第2話 異世界召喚は現実ですか?
「お前たち何を騒いでるんだ」
やってもいない落書きの自作自演疑惑と吉川へのイジメ問題についてクラス中から批判を受けていると、そこへ担任の教師が入ってきた。
香川という教師だ。名前はもう忘れた。
「香川先生。理由は私からお話致します」
荒北が立ち上がり香川に説明した。眉を顰め香川が俺の机にやってきて顔を顰める。
「猟牙。先生は悲しいぞ。こんな事までして皆の気を引こうなんてな」
「そんな先生。まだ猟牙君自信の仕業と決まったわけじゃ……」
「神女、吉川の証言だってある。それにお前以外の全員が猟牙がやったと言ってるんだ」
「そうだそうだ。猟牙が自分でやったんだ!」
「本当根暗よね」
「先生。私も猟牙が自分で机に落書きしてるの見ました~」
委員長だけは俺がやったと思ってないようだけど、他の連中は別だった。濡れ衣を着せた吉川は勿論先生も含めた全員が俺の仕業にしようとしている。
「猟牙お前がやったんだな? 全く先生は言ってきた筈だぞ」
俺が虐められている現場を見ても遊んでるだけで済まそうとした奴だ。この程度の認識なのはわかっていたさ。
「友だちが欲しいなら自分自身が変われと。チャンスは幾らでもあっただろう。お前がクラスに馴染めるようにと高橋も色々気を使ってくれていたはずだ」
「そうだぜ。折角俺がお前の相手してやってたのによ」
先生の発言に追随して高橋が発言した。まるで自分が正しいんだとでもいわんばかりだ。
「とにかくクラスの皆に迷惑を掛けたんだから全員の前で謝るんだ。そして自分で書いた落書きもしっかり掃除するんだぞわかったな?」
「…………うぅ」
「おい何とか言えよ猟牙――」
先生の命令に答えあぐねていると高橋が俺の肩を掴んで詰め寄ってきたわけだが、その瞬間だったクラスが謎の光に包まれる。
このまばゆい光の中でも俺の視線は捉えていた天井一杯に浮かびあがる巨大な魔法陣――そして重力がなくなったかのような浮遊感を覚えながら気づいたら妙な空間に飛ばされていた。
同時に何かが俺の体に入り込むようなそんな感覚があったわけだが――
◇◆◇
「えっと、ここって一体?」
「おいおいどうなってるんだこれ?」
「皆落ち着きなさい! とにかく全員の無事を」
突然の出来事にクラスのほぼ全員が戸惑っていた。これまで教室にいた筈の彼らはいつの間にか全く別な場所に移動していた。
周囲が壁に囲まれておりかなり広い空間でもあった。いたるところに蝋燭が立てられ床には巨大な魔法陣が刻まれている。
教師の香川が混乱する生徒を何とかしようと声を上げるが――
『ようこそいらっしゃいました異世界の皆様――』
その時、何者かの声が耳に届いた。
全員の目が声の主に向けられた。ガラス細工のような美声の持ち主は見た目にも美しい女性だった。
「どうやら召喚は成功したようだな」
更に美しい女性から少し遅れて貫禄のある中年の男が姿を見せた。赤いマントを羽織り頭には王冠。
見た目には中世をベースとした物語に出てくる王様といった様相である。
「その突然のことに困惑しているのですがここはどこなのでしょうか?」
香川が声を掛けてきた二人に質問した。緊張した面持ちで出来るだけ失礼がないようにと言葉を選んでいる節がある。
声を掛けてきた二人以外にも周囲には鎧姿の騎士や杖を持った男女が並んでいた。
下手したらどうなるかわからない――その恐怖から香川は勿論、他の生徒も慎重にならざるを得ないのである。
「ここはランガルド王国の王宮となります。皆様には聞き覚えがない国だとは思いますが、それはここがあなた達の暮らしてきた世界と異なる世界だからです」
よく通る美声で高貴そうな女性が答えた。
「その、貴方は?」
「申し遅れましたが私はセイリア・ロンバリス」
「そして私がこの国の王であるガイリル・ロンバリスである。セイリアは私の娘だ」
香川の質問に二人が答えた。話を聞き香川がギョッとした顔を見せる。
「つまり王様とお姫様……」
「うふふ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。寧ろ皆様は私達が召喚した大事な賓客――三十四名全員大事に扱わせて頂きます」
そう言ってセイリアが恭しく頭を下げた。すると周囲の騎士やローブ姿の男女も前に出て――
『救世主様に敬礼!』
右手を逆側の肩に乗せて背筋を伸ばした。どうやらこれがこの国の礼儀に当たるらしい。
「おいおいマジかよ」
勇人が驚きに目を見開く。その口元は僅かに吊り上げっていた。この状況をどこか喜んでいる節もある。
「このように、この場にいる全員が皆様に敬服しております。強力な力を持った皆様に危害を加えるつもりなどありません」
