第6話 暗殺者に躊躇はない

「何なんだよお前。こんな化け物がクラスにまぎれていたなんて聞いてないぞ!」

 

 吉川が俺を見て叫んだ。化け物か――確かにこの異様に思える腕は勿論、全解放すれば全身も変わる。


 俺たちの一族の始祖はそのおかげで鬼と呼ばれ恐れられたそうだ。鬼の起源がそれだと爺ちゃんも話していたっけ。


「何であんたみたいのがクラスで虐められていたのよ! おかしいじゃない!」

 

 そう叫んだのは荒北 恵利だった。女子のリーダー格でこいつからも散々やられたっけな。


「それが俺の課題だったから仕方ない」

「は? 課題?」

「家のしきたりでな。十五歳になるとくじみたいのを引かされてそれに書かれた人物になりきる必要がある。俺に課せられたのはいじめられっ子だった。それに従ったまでだ」


 だからこそ虐められている間の言動は勿論思考に到るまでいじめられっ子のソレとして過ごした。


「んだよそれ。つまりお前が勝手に俺たちに虐められるよう仕向けていたってことじゃんか」


 クラスの誰かが納得いかないといった顔で呟いた。


 だけどそれも正しくはない。俺はいじめを受ける人物像を思い描きそれに従って学校に通ったが、それはあくまで本来人間が持つ感情を揺さぶる程度だ。


 この課題は本来虐める気質のない相手に無理やり虐めさせるようなものではない。それではなり切るという意味で考えれば意味がないからだ。


 つまり俺の言動によって虐めに発展した連中は元からそういう質だったって話だ。俺がいなかったところで当時の吉川のように他のターゲットを探しただろう。


 もっとも俺としてはまさか教師を含めてクラスのほぼ全員が虐めに加担するとは思ってなかったがな。


「まぁどう思おうと関係ないな。遅かれ早かれお前らの運命は決まっていたわけだし」


 残りの生徒達がざわめき出した。俺が何を言ってるのか理解出来てないのだろう。


 さて、やるか、と考えた直後槍が一直線に飛んできた。


「やれやれ。そっちも俺と殺りあいたいのかい?」


 左手で槍を受け止め、王様と王女、さらにそれを守るよう集まった騎士を見た。


『何を言っているかわかりませんが、これ以上召喚した異世界人を潰させるわけにはいきません』


 あの王女が言ってるセリフはこんなところかな。

 しかし、俺の言葉はこのままじゃ向こうに通じないか。


「……俺、やるつもりか?」

「な、貴方どうして言葉を!」


 王女が驚愕していた。ある程度聞き取ることは出来るようになったのだから多少はな。


 もっとも言語は聞き取るより話すほうが難しいものだ。発音の違いもあるからな。


「ステータスも得られなかったゴミの分際で我が国の言葉を口にするとは汚らわしい!」

「えぇお父様。許されざることですわ」


 何だこの国は、いちいち言葉を喋るのにも王様の許可が必要なのか? この国で生まれてくる子どもは大変だな。


「陛下、姫、ここは我らにお任せを」

「確かに多少はやるようだが所詮は一人。この人数相手にどうしようもできまい」

「我らも魔法で援護しましょう」

「神に背きし背信者に天罰を」


 騎士や魔法使いのような女、それにあれは教会の女神官か何かか。その他諸々集まりだした。


「さぁ全員を相手に――」

「だからさ」


 ステータスに慣れた異世界の連中がどれほどの強さかと思ったが、強い弱い以前にこいつらは行儀が良すぎる。


 俺を殺すつもりなら前置きなしで来るべきだったな。今の俺の手の中にはさっきまで偉そうにしていた騎士、女魔法使い、女神官の頭が握られていた。


「言っておくけど殺る気でくるならこっちは容赦するつもりなんてないから」


 喋りながらも騎士やローブ姿の男女、神官、兵士とにかく目に映る者全て引きちぎりその生命を奪っていく。


「シューティングエッジ!」


 掛け声が聞こえ斬撃が飛んできた。流石異世界だなこんな真似を軽々やってくるとはね。


「ま、威力はそうでもないか」

「な、馬鹿な傷一つついてないだと!」


 騎士が驚いてるな。後こいつ俺に剣を投げてよこした奴か。


「さっきはどうも」

「ぐべッ!?」


 折角だから拳を打ち衝撃波でお返しした。頭が砕けて死んだ。剣と同じで脆いな。


 さて、今度は向こうから大量の魔法使いが詠唱を始めたな――


あとがき

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