第7話 ~⑦~
放課後、さあ帰ろうとしていたときだった。
「アキオ。今、ちょっといい?」
サヨカちゃんに呼びとめられた。
「ああ、大丈夫だ。どうした?」
俺はとっさにジュンちゃんたちの姿を探した。またひやかされると思って。
あいつら、やっぱりまた、にやついてやがる。
「がんばれよー。アキオ」とアッちゃん。
「わかったから、さっさと帰れ。おまえら」
「しょんべん、ちびんなよ。アキオ」
ったくソウタは何をいってんだ?
やっと帰ったか、あいつら。ったくしょうがねえやつらだ。
「で、話なんだった? サヨカちゃん」
「もうすんだかしら? このあいだのポスター、コピーできたんだよ。三十枚くらいだけどね」
「そりゃ、ありがとな。サンキュ。そいじゃあな」
「ちょっと待って。今から一緒にそのコピーをはりにいくのよ。押しピンも用意したし」
「なんか悪い予感したんだよなあ。ついてないぜ」
「占い師の予感ってやつね」
「ち、違うよ。そんなんじゃあねえよ」
「なんだ。違うの? ほら、部員集めないといけないでしょ? まだ正式に部もできていないしさ」
「わかったよ。しょうがねえから、つきあってやるよ。俺も占い部だしな」
コピーはざっと三十枚くらいある。これを全部はっていくのか!? 掲示板に。
サヨカちゃんと一緒に放課後の学校を歩いてまわる。掲示板にポスターをはりながら。
なんか女子と二人で歩いてると緊張する。変な汗が出そうだぜ。サヨカちゃんはそうでもないのか? 俺たち部活中に見えないだろうなあ。もしかしてすげえ仲よしに思われちゃったりして。まさか俺たちが付き合ってるなんて思わねえだろうな。もし思われたら困る。断じて困る。
まず一階から初めて二階、三階へとまわっていく。
やっぱり上級生の校舎は緊張するなあ。女子と一緒と、とは、また違う意味で。こんなときは、やっぱりサヨカちゃんが一緒にいてくれる方がありがたい。上級生はでかいし、なんか怖い。
校舎のありとあらゆる掲示板にポスターをはっていく。
その間中、俺たちはずっと無言だった。
サヨカちゃんは普段から何を考えてるのかわかんないとこがあるけど、黙ってると、よけいにそれがわかんなかった。タロットカードを買ったことも、今のとこはサヨカちゃんに内緒にしておこうと思った。後でびっくりさせてやるんだ。
部室棟の掲示板には三枚もはっておいた。
どうか目立ちますように、部員がきますように、と祈りながら。自分がマジックで書いた、「一緒に占いやろうよ!」の文字が、妙に輝いて見えた。けど、こんなので、ポスターをはっただけで、ほんとに部員なんて集まるのかなあって、ちょっと疑っちまう俺がいる。いけない俺。
最後のポスターを二枚、体育館前の掲示板にはり終えた後、俺はほっとしたのか、ふとサヨカちゃんに聞いてみた。
「サヨカちゃんはどうして占い部を作ろうと思ったんだ?」
「だって占いって楽しいじゃん。おもしろいじゃん。占い部がない方がおかしいとは思わないの? アキオは?」
「ちょっと俺にはわかんないけどなあ。まあいいや。なんで最初は俺だったんだよ」
少しサヨカちゃんは黙ってしまった。
「アキオならやれるってほんとに思ったんだよ。やってくれるって思ったんだ。前にもいったとおりだよ。それに……」
「それに、なんだよ」
なんなんだよ。サヨカちゃん、急にマジモードっぽくなっちゃってさ。
「クラスで知ってるやつが、アキオだけだったからだ」
サヨカちゃんは大きな声で叫ぶようにしていった。
「それみろ。やっぱそういう理由かあ。結局さあ。おまえ友達少なそうだもんなあ。いっつも一人で本読んでてさあ」
「そんなことないよ。あんたにいわれたくないよ。そりゃあいっつも一人で本読んでるかもしれないけど、友達の一人や二人はすぐできるって、私も思われたいよ。私はそんなダサくないから」
「だから、なにキレてんだよ。俺なんかまずいことでもいったか? 俺たちまだ中学生になったばっかなんだから、その気になりゃあ友達くらいこれからいくらでもできるって」
「アキオはいいかっこしすぎなんだよ。ほんとはそんなこと思ってないんだろ? 私には友達なんてできないって、そんな顔してるよ」
「わかった。わかった。落ち着けって。俺たちもう友達みたいなもんじゃあねえか。それでいいじゃあねえか。アキオ、サヨカちゃんの仲じゃあねえか。なあ、もうそれでいいだろ?」
「うー。まあ、今はそういうことにしておいてやるよ」
なりゆきだが、俺は、今ここで、サヨカちゃんと友達になった。
でも、サヨカちゃんってこんな怒りっぽいキャラだったっけ? なんで俺、体育館の前で、こんなことで、キレられなきゃいけないのか、まったくわかんないよ。
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