「は、はぁ……」
セイリアより説明を受けた香川だが生返事をするぐらいしか出来なかった。現実感がなさすぎてどう解釈していいかわかっていないのだろう。
「つまりここは、えっと、私たちの暮らしていた地球ではない別な星ってことかしら?」
状況を掴みきれていない香川に変わって恵利が自分の考えを述べた。それを聞いた一部の生徒がざわめきだす。
「つまり異世界召喚ってことか?」
「現実にそんなことあるんだ……」
「異世界ってなに? わけわかんないんだけど」
「魔法とかあるのかなぁ?」
各々反応は様々だがここが異世界であるということは理解し始めているようである。
「私たちにとっては星は神聖なものでありそこに暮らすという考えはありません。ですが皆様は星で暮らしていたわけですね。だからこそ特別な力を持っているのだと私たちは信じております」
姫が人好きのする笑顔を振りまき答える。この様相に殆どの男子たちが目を奪われた。
「その、話はわかりましたがなぜ私たちを召喚などと?」
香川が質問を重ねた。わざわざ遠い星から全く別な世界に召喚した以上、それ相応の目的があるのだろうと考えたのだろう。
「今、私たちの国は危殆に瀕しております」
「それは危険な状態にあるってことですか」
「はい」
「はは、面白くなってきたな。まさか魔王でも現れたとかいうのか?」
王女セイリアと香川がやり取りしている中、茶化すように勇人が口を挟んだ。
「魔王ですか……確かに魔族の王はそうも呼ばれますし奴らの台頭も問題の一つです」
勇人に答えるようにセイリアが口にした。どうやら魔王も問題には絡んでるようだ。
「しかし、それだけではありません。危険なのは確かですか原因は一つではないのです。例えば今話した魔族が帝国と手を組み各地に侵略を始めていたり、邪教が密かに魔神の復活を目論見各地でテロ行為に走っている事は勿論、凶悪な魔物や魔獣、竜などが跋扈していることなどその要因は多岐にわたります。故に私たちは皆様の力を必要としているのです」
「ま、待ってください。そんな問題に対応出来る力は我々にはありません。その、がっかりさせるようで申し訳ないが我々は教師と学校の生徒でしかないのです」
香川はどこか申し訳なさげな、それでいて弱ったような表情と声で自分たちの立場を説明した。
突然このような状況に置かれた上わけもわからず危険な目に合わされてはたまらないと考えたのかもしれない。
「その点はご安心を。先程も申しましたが異世界から来た者たちは強い力――ステータスが与えられるのです。強力なスキルを授かる場合も少なくありませんので十分この世界でやっていける筈です」
セイリアは一見みんなを安心させようと説明しているようでもあった。そしてステータスと聞いて妙に興奮している者もいる。
もっともこれは言うならば強いステータスがあるのだから国のために働いてくれと言われているようなものなのだが。
「その、ステータスというのは一体? 皆はゲームのようなものを想像しているようだが……」
「ステータスはこの世界では誰もが持つ力の証明です。ステータスとスキルによって生きとし生きる物の能力が決まってきます」
「しかし我々にそんなものは……」
「いえ。間違いなく備わっています。今こうして私たちと普通に話しているのがその証拠です」
「あ……」
セイリアに言われ香川がハッとした顔を見せた。異世界であれば普通は言葉が通じない筈と気がついたのだろう。
「つまりステータスがあるから言葉が通じてるってことか」
勇人が思案顔を見せながら思いついた予想を話した。
「はい。異世界から来た者には言語理解というスキルが備わっている筈です。これで自然と我々の言葉を理解し話すときも我々に通じる言葉で話しているのです」
セイリアの説明に香川が目を丸くさせた。その後訝しげな様子も見せたが事実言葉が通じている。
何かのドッキリかと思えなくないがだとしてもあまりに手が込んでいた。城まで用意し何の変哲もない学校の教師と生徒にドッキリなど仕掛けても意味がないだろう。
それに王女にしても王や兵士たちにしても見た目から異国の人間であることは間違いないと香川は判断したようだ。
それであればなにか特別な文化を持っていたとしてもおかしくないだろう。
「あの、私たちは帰れるんですよね?」
クラスの皆が思い思いの反応を見せる中、委員長の聖羽が思い切った顔でセイリアに聞いた。
普通であれば誰もが気になることだ。当たり前だが彼らには地球での暮らしがある――
作者より
異世界に召喚された後の第2話と第3話は三人称視点で進みます。
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