星と金平糖
梶井スパナ
第1話 プロデュース
色とりどりの金平糖を口にすると、
「あれ、甘いモノ苦手だっけ?」
「甘いものは好き。金平糖って味がないと思ってたから、薄荷の味がして驚いたの。これにしようかな、紫陽花みたいできれい」
お土産を選んでいた凜華はそう言って、嬉しそうに笑った。渡す相手は、隣に住む
「喜んでくれるといいね」
そう言うと、フンと素直じゃない顔で、横に向いてしまう。いつもはお人好しで、世話好きな凜華が、途端にツンとするので、私は笑ってしまう。わかりやすい。
旅行でもなんでもない日に、大好きな彼女のことを考えてお土産を選ぶなんて、本当にかいがいしい。
ドン。
ショッピングモールの雑貨屋の前。通りすがりに、小さな女子高生にぶつかって、眼鏡がずり落ちたので、グッと上げた。
「邪魔」
言われて、私は思わず身を縮めて謝った。
とおくで「ぷー」と笑う声がした。
「ブスが、どうしてあんな美人と一緒にいるの」
凜華は、天然の、天まで届くかと思うようなまつげをカっと上げて、目を見開いてその一行を睨みつけた。美人が怒ると迫力が違う。私にぶつかった彼女たちが一目散に逃げ去っていく。
緩く巻いた赤毛が、クルンと風になびいて、優しい表情になり私を見上げる。
「ともえ、どっかケガしてない?」
心底心配している顔だ。優しさがくすぐったい。
「全然平気。むしろあっちが怪我してないといいけど」
こちらより三十センチは身長が小さい子だった。ぶつかったわりに、微動だにしない私にいら立つような声色だった。
「あの子達わざとあなたにぶつかったの!ともえがそこにいたってだけで」
「え、どうして」
「ストレス発散?人は自分が下位だと思ったモノに八つ当たりすると快楽物質が出るらしいから」
いらいらしつつも、私には丁寧に答えてくれる凜華に、微笑んでしまう。
「ストレス発散できたなら、いいね」
「もう!お人よし!もしかして、怒ったことないの?」
怒るのって難しい。
だって、私ですよ。
180cmの身長、大きめの体格。痛んだ長い髪に、丸眼鏡。寸胴の体、ごつい足はなんと28cm。ローファーは男物。かといって運動ができるわけでもないから、部活に誘われては、その運動音痴ぶりにガッカリされている。つまり、でくの坊。
美人の凜華といることが気に入らない人は、多いかもしれない。気があうだけで一緒にいるけれど、凜華はどう思っているのかわからない。
私が自分の容姿に対して無頓着なのは、認める。
化粧も分からないし、髪はバサバサだし、それをどうしたらいいか見当もつかないし。
コンタクトも、凜華のように美しいモノをどこで買うのか、説明されて最初は買うけど続かない。眼鏡屋さんで売ってる黒い眼球のモノは、サブスクで予約できたから家に郵送されてきて、付けているだけ。せいぜいのオシャレに、昔母親がくれた丸眼鏡をかけているけれど、きっと間違っているんだろうけど、手離せない。
朝起きれないから凜華が迎えに来て起こしてくれて、起きたまま、のそのそと制服を着る。清潔であれば、それでいいと思っていたけど、もしかして無頓着って、邪魔と罵られるレベルなのかもしれない。
キラキラしている凜華のそばにいることは、釣り合わないのかも。
「校則が変わったじゃん?」
凜華の声に顔を上げた。先日、やり手の生徒会長の手腕で、校則が大きく変わった。入学時は、黒く染めることと決まっていた髪にとどまらず、制服の着方や靴下、登下校時の靴、また学校生活の自由度も格段にあがった。
「うん、私、投票の手伝いもしたよ」
凜華は地毛なのに、いつも頭髪で怒られて煩わしそうだったから、地味ででくの坊の私も、私なりに生徒会の手伝いをした。あれで高校生活のHPをすべて使った気がする。
「髪、今から直しに行かない?!」
「え?!」
「眉毛とかもなおしてくれるとこなの!私の予約だけど、ともえに譲るから」
「は!?」
「あなたをプロデュースさせてよ!」
「ええ?!」
凜華の申し出に、大きい声を出す事しかできなかった。
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