第5話 もう隠す必要はない
「え? 嘘だろ?」
「おいおい勇人冗談だよな? 死んだフリ、だよな?」
「で、でも、あれって内臓――ウプッ!」
クラスメートの何人かがゲェゲェと吐き出した。平和な日本で生きてきたこいつらには刺激が強すぎたか。だからとは言えこの程度で吐くような奴らが見知らぬ世界でどう生きていくつもりだったのか。
こればかりはステータスは関係ない。そもそもステータスが当たり前の世界なら幾ら強い力を持ってるとは言え日本育ちのこいつらはステータスやスキルについては素人と言えるだろう。
どれだけ強い武器だろうが使い方がわからなければ猫に小判豚に真珠だ。さっき勇者の力を得たと豪語してた高橋など良い例だろう。
「我は炎の支配者なり――」
ふと俺の耳にぶつぶつと呟く声が聞こえてきた。これでも耳には自信がある。一人だけじゃなく複数の奴らの声が聞こえてきたな。
「――ファイヤーボール!」
「アイスブレイク!」
「ウィンドブラスト!」
そして俺に向けて火球や冷気の塊、風の衝撃、その他無数の魔法が飛んできた。着弾し床が陥没したのを確認する。
「ハハッ! どうだ! 僕のスキルは付与魔法。魔法の強化も可能だ! 魔法系スキルを得た皆の力は僕が強化してやった! これで木端微塵だ!」
「そうかい良かったな」
吉川が勝ち誇ったように笑っていたが、俺にはかすり傷一つ無い。
全て避けたからな。さて折角だからさっき騎士が使えと言っていた剣を床から拾い振りかぶった。
「ちょっとあいつ何で生きてるのよ!」
「話が違うぞ!」
「あんな詠唱聞いてれば狙いはわかる」
文句を言う連中に向けて剣を投げた。高速回転した刃は投擲武器のチャクラムを彷彿させる。
そして俺が投げた剣は魔法を行使してきた男女の首を刎ねた。これで八人ぐらい死んだか。さっきの高橋と合わせて九人だ。
「ヒッ、皆の首が、な、何なんだよお前は! ステータスもない癖に――ハッ! まさか本当は強力なスキルが!」
「そんなもの持ってないさ。ま、今更隠してても仕方ないか。俺の家、鬼影家は千年以上続く暗殺者の一族なんだよ」
自分の素性を初めて明かした。本来ならあり得ないが、もうここは別の世界だしどうせ話したところで一人を除けば結果は同じだ。
「は? 何だよそれ――俺の考えた最強設定かよ!」
吉川がそんなことを口にして顔を歪めた。なるほどどうやら信じてはもらえなかったようだな。
「調子に乗るのもここまでだ」
俺の肩が掴まれ近藤の声が聞こえてきた。頭だけ巡らせてその顔を確認する。随分と自信に満ちた表情だった。
「何の冗談か知らんが俺に掴まれた以上もう終わりだ。俺に与えられたスキルはガントレット」
別に聞いてもいないがべらべらとスキルについて近藤が語りだした。
「このスキルは腕に関する能力強化が与えられる。これで俺の握力も大幅に増加した。このまま肩から腕を引きちぎってやる!」
なるほど。確かこいつは握力百キロ超えが自慢だったか。
「ぬぐぉおぉおお!」
肩に込める握力を強める近藤。だがこの程度肩揉み代わりにもなりゃしない。
「本気で相手を殺るつもりなら肩じゃなくて頭か首を狙うべきだったな。ま、それをしたところで無駄だろうが」
「馬鹿な! 俺はもともと握力は百キロを超えてるんだぞ!」
近藤が声を張り上げた。どうやら俺の肩が砕けなくて焦っているようだがな。
「それで? その握力はスキルでどこまで増えたんだ? 五百キロか? 千キロか? ま、どっちにしろ無駄なことだ」
そこまで言った後、俺は逆に近藤の腕を掴み肩から右腕を引っこ抜いた。
「ひ、ぎゃぁああぁああぁあぁああ!」
悲鳴を上げ近藤が床を転がった。吹き出した血が絨毯のように広がっていく。
「ひぎ、どうし、て……」
「残念だったな。お前の握力は高校生としては高い方だろうが――俺の握力は八十五万三千キロだ」
俺の答えに絶句する近藤の頭を掴みグシャッと潰した。腐ったトマトを潰すより簡単な作業だった。
ちなみに握力は小学生の時に測ったものだ。そこから先はまともに測れなかったから今どのぐらいかは知らなかったりする。
「ヒッ、その腕、な、なんなんだ、何なんだよお前!」
「ん? あぁそうか」
高橋の時はすぐに戻したがもうその必要はないかと解放したままだったな。
改めて見たが今の俺の腕は一般人からすれば化け物じみてるだろう。鬼影一族は暗殺の為に肉体を徹底的に強化する。
これは武器がない状況で相手を殺すことを想定したものだ。例に漏れず俺も物心付いた頃には死と隣合わせの過酷な修行を強いられてきた。
その結果得たのがこの鬼を思わせる肉体だ。もっとも普段は隠しているわけだが――
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