第2話 ~②~
斉藤さんはこんなにも冷静沈着に話すのか。俺は少し面食らった。
斉藤さんのそのように淡々と話すとこや、勝手に話を進めていくとこが、俺にはちょっと怖く思えて、背筋がぞっとした。
「俺のことはアキオでいいよ。面倒くさいだろ?」
「じゃあ、あんたのこと、面倒くさいから、私はアキオって呼ぶよ」
入学式のとき、自己紹介をした後から、俺のあだ名はすぐに「アキオ」と決まった。
クラスの誰かが、「おまえはアキオだな。アキオだ。そんな顔してるぜ」と、俺をはやしたてた。みんなが笑った。それから俺は、無理矢理に近い形で、「アキオ」となった。
斎藤さん以外、誰も知ってるやつがいない中で、これは俺がクラスに溶けこめるうれしい誤算となったんだ。俺は心の中でガッツポーズをとった。
今では仲のよい友達はみんな、俺のことを「アキオ」と呼ぶ。
「ああ、遠慮なくそう呼んでくれ。じゃあ、俺もおまえのことサヨカって呼んでいいか?」
「それはだめだよ。せめてサヨカちゃんならいいけど」
斎藤さんはとても嫌そうに、両手でイヤイヤと手を振った。そんなに嫌なのか。
「なんだよ。それ。ああ、わかったよ。じゃあサヨカちゃんならいいんだな?」
俺も強がっていってみたものの、あまり仲よくもない女子である斎藤さんのことを、「サヨカちゃん」なんて呼ぶのは、少し恥ずかしかった。
まして自分が一度でも斎藤さんのことを、「サヨカちゃん」と呼んでしまったことに、今さらながら後悔した。血が顔へと逆流するのを感じた。耳が熱い。
「そうよ。ア……アキオ」
斎藤さんにあんなに嫌がられたことも、今になってよけいに恥ずかしくなってきた。(何をいってんだ。俺は。まあ、斎藤さんがいいっていってんだから、まあ、いいかあ)と、俺はなんでもねえぞと、いった具合に、もはや開きなおるしかなかったんだ。
「こ……これでいいんだな。サ……サヨカちゃん」
ちょっと勇気がいった。
「それでさあ。アキオ。ぜひあなたに占い部に入ってほしいのよ。何もクラブ活動してないんでしょ?」
俺はこんなにも恥ずかしがって悩んでるのに、斎藤さんは平然と「アキオ」と呼んでる。
斎藤さんは何も恥ずかしくないというのか!? 俺はこんなにもおろおろしているというのに。内心ではな。顔にも出てると思うが。斎藤さんの方がきっと大人なんだろうな。俺なんかよりずっと。まだまだこっちは子どもなんだろうな。
「占いは確かにうちの母さんもいっときハマってたんだよ。でもさあ。この学校に占い部なんてあったっけ?」
母さんは昔、占いにハマって、よく有名な占い師とかにも、みてもらったりしてたことがある。
動物占いとか、色占い、オーラ診断、手相占い、それはもういろいろだ。自分でタロット占いとかもやって、友達をみてあげたりしてたから、あのタロットカードのことは知ってる。
今でも興味はあるみたいだけど、パートの仕事の方が忙しくなって、昔ほどではない。
「ないわ。今は私一人なの。これから作るのよ。それも占いで出たのよ。占い部は上手くいくって」
「なんだよ。それ。そんなんも占いで出るのかよ。そんなに占い占いっていうんなら、そのあれだ。俺が本当に占いに向いてんのかひとつ占ってくれよ」
母さんが昔占いにハマってたからって、俺に占いができるなんてかぎらない。
そんな才能いらねえよ。俺に占いなんてできるわけがねえよ。なんで俺が選ばれたのかまったくわかんねえよ。まあ、興味ねえことはねえんだけどな。
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