第2話

ここは東京都心にある亜久家所有のビルの一室。

ちょうど一週間前、美紀と出会い商談が成立した場所だ。

今日ここで売り主と買い主の双方が初めて顔を合わせる。

約束の時間より10分早く数馬が美紀を連れてやって来た。

美紀は相当緊張している様子だ。まさか自分の寿命を売る相手が、あの有名な風間光一だと、ここへ向かう車中で数馬から聞かされたのだから無理もない。

そして約束の時間ちょうどに田代が風間を連れてやって来た。

やはり風間も相当緊張している様子だ

だか、美紀の緊張とは又違う緊張なのだろう。

きっと彼の方は今から何をされるのだろうかという不安からくる緊張が大きいのだろう。

麻子は、そんな二人に「5分程で済みますから気を楽にして下さいね」と笑顔で言ったのだった。

その二人を連れて麻子、数馬の4人がエレベーターに乗り込む。

エレベーターの階数表示が、どんどん上昇し、やがて23階で停まった。4人がやって来たのは、このビルの最上階。

エレベーターを降り長い廊下を歩いて行く。

そして一番奥の4つ目の部屋の前で足を止めた。

3つ目迄の部屋の扉は、ごく一般的なドア扉だったのに対し、なぜかこの4つ目の部屋の入り口は病院の手術室を思わせるような自動扉だ。

風間の顔がこわばっている。

数馬が指紋認証で、その扉を開いた。

そこは壁も床も全て白一色で統一されており、ゆうに100人は入れるだろうと思われるくらいの広さだ。

ただ、その部屋の中央にあるのは簡易的なベッドが2つと椅子が一脚置かれているだけの殺風景なものだった。

緊張を隠せない二人に早速、数馬が手慣れた様子で左側にあるベッドに美紀を、右側のベッドに風間が横になるよう指示する。

そして二人の枕元より少し離れた中央の位置に椅子をセットすると「麻子様、準備が整いました」と言うと

麻子が静かにその椅子に腰を下ろすと数馬が、すかさず手にしたリモコンで部屋の照明を薄暗くした。

麻子は左側で寝ている美紀の枕元より少し離れた位置に左の手のひらを、それと同様に風間には右の手のひらをかざした。

そして麻子は寝ている二人にも聞こえないくらいの小声で呪文を唱え出した。

すると美紀の寿命を覆い隠していた奇妙な黒い影が麻子の手のひらに徐々に吸い込まれてゆき、ほんの1分程で全て吸い込まれると美紀の寿命である本来の赤い光が姿を現した。

その光の中心には美紀の寿命である84という数字が、はっきりと映し出されていた。のだが、突然寿命である数字がカウントダウンを開始した。

そして一秒毎に数字は、どんどん減っていき54となったところでピタリと停止した。

と同時に麻子の右の手のひらから、ゆっくりと赤い光が流れ出てきたかと思うと神秘的な輝きを放ちながら

、まるで自らの意志を持っているかのように風間の持つ赤い光へと一体化していった。

今度は風間の寿命である43だった数字が

美紀の時とは逆に一秒毎に、どんどん上昇を始め、やがて84となったところでピタリとカウントを停止したのだった。

こうして麻子の仕事は言った通り、わずか5分程で終了したのだった。

仕事を終え椅子から立ち上がった麻子は、そのまま

意識を失った。

それを見据えていた数馬が麻子を、すかさず抱き抱え

颯爽とビルを後にしたのだった。

麻子が目覚めのは、それから2日後の事だった。

それは、いつもの事で、これも代々受け継がれているらしく母親の葉子の時もそうだった。

幼い頃から麻子は、なかなか目覚めない母を、よく心配したものだ。

いつものように自分の部屋のベッドの中で目を覚ました麻子に傍らで寄り添っていたであろう数馬が

「麻子様、お目覚めですか」と優しく声を掛け、そして、いつものようにホットミルクを運んで来るのだった。

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