第14話  ~⑭~

 カヨちゃんたち三人が、放課後、二組に遊びにきたときは、ジュンちゃんたちも帰らないで、居残ることがたびたびあった。いつも俺たちと、ちょっと離れた窓際のジュンちゃんの席(窓側から二列目の一番後ろ)で、四人でこっちの様子をうかがっている。

 ジュンちゃんは、どうもその様子から、ショートカットで、少しボーイッシュなところがある内気なカヨちゃんのことが、気に入ってるみたいだ。

わざと俺たちに聞こえるように、「占いかあ。俺、今日の星占い一位だったんだぜ」とか、それらしい話題を俺たちの近くにきて、ひとりごとのようにつぶやいて、また元の席に戻っていく。

 ナオはナオで、肩ぐらいの髪がくせっ毛でパーマみたいになってキマっている、明るいナミちゃんが、どうやら好きみたいだ。

 ナオもジュンちゃんの席から、わざと俺たちに聞こえるようにして、「俺、今日ネットの占いで、スーパーミラクルだったんだよねーだ」とか、いったりしてる。

 他の女子四人がそんなジュンちゃんたちを、嫌そうに見たり、無視したりしてるんで、俺もなるべくかかわらないようにしてる。ジュンちゃんたちには悪いけど。そのたびに、「なんてけな気な少年たちだ」とか思って、まるで自分が優位に立ったつもりでいたりする。でも、俺は同じ占い部ってだけで、別にモテてるわけじゃあねえけどさあ。

 アッちゃんはその二人に比べて、別に誰かが好きだとかいう様子はない。女子には興味ありませんみたいな、クールな態度をとり続けている。けど、俺の勘では、ジュンちゃんと同じくカヨちゃんのことが好きなようにも見えるし、アッちゃんはモテるから、クラスで一番美人の成木田陽奈のことを、ひそかにねらってるのかもしれない。

 一方、ソウタの場合はバレバレだ。ショートの髪を少し刈り上げてあるおしゃべりなトモちゃんに、直接声をかけてきたことがあるからだ。

 ソウタは背が低く、まだ小学生臭がぬけていないが、そういうとこは逆に得意なんだろうか?

 俺たちというより、女子三人組が話していると、あるときソウタが、「あのー……」ってトモちゃんに声をかけてきた。トモちゃんも人がいいからか、「なんですか?」って答えてた。

「あのー。よかったらぼくのこと占ってもらえませんか?」

って、ソウタはいきなり聞いたんだ。

「いえ、あ……あの……ごめんなさい。私、まだカードとか持ってないので」

って、トモちゃんも恥ずかしそうに、わざわざ相手しなくてもいいのに、答えていた。

「じゃあ、カードとか手に入ったら、ぜひお願いします。あの……名前は?」

「あ……はい。藤原友海です。じゃあまた」

「ぼくはソウタ。王子谷颯太。じゃあね」

俺はその様子を、「ちっ。ソウタのやつ会話してるぜ」と思いながら、ちょっと胸に変な違和感を覚えたんだ。

 ソウタにちょっと嫉妬みたいなものを感じる自分が、無性に嫌だったんだ。

 ジュンちゃんたちは窓際の方へ戻ってきたソウタを、ささっと教室の隅の一番奥へと連れていった。ソウタは、「ソウタ。おまえなあ。コノヤロー」とかいわれながら、頭をボンボン叩かれていた。

 ソウタは「よくやった。ソウタ」と、友達の中で、一躍ヒーローみたいになっていた。

 三人が教室を出るときにも、ソウタは、「じゃあね。トモちゃん」などというので、またジュンちゃんたちは、「おい。ソウタ。おまえなあ。ト……トモちゃんだとー」とかいって盛り上がっていた。

 トモちゃんは恥ずかしそうに、手なんかちょこっと振ってたりしていた。

 ソウタになんか手など振ってやらなくてもいいのにと、俺はなんかはがゆかったんだよな。だいたいトモちゃんは人見知りする子なんだよ。それをソウタのやつめ。

 しかし、ソウタがあんなに積極的だなんて知らなかった。ポコペンで大騒ぎしたり、まだ小学生みたいなのになあ。

 まあ、俺も人のこといえないか。俺も、ほんの二か月ほど前に中学生になったばかりだ。他の人から見たら、まだ小学生みたいかも。特にサヨカちゃんとかから見たらなあ。俺はまだまだ子どもだ。当たり前のことかもしれないけど。

 それで、俺の場合はそんな浮いた話が何もないかといえば、なくもないんだな。これが。もちろんサヨカちゃんとのことじゃあない。

 ちょうど、サヨカちゃんが初めて俺に声をかけてくれた頃ぐらいだったか。隣の席の宮中藍に、ことあるごとに「シャーペンの芯をちょーだい」とか、「消しゴム。ちょっとかして」とか、いわれるようになった。

