが入っているんだという。もしもこれが、直撃してたら、あぶなくない?コワ……。


 見覚えのあるショートカットの女の子は、にこりとほほ笑んで立ち上がり、その場を後にした。


「ともえ、あれ、百宮奏ももみやかなで

「え?」

「アリューシャよ、あとを追う」

「え!?アリュー……アル?!確かに顔そっくり!」

「動きを見たでしょ、あんなの、普通じゃない」


 立ち上がる凜華に、慌てて私もついていく。


「声かけて、お礼でとでも言って!」

「お礼!?」

「あなたのファンが、あなたへ贈ろうとしたプレゼントが、誰かを怪我させる直前で助けてもらったのよ」

「??」


「あなたのファンの失態を拭うためのお礼をして!」

「そ、そういうものなの!?」


 場面を全然理解してなくて、凜華の指示に従うしかない!




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