第2話 外見と内面
キラキラの凜華が通っている美容院。
そこはキラキラ美容院に決まっていて、私は入り口で放心したまま、カバンをぎゅっと抱きしめた。
洗練されたデザインの外壁に、開放的なガラス張りの外観。高そうな自転車が一台、ベンチに寄り添っている。まるで絵葉書の構図。中ではすごくオシャレな店員さんが、床から天井まであるんじゃないかと思うような大きな鏡の前ですごくオシャレなお姉さんやお兄さんのお手入れをしていて、まるでショーのようにきらびやかにライトアップされている。ラインダンスがはじまってもおかしくない。こわい。
インテリアデザインも調度品も洗練されていて、高く梁のみえている天井にシャンデリアや観葉植物が配置されていた。口を開けてしばらくポカンときょろきょろしてしまう。
「本当にここ!?」
問いかけても凜華はスルーして、受付に行ってしまう。
「ともえ、おっけーだって」
パタパタと駆け寄ってくる仕草は可愛い。150cmほどの身長、大きな瞳に長いまつげ、華奢な肩に手入れの行き届いた赤い髪がゆれる。美しくネイルで彩られた指先、透明感たっぷりの肌、グラデーションリップの似合う、ぽってりとした唇。性格だってすごくいい。女の子ならこんなふうになりたいだろうを詰め込んだ凜華を見つめた。
そんな凜華が、私の外見を変えるためのプロデュースをしたいと言っている。
外見を変えたからって、この卑屈な私が、凜華の思い描くなにかになれるとは思えない。
「まだ、プロデュースしてなんていってないのに」
思わずぽろっというと、凜華が不服そうに唇を尖らせた。
「プロデュースさせてっていったこと?ともえの意見は聞いてない」
「え!?」
我儘姫の様子が出てきて、え!しか言えない。え!?
「やるの、やらないの?」
「こわい!」
思わず大き目な声で言ってしまう。
「やったからって、なにも変わらないよ!」
変わることが、すごく怖い!
「別にあなたは変わる必要ない。外見を本来のあなたに戻すだけ」
「いまの私が、ほんとの私じゃないって根拠は?」
「ないわよ。じゃあ、言い方を変える。眠り姫を覚ますだけ!朝だって、起きない時は勝手に着替えさせてるでしょ!それと一緒」
毎日起こしに来てくれる相手に対して、申し訳ない気持ちになって、唇をかんだ。
「凜華は、私のそばにいるのが恥ずかしいというの?」
「?」
きょとんと眼を丸める凜華に、しどろもどろに続ける。
「だってそうでしょう、急に恥ずかしくなったんだ、気が合うだけで友人でいてくれてるとおもってたのに、突然外見をどうにかするなんて、いいだすなんて。だって、凜華は、言ってくれたじゃない、「黒く染まってても、私は……」」
その言葉が、似つかわしくない気がして黙った。
凜華は、少し考えて、ため息をつく。
「私、恥ずかしいなんて思ってない」
「ほんと?」
「ともえのことを馬鹿にされたことに、すごく腹を立ててるの!だってともえは、美しいから!本当は黒いままキレイにしたいけど、校則の縛りがない今!今なら全部のリミットを解除できるわ」
「ええ?!」
美しい!?
ソバカスだらけの頬をカリカリと掻く。いくらなんでも、それは言い過ぎだろう。
鏡の中にうつる姿は人間というか、ノボ~っとした樹木に似ている。
「髪を染めたぐらいで、なにも変わらないよ」
「ハン」
凜華に鼻で笑われて、思わず頬が紅潮した。
「内面が外見に出るって私は信じてるけど、外見がすっごく重要な人が、この世にはいるの。そしてそれらは攻撃的……私は今、あの笑ったやつら、全員まとめてひっくり返してやりたいのよ」
「……暴力はダメだよ……」
「殴ったりするだけが暴力じゃない。なにも見えてないやつらに見せてやりたい。私の大好きな親友はこんなに綺麗なんだから!って」
大好き。私だって、凜華が大好きだけど……口に出せずに、縮み込む。
「それにね、これは大掃除。ともえは、汚れたシーリングライトを拭くとき本人にきく?」
シーリングライトって、天井にある電気のこと?あの、気付くと虫が入ってたりするアレ!?身長が高いからアレにたとえたってこと!?っちょっと、ひどすぎない!?
「聞かない、けど」
「でしょう、私は、わたしの好きなものを大事にしたいだけ!だからともえの意見は聞いてないの!」
「な、なんて勝手な……!」
ぐっと握りこぶしを作る凜華の強い口調。掃除なら、満足するまでやったら、やめてくれる、かな……?
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