占い部 アキオ
神崎翔
第1話 ~①~
それは、中学生になって、一か月くらいたとうかとした頃だった。
あまりに突然すぎるくらいに、思いもしない人間から、俺、堂島彰生は後ろから声をかけられた。
斉藤沙世香だった。
斉藤さんとは小学五年生と六年生のときに、同じクラスだったけど、口をきいたことはない。どうやら占いが好きらしいというのは知ってたんだ。でも、あまり当たらないので有名だった。それでクラスの女子たちを怒らせてしまって、軽く無視されたりしてた。それでも斉藤さんの占いは女子からは人気があった。あのカードとか使うやつ。
「堂島くん。あなた占い部に入らない?」
って、いきなり後ろから声をかけられたんだ。
中学生になって同じ剛田東小学校出身で知ってるやつは、クラスでは斉藤さんだけだった。だからといって親しく話したりはしなかった。
俺はむしろ知らない剛田中央小学校出身の、気の合いそうな子たちと、友達になりたがったんだ。
中学生になって新しい生活がはじまり、制服とか鞄とかも新しくなって、とにかく新たなスタートっていうのがうれしかったんだ。だから友達だって、新しい友達がほしかったんだ。
「もしまだどこのクラブにも入ってなくて、よかったらだけど」
どうして俺なんだ? と、俺は思った。なんでよりによって俺が占い? 他にもいるだろ? それっぽい女子とか、と。
斉藤さんっていったら卒業式のときに、わんわん俺の後ろで泣いてた女の子だ。なんでそんなに泣くんだ、女子はと、あのときは不思議に思った。見てみろ。中学に入学して斉藤さんだってけろっとしてるじゃあないか。
斉藤さんは、小学生の時は、髪を三つ編みにしてた。今は田舎くさいミディアムのストレートヘアだけど、少しだけくせっ毛なので、それがよけいに田舎くささをかもしだしてる。都会に比べたら、ここはまだまだ田舎だから、よけいにそう思えるのかもしれないな。
ちなみにこの学校は、男子の髪型はみんな丸坊主だった。初めは嫌だったけど、みんながみんな丸坊主なんで、今ではもう慣れた。
「どうしてもあんたが嫌だってんなら、別にいいけど」
斉藤さんが髪型を変えたことには、入学式のときに気がついた。それでもあれっ? と思っただけで、なんとも思わなかった。
クラスの発表のとき、知ってるやつは斉藤さんしかいなかった。変わったのは髪型だけで、暗そうな雰囲気とか何も変わってなかった。
俺は別に寂しいとか心細いとかも思わなかった。新しいってことの方が、俺にとって重要だったんだ。よーしここは新しい友達でも作ってやるかって気分だったんだ。
「どこのクラブにも俺は入ってないけどさあ。どうして俺がまた占い部なんだよ?」
俺はその新しくできた違う小学校出身の友達(剛田中央小学校出身の友達)と一緒に、五人でバスケ部へ、入学してすぐに入部した。
仮入部したときに見た先輩たちの姿がかっこよかったので、すぐに入部を決めたんだった。
いきなり練習試合を見学させてもらった。試合は俺たち剛田中学校が勝った。シュートが決まった時の先輩たちの勇姿がたとえようもなくかっこよかったんだ。俺たちも先輩たちみたいになりたいと。
だが現実はそうじゃなかったんだ。上手くいかなかった。自分たちが甘かったんだ。
一日中走りっぱなしだった。ボールになんてさわらせてくれない。どなられっぱなし。
顧問の倉田って先生がまた最悪で、竹刀を片手に持ちながら、指導している。とても怖い。なんども竹刀でシリを叩かれた。頭も二、三度叩かれた。友達も同じように叩かれてた。口も汚い。「何しとんじゃあ。堂島。このボケが!」って関西弁だからよけいに怖い。スキンヘッドにサングラス姿で、まるでヤクザだとしか思えない。
俺以外の四人は、二、三日で、やめちまった。
俺ももともと新しくできた友達と仲よくしたかっただけなんで(初めの先輩のようなプレーをしたいというのは、どこかへいっちまった)、すぐに退部届を出した。
職員室に入る前から、俺はビビッてた。そのときの倉田先生は何もいわなかった。何もいわずに、受け取った退部届をちらっと見て、サングラスの奥から俺の目をじっと見てた。冷や汗が出た。「失礼します!」と、急いで職員室を出た。何もいわなけりゃいわないで、よけいに倉田先生は怖かった。
だから確かに今は、俺は、なんのクラブにも入ってないけどさ。
「なんであんたかって? それは占いで出たからよ。堂島くんのこと占ったら、やった方がいいってさ」
「勝手に人のこと占うなよ。なんなんだよ。それ? 占いで出たって」
「言葉どおりの意味よ。ほんとに堂島くん占いに向いてるわ。なんのクラブにも入ってなくてよかったわ」
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