第3話 ステータスがない!?

 だが聖羽の質問を受けた瞬間、スッとセイリアが目を細めた。それも一瞬でありすぐに取り繕ったような笑顔に戻り説明を始めた。


「それに関しては申し訳ありません。召喚は出来ても皆様を帰還させる術はないのです」


 頭を下げセイリアが謝罪した。この答えに召喚された生徒たちがざわめき出す。


「そんな困ります! 私には元の世界に家族がいるんです。皆に心配させてしまいます」

「――それについてはご安心ください。この召喚魔法は皆様の存在の証明ごと召喚します。これにより元の世界では皆様がいないものとして扱われるのです。なのでそういった心配は不要です」


 セイリアの説明に聖羽が愕然とした。一体何を言っているのか? と理解に苦しんでるようでもある。


「それってつまり――私たちが存在しなかった者として扱われるってことですよね?」

「そうなりますね」

「冗談じゃないです! そんなの何の解決にもなってませんよ! こんなの――」

「まぁいいじゃん。委員長も今更過ぎたこと話も仕方ないわけだしよ」


 セイリアに抗議する聖羽だったがそこに勇人の声が加わった。どうやら彼はこの状況を受け入れる考えなようである。


「もう帰る手段がないなら受け入れるしかないだろう? 今更文句行ったところでどうなるものじゃないわけだしな」

「そんな、簡単に受け入れられる話じゃないです!」

「でも実際そうだから仕方ないわね」


 勇人に続いて恵利も彼に同意するような発言を見せた。すると周囲の生徒たちも戸惑いはありそうだがこの状況を受け入れる発言をし始めた。


「そんな、みんなどうして。先生、先生は違いますよね!」

「え? あ。いや、確かにそう言われればそうかもな。それに新しい世界でやり直すというのも……」


 ぶつぶつと先生がつぶやき始める。さっきまで随分と困惑していたようだが今はもう仕方ないといった様子でもあった。


「皆どうして……」

「――この子、あまり効いてないみたいね」

「え? 今なにか言いましたか?」


 セイリアが小声でつぶやくと聖羽が反応し王女に問いかけた。

 

「いえ、なんでもありませんわ」


 セイリアはニコリと微笑み、質問にはハッキリ答えなかった。セイラもそのことに不満があるようだが――


「もういいだろう委員長。それにこの国は困ってるって言ってるんだ。それを委員長は見捨てるつもりなのか?」

「え? いや、でもそれは……」


 勇人の問いかけに眉を落とす聖羽。彼女が心優しく困ってる人を放っておけない性格なのを知って敢えてそこを突いた様子だった。


「とにかくだ、さっきの話通りなら俺たちには特別なステータスが与えられているんだろう? それはどうやってみるんだ?」


 勇人がワクワクした顔でセイリアに聞いた。他の生徒もどうやらそのことは気になるようである。


「既に皆様にはステータスが備わっております。ですがステータスを具現化し真の能力を開花させるにはこれから私が行う儀式が必要です。それをこれから行おうと思います」


 セイリアがそう言うと皆に自分の前に並ぶよう促した。それを聞いたことで生徒たちの興味がステータスに向き、一体どんな力が与えられるのかとそれぞれが語り合い出す。


「……ステータスねぇ」


 そんな中、どこか他人事のように呟く猟牙に勇人が目を光らせズンズンと近づいていった。


「おい猟牙! テメェ何気を緩めてんだ。いっとくがお前の立場は今も変わってないんだからな!」


 眉間にシワを寄せ勇人が猟牙に迫った。凄みを利かせどちらの立場が上かわからせてやろうという様子も感じられる。


「……いい加減面倒だな」

「あん?」

「なぁ。ここはつまり俺たちのいた場所と異なる異世界ってことなんだろう?」


 猟牙が逆に問いかけると勇人は勿論、面白がってついてきていた取り巻きも目を丸くさせた。


「テメェ――何調子こいてんだ!」


 そして勇人が猟牙に掴みかかるが、それをスゥッと躱してみせた。


 まさか避けられるとは思わなかったのか勇人が目を白黒させるもすぐに怒りの形相に変わる。


「何避けてんだテメェ!」

「高橋君、もしかしてこいつこれからステータスが手に入るからって強気になってるんじゃ……」


 口を挟んだのは吉川だった。それを口にした吉川は勿論取り巻きの一部も不安そうな顔を見せた。


「勇人、ステータスの事もあるしやりすぎない方が」

「何ビビってんだバカ」

「でも、こういうのでよくあるだろう? 虐められっ子が最強のスキルを手に入れてみたいな」

「ふん。情けない。大体こんな根暗なゴミにそんな都合よくいいスキルなんて手に入るものか」

 

