──その終


「弟よ! 勘違いしてはいけないのだよ恋愛を。付き合ったらそれでゴールじゃないの」


 遂に僕に話を振ってくるバカ姉ちゃん。もちろん僕はすぐに無視をしてやろうと考えたのだけど、その発言の威力が強すぎて思わず雷に打たれたような顔をしてしまった。


 ……えっ? ご、ゴールじゃないのか……? と。だが狼狽えた刹那のタイミングで、ふとある答えが閃いた。


「あっ、なるほど。結婚って意味だろ? 結婚がゴールっていう。そ、それくらい分かってるよ」


 僕は鼻をふふんと鳴らしながらそう言ってやった。


 そんな僕に姉ちゃんは間髪を入れる訳でもなく溜め息を吐きかけてきた。そして、


「死ぬまでが恋愛よ!」


 と、本日二度目の雷を放ってきた。


 な、なんだろう、凄く衝撃的な発言をされた気がした。物凄く良い事を言われた気もした。だけど、よく考えると何か大袈裟な気もしなくはなかった……。なので僕はふとしぃに視線を向けた。


 その瞬間、僕は確かに見た。しぃも姉ちゃんを見つめながら、えっ? そうなの? みたいな顔をしていたのを。けれど僕の視線に気がつくと気を取り直すように咳払いを一つしてからこう言ってきたんだ。


「そ、そうね。付き合っている時も、同棲している最中もゴールじゃないのは間違いないわね。結婚もその過程よ。だって私はあなたの事がずっと好きだから」


 ずっと好きだから。


 ──そんな本日三度目の雷は正直、物凄く気恥ずかしかった。


「弟よ!」


 いちいち語勢を強める姉ちゃん。


「──返事は?」


「な、なんだよ返事って……」


「嬉しい言葉を言われたら、嬉しい言葉で返すのが礼儀でしょ。それが恋愛。当たり前でしょ。バレンタインだってそうでしょ」


 姉ちゃんはたぶん僕が恥ずかしそうにしている様を半分楽しみ始めている。


「ほら!」


「ほらー」


 ぴよちゃんもママの真似をする。


「ほら」


 しぃも面白半分に参戦してきた。


 僕は、僕は──


「し、死ぬまで好きだよ!!」


 そう声を荒らげると、すぐにトイレへと逃げ出した。


 そして顔の火照りが消えた数分後にトイレから出ていくと、女性陣の話の内容はまた変化をしており、たぶん何処かのレストランの食事が美味しいなどと言い合っていた。


 なので僕は、僕は──


 特に仲間に入れてもらえなかったので、仕方なくスマホでゲームをする事にした。


 ただ、僕は思っていた。姉ちゃんに恋愛を語る資格はあるのだろうか……と。さっきは、死ぬまでが恋愛よ! と名言っぽく豪語していたのだけど、現在ぴよちゃんにはパパが居ないわけで……居ないという事は姉ちゃんにはその死ぬまでの相手が存在していないわけで……それって……いや、止めておこう。どうせ僕が姉ちゃん何を言っても、その決着はかなりの高確率で僕が敗北するのだから。


 さあ、スマホゲームが終わったら、風呂に入って、歯磨きをして、寝よう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る