第4話 どうやら俺は無能らしい

『ふざけるな! 異世界からお前たちを召喚する為に一体どれだけの月日と金が掛かったと思っている!』

『お父様のお気持ちはよくわかります。たった一人とは言えこのようなゴミが紛れているとは』

「ハハハッ――ザマァ無いぜ。おい猟牙。お前姫様からゴミ扱いされてるぞ。たく無能とはな。リアルでもゴミムシのお前らしい結果だな!」


 高橋 勇人が俺を見て嘲笑した。それにしてもやはり俺の予想通りのことをあの二人は喋っているようだな。


 周囲の話を聞いてここが異世界なのは何となく理解したつもりだった。冗談みたいな話だが状況からしてデタラメを言ってるとは思えない。


 それに言語が俺の知ってるのとは明らかに違っていた。仕事柄世界中のあらゆる言語を学び習得していたがそのどれとも違う。


 とは言え知性ある生物が話すことだ。見た目も人と同じである以上そこには規則性がある。だから表情やクラスの連中とのやり取りである程度判断がついた。


『残念ながら私たちは何の力もない無能の面倒を見るほどの余裕はありません。そこはご理解出来ますね』


 俺に向けて言われてることだ。恐らくセリフはこんなところだろう。高橋の話からして俺にはステータスという物が備わってなかったようだしな。


 それも当然といえば当然か。教室で異変が起きた後、俺の中に異物が入り込んできた感覚がした。おそらくあれがステータスを得るということだったのだろうが、そんなわけのわからないものを受け入れるのはゴメンだったからな。


 だから俺の意思でそれを排除した。結果俺にはステータスという物が与えられなかったわけだ。


「おい猟牙。お前みたいな奴は必要ないんだとよ。良かったな殺処分決定だ。なぁ姫様! だったらちょうどいい。俺たちのスキルの練習台にこのゴミを利用していいかな?」

『なるほど! 流石勇者様。素晴らしい提案ですわ! お父様如何でしょうか?』

『うむ。このままただ処刑しても無駄だからな。練習台にでもなってもらわねば割に合わんだろう』

「はは、聞いたか? 王様と姫様もお前を練習台にすることに賛成だってよ」

「……やっぱり考えた通りの会話か。意外と単純だなこの世界の言語は」


 高橋が小馬鹿にしてくるが俺としては自分の翻訳がある程度あたっていたことの方が大事だった。


「は? お前何を言ってるんだ?」

『待ってくださいそこのゴミは一体何を言ってるのかわからないですが』


 王女はそんなようなことを言っていたと思う。不快そうに眉も顰めていた。


「あん? そういえばお前、もしかして日本語か?」

「……ある程度聞き取れても話すとなると慣れが必要だからな」

「はは、そうか! こいつステータスがないから俺たちみたいにこっちの人間と話が出来ないんだぜ。本当にゴミだな!」

 

 やたらとこいつは俺を煽ってくるな。虐めを通して強者だと思ってる証拠だ。完全に侮られている。


 だからこそ俺が聞き取れると話した部分は見事に耳から抜け落ちてるのだろう。


「まぁいい。とりあえず提案したのは俺だからな。まずは俺からやらせてもらうぜ」

「おいおい勇人、練習なら俺たちにも残しておいてくれよ」

「僕もお願いしますよ。これでも結構いいスキルを手に入れたんですから」


 俺を殺る気満々の高橋に近藤と吉川が釘を刺した。すると他の生徒たちも自分のスキルや魔法を試したいなどと騒ぎ出した。


「皆、何を言ってるの! こんなのおかしいよ!」


 そんな中、委員長だけが非難の声を上げた。この状況でたった一人意思を曲げずに正義感を貫くか。


 中々出来る事じゃないが共感は得られないだろうな。


「先生も止めてくださいこんな真似!」

「う~んそうはいってもな。この世界にはこの世界のルールがあるんだ。郷に入れば郷に従えというだろう? こちらの常識だけ押し付けても仕方ないし猟牙がこっちでも無能なのは確かだろう? だったら仕方ないんじゃないかなぁ」

「そんな……」


 委員長が絶句していた。教師にあるまじき発言とショックを受けているのかもしれない。


 ただ俺は一理あると思ってる。そう、ここはもう異世界なのだから下らないルール・・・・・・・に縛られる必要はない。


「でも先生!」

神女しんにょう 聖羽あきは。先生の言うことは聞くものだぞ? 教育的指導だ大人しく見てなさい」

「――(パクパク)」


 香川がそう命じると委員長が目を丸くして喉を押さえていた。必死に何か言おうとしているが声が出て来ないらしい。


 なるほどこれがそうか。


「さて覚悟は出来たかゴミ。本当は俺の勇者の力で処分したいが、俺は優しいから皆の分も残してやるつもりだ。ま、腕の一本ぐらいでとりあえず勘弁してやるよ」


 そんなことを言いながら奴の手に剣が現出した。それを見た王女が何やら褒め称えている。


「これが勇者の力の一つ。聖剣召喚だ。これでテメェの腕を切り取ってやるぜ」


 その剣で俺の腕を、ねぇ。ふと、俺めがけて剣が飛んできて床に突き刺さった。


 見ると騎士らしき男がこっちを見ながら顎で剣を指し示した。


「あの騎士が剣を貸してやるってよ。無能でもせめて戦って散れと言ってるぜ。男を見せるかぁ? おい!」


 ヘラヘラ笑いながら聞いてもいないことをべらべらと宣ってきた。


 見た感じからしてそんなとこだろうとは思ったが、正直そこまで質もよくなさそうだ。


「どうしたさっさと取れよ」

「必要ない」


 突き刺さった剣を無視して俺は高橋と向き合った。


「へっ、何だよもう諦めたのかよ。つまんねぇやつだ。おい! 剣は使わないってよ。戦っても無駄だと悟ったんだろうぜ」


 高橋の言葉で騎士たちが顔を顰めた。中にはこっちを指さして笑っているのもいる。


 姫と王とやらも呆れ顔だ。俺が諦めたと思っているようだが、むしろ吹っ切れたと言ってもいいだろう。


「クソつまんねぇ雑魚が。それであっさり死ねると思ったら大間違いだからな。俺以外の連中もお前を甚振るのを楽しみにしてるんだ」

「何か勘違いしているようだな」

「何がだよボケが! さぁ行くぞ!」


 高橋が剣を持ったまま気合を入れて何やら大仰な構えを見せる。


「行くぜ! これが勇者の必殺スキル! ブレイブ」

「遅いぞ――」

 

 あまりに隙だらけだったから余裕で脇を素通りし中身を・・・抜き取ることが出来た。俺の手に生暖かい臓物が握られている。


「ポーズをつけたり、技名なんて口にしてる暇があるならさっさと行動に移すべきだったな」

「――は? え、ぐぇ、いヴぇ?」


 ぽっかりと穴の空いた腹部を見て高橋は唖然としていた。何が起きたかも理解してないか。


 しかし弱いな。ステータスだスキルだなんて偉そうなこと言っても所詮は付け焼き刃だったってことだ。


「ふむ、性格は捻くれていても腹の中身は真っ黒じゃなかったか」

「かえ、せ、おで、の、内ぞ――」


 そこまで口にして高橋は倒れた。折角勇者が生まれたと思えばお早い退場だったな――

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