 勇人の取り巻きの中で最も体格の良い近藤が言った。鼻息を荒くさせ拳を鳴らしている。


 近藤は握力百キロ超えを豪語し指で五百円玉を曲げるパフォーマンスもよく見せていた。


「どんなスキルを持とうが調子に乗ったら俺のパワーでねじ伏せてやるよ」


 指を突きつけ近藤が豪語するが猟牙は素知らぬ表情で興味なさげであった。


 その様子が気に入らないのが勇人が猟牙に掴みかかるが、それもスッと避けられてしまう。


「テメェ逃げんな!」

「……そろそろ頃合いか」

「あん?」

「おいお前たち姫様が儀式を始めるそうだから早く並べ~」


 猟牙の反応に勇人が顔を歪ませるが、そこに香川からの号令が入った。


「糞が。お前後で覚えてろよ」


 猟牙に忠告するよう告げた後、勇人たちが王女の下へ向かった。

 

 生あくびを掻きながらも猟牙は適当に列に並ぶ。


「ちょ、あんたみたいのが近くにいてステータスが外れだったらどうするのよ!」

「あっちいけよ疫病神!」

 

 しかし殆どの生徒に邪険にされとりあえず猟牙は言われるがまま後ろへ後ろへと下がっていった。


「あ、猟牙くん」

「……委員長か」


 一番後ろには眉を落とした委員長の姿。どうやらステータスを授かることに戸惑いを感じていたようだ。


「――私、どうして皆がこの状況を受け入れているのが信じられないよ。家にも帰れないって言われたのに――」

「ふ~ん。どうやら少しは耐性があるようだね」


 委員長の話を聞いた猟牙が呟くように口にした。それに委員長の目が丸くなる。


「え? えっとそれってどういう意味?」

「……別になんともないさ」

「その、猟牙くんなにか雰囲気変わった?」


 委員長の問いかけに猟牙が答えることはなかった。ただ委員長が思っているように以前のどこか暗くオドオドした様子は今の猟牙からは感じられなかった。


 そして――セイリアによる儀式が始まり生徒たちのステータスが次々と判明していく。


「魔力が高いって褒められたわ。中級火魔法のスキルもあるし魔法少女になれるかも」

「俺は上級剣術だったぜ」

「鍛冶スキルかぁ戦闘系が良かったなぁ」


 スキルが判明し生徒たちの一喜一憂が見られた。やはりスキルの良し悪しは運にも左右されるようであり――


「勇人様素晴らしい! 貴方のスキルは勇者の資質。その名の通り勇者の力を使いこなせるレアなスキルです」

「よっしゃぁああぁあ!」


 セイリアから説明を受け勇人が雄叫びを上げた。特別な力を手に入れたことがそれほどまでに嬉しかったのだろう。


 そして――そうこうしている内にいよいよ猟牙の出番が来た。他に残ってるのは委員長だけであり男子では猟牙が最後となる。


「それでは貴方にステータスを付与します」

「はは、もう良いスキルは大体行き渡ったからな。どうせそいつはスカだろうせ」


 勇人が煽るように口にすると委員長以外の生徒たち更に教師の香川までもが嘲笑の声を上げた。


 そんな中――儀式を行ったセイリアの顔が曇る。


「どうしたセイリア。早く済ませるが良い」

「いえ、その確かに今儀式は済んだのですが――ステータスが見えないのです。というよりもステータスもスキルも彼には与えられていない、つまりこの男はただの無能ということです」

「何だと!?」


 話を聞いた国王ガイリルが目を剥き、更に周囲の生徒たちも口々に囁き出しそして――


「は、あはは。おい聞いたかよ! 猟牙の野郎スカどころかステータスが唯一存在しないらしいぜ。まさに無能! あのゴミらしい結果だぜ!」


 勇人がそう勝ち誇ったように叫び笑い出した。それをただ冷めた目で見ている猟牙であったわけだが――

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