第3話 ~③~
斎藤さん……もうサヨカちゃんって呼ぼうか。
サヨカちゃんは黙って当たり前のように自分の席に座り、俺にも前に座るように勧めた。なんの飾り気もない鞄から、黒いポーチに大事そうにしまわれたカードらしきものを取り出す。これがタロットカードというやつか。
「これはタロットカードっていうのよ。これで占うの。見たことある?」
サヨカちゃんは俺の思ってることを復唱するようにいった。
「だって小学生のときもやってたじゃあないか」
目の前の机に、タロットカードが分厚い塊として、この机じゃあ狭そうにばらまかれていく。
そのタロットカードがなんかかっこよく俺には思えて、息をのんだ。なんか周りの空気もさっきと違ってる。空気の糸がピンと張りつめたみたいな感じ。俺とサヨカちゃんとのこの場だけが、ちょっとだけ時が止まっちまった感じ。なんだかわかんないけどかっこいい。
「だけどさあ。部を一から立ち上げるのってなんかしんどくないか?」
俺は緊張して、思わず話しかけちまった。
「だから、占いがいけるっていってるんだから大丈夫だよ」
「そんなに信用できるもんなのかよ。占いって」
「私はあまりはずしたことないのよ。絶対当たるから心配しないで」
「当たりすぎてか知らねえけど、小学生のとき怒られてたじゃねーかよ」
「あれは相手がバカだったのよ。私は悪くない」
「俺にはあんまりわかんねえなあ」
目の前でシャッフルされていくカードを見てると、小学生のときにちょっとやったカードゲームを思い出した。
俺は弱かったからなあ。友達と比べても全然だめだった。だからすぐやめたんだったっけ。弱い弱いとからかわれるのも癪にさわったんだ。その次の日からもうカードゲームはやめたんだった。
サヨカちゃんはさっきから黙って、真剣な目をして、カードをシャッフルし続けている。いったい何枚あるんだと思うほど、タロットカードはたくさんあった。この机じゃあおさまりきれないほどに。
「次の授業まであまり時間ないから、一枚だけでいい?」
そうだった。今は昼休みの時間だった。
周りを見てみると、こっちを見ながらこそこそ話してる女子とか結構いるじゃあねえか。俺たちちょっとした噂になってるぞ。
俺が座ってる席も、あまり知らないやつの席だし。いいのかあ。勝手に座っちゃって。
「なんでもいいよ」
と、俺はぼそっという。
「その席だけど、今、前の人、太田さんは遊びにいってていないから、別に座ってても大丈夫だよ」
「そうかあ。わかった」
なんだよ。気持ち悪いこというなあ。俺の考えてたことくらいわかってますみたいなこと。もしかして顔に書いてあるとかいうやつか。
サヨカちゃんは一度カードを一つにまとめてから、手で持ってシャッフルしはじめた。それから三つにそれをカットして、机に並べてから、またすばやく一つにまとめた。
その一連の動作があまりに鮮やかだったので、俺は口をぽかんとバカみたいに開けて、ついみとれちまった。
そしてサヨカちゃんは一番上のカードを表に向けた。
「これは『ペンタクルのⅢ』の正位置よ。ほんとにあんたって人は占いに向いてるわよ。あんたには可能性があるわ。それも仲間と一緒にやってくことでね」
「はあ? なんでこんなのでそんなことがわかるんだ?」
「カードがそう暗示してるのよ。それぞれのカードに意味があるのよ」
「ちょっと話変えていいか? 聞きたいことあるんだけど、やっぱ俺に声をかけたのって、あれか? 俺しか知ってるやつがいなかったからか?」
「うーん。それもちょっとある。でも、違う。上手くいえないけれど、あなたならほんとにやってくれる、向いてるって、ほんとに思ったんだよ。ただの勘だよ」
「ふーん。勘だかなんか知らねーけど、かっこいいじゃん。そのタロットカードってやつさあ」
俺はカードを指差していった。
ふんと、サヨカちゃんは一度カードをシャッフルしてから、黒いケースにしまい、それを鞄の中にそっとなおした。
「だったらあんたもやってみたら? もちろん信じるか信じないかは、あんたの自由だけど」
俺は初めて体験したタロット占いに、かなり興奮してる。
あの時、先輩たちのバスケの練習試合で、俺たちの学校が勝ったのを見た時と似た興奮だ。はっきりいってテンションが上がってる。
自分が占いなんて信じる方ではないと思ってたが、いわれてみると結構当たってんじゃあねえか? サヨカちゃんのことをちょっと尊敬しちまった。
占い部ならなんとか上手くやっていけるのではないかと思えてきた。
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