 宮中さんは、ちょっと不良っぽくボブヘアにしていて、どこか男勝りなところがある子だ。いつも上履きを、かかとをふんではいてるし、鞄はぺちゃんこにしてるし、少しヤンチャな子なんだ。そのことでよく生徒指導の倉田先生にしかられている。遅刻してきては、先生にしかられている。

 どうやらその宮中さんに、俺は気に入られてるようなんだ。もしかしたらなんとも思ってないのかもしれねえが。

 というのは、最近こんなことがあったんだ。

「堂島くん。君、占いやるんでしょ? 知ってるわよ。みんな。クラスで話題になってんもん。占い部のこと」

と、突然宮中さんに、こんなことを聞かれたんだ。

「ああ。やってるけど。まだほんの少しだけどね。そんな話題になってんのか? 俺たち」

「うん。私はクラブがあるから知らないけど、いつも放課後に集まって何かやってんでしょ? でさあ、私も堂島くんのこと、アキオって呼んでいい? みんなそんなふうに呼んでるらしいじゃん」

「別にいいけどさあ。確かにみんなそう呼んでるから。で、俺はなんて呼べばいいんだ? アオとか、アオイちゃんとか、呼ばれてるみたいだけどさあ」

「アオイちゃんがいいなあ」

「うん。じゃあ。アオイちゃんね」

俺はジュンちゃんたちの姿を目で追った。そしてジュンちゃんたちのとこへいこうと、席を立った。

「ちょっと待って。あのさあ。よかったら、私も占ってほしいのよ」

「えっ? 俺にか?」

「うん。アキオに」

仕方なく俺は座り直し、鞄からタロットカードを取り出して、机の上を少し片づけた。

「ま、いいけど。で、何を占うんだ?」

「好きな人と上手くいくかどうかよ。これ内緒よ。どう? できる?」

アオイちゃんは、俺の耳の方に少し顔を近づけて、聞こえないほどの小声でいった。

 俺はちょっとドキリとして、心臓が一度バウンドしたかのように感じた。近いよ。顔が。

「ま、まあ、一応できるけど。俺のは簡単なやつなんだけど、それでもいい?」

「うん。いいよ。やってみてよ」

俺はしょうがないなというような顔をして、いつものやり方で、カードをシャッフルし、カットして、一つにまとめる。

 今日は、いい機会だから、覚えたてのスリーカードスプレッドをやってみようかと、ひらめいたんだ。

 大アルカナの正位置だけで、「過去」・「現在」・「未来」と占ってみる。カードの上から、一枚、二枚、三枚と、めくってみる。

 カードは「過去」に『愚者』、「現在」に『運命の輪』、未来に『塔』と出た。

 俺はカードの意味をまだちゃんとは覚えていないんで、鞄から本を出してきて、それを見ながら必死でこの結果を考えてみる。

「うーん。たぶんだけど、今がちょうど運命のターニングポイントみたいだよ。過去にはじまったその恋は、だめになるか、びっくりするような結果になるかもなあ。ちょっとこのまま続けてもうまくいかないような気がするかなあ。どうもそんな感じ」

俺はアオイちゃんのいう相手が、もしも俺だった場合(まあ、そんなことはないにしてもだ)、きっとこの占いどおりにだめになるだろうなあと思いつつ、隣,の席のアオイちゃんの目をしっかりと見た。

 アオイちゃんはその結果を聞いて、一瞬押し黙った。

「やっぱり私もそうじゃないかって思ってたんだ。でもさあ。それって上手くいく可能性もあるってことでしょ?」

「ああ。びっくりするほど熱烈な激しい恋になる可能性はある」

俺もよくこんな恥ずかしいセリフをいえるなあと思った。占いじゃあなきゃいえないようなセリフだ。

「そうなんだ。超うれしいよ。マジヤバいよ。ありがとね。アキオ。また占ってね」

「ちょっと待って。確か一番下のカードにも意味があるんだ。ええっと。『月』だから、ええっと。あなたはそれを恐れている。またそれは、あなたにとって未知の世界かも。だってさ」

「きゃあ。ほんとに当たってるよ。アキオの占い当たってるよ。ありがとう。アキオ」

「そういってもらえると助かるよ。俺、まだまだだからさあ」

俺はトモちゃんのことを占ったことはあるけど、なんか初めて自分以外の人を占ったような感覚につつまれた。トモちゃんは同じクラブの女子だったし、あのときはワンカードスプレッドだったし。

 どうやらアオイちゃんにものすごく満足してもらえたみたいだって手ごたえを、ひしひしと感じ、俺は胸からゾクゾクするような感覚にみまわれた。自分でも信じられないくらいだが、ふるえるような感動につつまれた。俺ってもしかして占いの才能あるんじゃあねえかと、思ったほどだから。

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