第3話
麻子が仕事終えてから1週間後。
仲介人の田代から電話が掛かってきた。
「お嬢様、大変申し訳ございません。風間の妻、春香が、どうしても、お嬢様に会わせろと凄い剣幕で私の所にやって参りまして、どうやら風間の奴、春香に全部喋ったようでして・・・」と大の男が今にも泣き出しそうな声を出していた。
麻子は笑いたいのを噛み殺しながら
「分かったわ。すぐにでも会ってあげるから心配しないで」と田代をなだめるように言ってあげたのだった。
後日、数馬と車でやって来たのは都心にある亜久家所有のビルの一室である。
勿論、この間の殺風景な部屋ではなく普段から応接室として使用している部屋なのでソファーやテーブルが当然の如く置いてある。
5分程ソファーに座って待っているとノックもしないで女が、いきなりドアを開けて入ってきた。
その後ろで田代が申し訳なさそうに立っている。
女は顔を紅潮させ麻子を睨み付けた。
今にも麻子に飛びかかってきそうな勢いだったが
数馬が上手く春香をなだめ、どうにかソファーに座らせた。
それでも春香は、まだ気は治まらずという様子で数馬が運んできた、お茶に一口だけ口を付けると興奮気味に話し出した。
「何故あの人の寿命を延ばしたのよ!あの人には一年前から若い愛人がいて寿命が延びた途端、私に別れてくれって言ってきたわ!
私は、あの人の事を本当に愛していて、あの人が後1年しか生きられないと聞いた時は正直ショックだったけど妻として、あの人の最期を看取る覚悟だって出来ていたのに!」と言って顔を伏せ大声を上げて泣き出した。
「奥様、心配しないで下さい。彼はあなたと絶対に離婚なんてしません。彼の最期を看取るのは妻である、あなたしかいないんですから」と麻子が言うと
春香は、ふいに顔を上げ「それ本当なの?」
と聞いた。
「奥様、私は嘘なんてつきません」と麻子が、きっぱり言うと入って来た時とは、まるで別人のような態度にうってかわり
「ありがとうございます」と礼を言い頭まで下げて帰って行った。
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