第11話  ~⑪~

 五月の長い連休が終わると、遠足があった。

 遠足といっても、わりと学校の近所だといえる金石中央公園に、歩いて遊びにいくだけのものだった。石田先生は、「もう君らは小学生じゃあないんだから、これは課外授業なんだよ」と、やけに課外授業であることを強調してた。

 俺は連休がはじまる直前に、約束どおりサヨカちゃんからタロット占いの本、『できるタロット』をかしてもらっていた。「ちゃんと勉強しなさいよ」なんて、サヨカちゃんはうちの母さんみたいなことをいってた。

 それで俺は、連休中にその本を見て、カードの意味を確かめながら、自分で自分を占ったりしてた。カードをシャッフルして一つにまとめ、三つにカットしてからまた一つにまとめて、一番上のカードを一枚だけひくというもの。ワンカードスプレッドとかいうらしい。教えてもらったとおり、逆位置をひいてしまったら、正位置として考えなおす。使うカードは大アルカナだけ。

 何度も俺は、「偉い人になれますか?」とか、「大金持ちになれますか?」とか、占ってみたけど、本を見ても、いまいちカードの意味がわかんなかった。そのカードの意味が、「成功」って書いてあったら、素直に喜んだが。

 大アルカナだけでも二十二枚もある。さっぱり意味を覚えられそうにはなかったんだ。

 遠足は二人一組になって歩いていく。ジュンちゃんとナオ、アッちゃんとソウタが、一組ずつになって、四人で前を歩いている。俺だけあまっちまって、なんか仲間はずれにされたみたいになった。少なくともそんな気分になったんだ。

 俺とペアになったやつは、同じくみんなからはぐれちまった感じの、ちょっとヤンチャな北山だった。

 俺は北山とはあまりしゃべったことはない。北山のとにかくバカな感じがあまり好きではないんだ。なのに北山とは、よく俺が友達からはぐれちまうからか、音楽の時間とか、美術の時間とかに、よく一緒になる。またおまえかというふうに。

 北山も、俺が苦手なのか、さっきからずっと黙って歩いている。

 それでも北山は、これでも学級委員長なんだ。中途半端にどこかヤンチャで、とんでもないバカなやつだったからか、みんなに学級委員長にならされた。みんながこいつならおもしろそうだと、最初は思ったというところが、ほんとのとこだろうな。

北山も、なぜかみんなになじまずに、いつも一人で行動していた。

 しかし、どこが課外授業なんだろうか? 小学生のときの遠足と、何も変わらないじゃあないか!?

 クラスで一番お調子者の田所も、同じような質問を、石田先生にしていた。

「先生。課外授業と、遠足とでは、どう違うのですか?」

「遠足は課外授業の一つよ。いつもの授業以外の君たちのやることは、そのほとんどが課外授業ってことになるわね。遠足は遠足っていうことで合ってるわよ」

「昼休みに弁当を食べることもですか? 先生」

田所はみんなの笑いを誘った。みんな声を立てて笑った。

「そうよう。それもそのひとつよ」

石田先生は、面倒くさそうだったけど、笑顔で答えていた。

 田所といえば、入学式の日に、俺に「アキオ」と速攻であだ名をつけてくれた張本人だ。いい意味で、田所はクラスのムードメーカーとなっている。意外と早くジュンちゃんたちと友達になれたのも、ある意味こいつのおかげだったのかもしれない。

 田所もジュンちゃんたちと同じ、剛田中央小学校の出身だった。あのお調子者ぶりをはっきして、ジュンちゃんたちと仲よくなれるようになったきっかけを、なんとなく作ったのは、田所だったんだ。ほんとにあいつは調子のいいやつだよ。まったく。

バラ園を見学した後は、弁当の時間まで自由行動となった。

 バラ園は、いろんな色の、いろんな種類のバラが咲いていた。

 これだけ咲いてると、確かにきれいだし、テンション上がるけど、おもしろくないといったら、おもしろくなかった。よくもなし。悪くもなし。といったとこだった。

 こういうのは女子受けするのかなあと思ってたら、案外女子もつまんなさそうにしてた。中にはキャーキャーいってる女子もいたけど、それはごく一部だった。あいつらはバラだろうが、なんだろうが、いつもキャーキャーいってるような連中だ。先生が笑えないオヤジギャグをさりげなくいったとしても、まっさきに大笑いするようなやつらだから。

 俺はジュンちゃんたちと、何かおもしろいことはないかなあと、大きなため池の辺りを歩いてた。

 ため池にはいろんな鳥がいて、白鳥やカワウ、カモやアヒルなどが、たくさん水辺を優雅に泳いでいる。俺がジュンちゃんに、「ここではブラックバスは釣れないの?」と、聞いてみたら、ジュンちゃんは、「ここではバスは釣れないんだ」といってた。確かにいつものため池と比べると、釣れなさそうだ。雰囲気が全然違う。

 弁当の時間まで暇だから、何かして遊ぼうってことになった。俺と、ジュンちゃんと、ナオと、アッちゃんと、ソウタで、ポコペンをすることになったんだ。やろうといい出したのは、アッちゃんだった。

 ポコペンとは、かくれんぼと、おにごっこを足したような遊びだ。鬼になった人が隠れてる人を探しにいって、みつけたら壁か何かにタッチし、ポコペンっていう。いわれた人はつかまっちまう。つかまっていない人が、壁か何かにタッチしてポコペンっていえば、つかまってた人はみんな逃げていい。そんなのを繰り返して、みんながつかまって、鬼が交代できるようになるまで続くっていうような遊び。

 ジャンケンをしたら、いいだしっぺのアッちゃんが鬼になった。

アッちゃんはモミの木のところで、数を三十数えている。いーち、にーって。

 俺はつかまった人を助けたくて、すぐに助けれそうな場所の茂みに隠れた。だけど、数え終えたアッちゃんは、まっさきに俺のとこにきて、すぐにつかまえられた。ジュンちゃんとソウタもすぐにつかまったけど、足の速いナオは、隠れるのも上手い。アッちゃんが走り回ってナオを探してる間に、つかまった俺たちだけしかいなくなったモミの木に、ナオがアッちゃんよりも早く、「ポコペン!」と、タッチした。

俺と、ジュンちゃんと、ソウタは解放されて、またアッちゃんが、「くっそー!」って、はじめから鬼をやらなくちゃならなくなったんだ。

 何度かそんなふうにポコペンをして遊んでたら、あっという間に弁当の時間になった。 

 走り回ってたら、すごくお腹が減った。俺たちはみんな、はあはあいいながら草原に座って、弁当箱を広げた。ああ、ほんとにうまそうだ。このときばかりは母さんに少し感謝した。俺の好きなとんかつじゃあないか。

 俺はソウタの横に座り、ジュンちゃんたちと一緒に弁当を食べていた。

 ふと視線を感じて後ろを振り向くと、なぜだかサヨカちゃんが、俺たちの後ろの少し離れたとこで、一人で弁当を食べていた。

 俺はちょっと気まずくなって、すぐにぷいっと前を向いた。あいつほんとに友達少ないんだなあ。一人で食べてるよ。それなのにサンドウィッチって、なんだかうらやましい。洋風ってだけで、なんだかかっこよく見えるし。それになんかうまそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る