岩本の過去⑧
岩本たちのバンドは何度かスタジオで練習をしたが全く問題ないほど、演奏が安定していた。岩本が集めた高中コピーバンドだったが、岩本はPink Floydもやりたいなどと思い始めていた。しかし、ここで急にPink Floydをやりたいなどと言ったら、また高校の時のようにバンドが終わると思った岩本は何も言わなかった。岩本も少しは成長していた。だが、バンドメンバーたちは岩本のわずかな変化に敏感だった。
「岩本君、何か言いたいことあるの?」
加藤が真面目な表情を岩本に向ける。岩本は図星だったが「そんなことないです」と首を横に振った。しかし、田中が続ける。
「言いたいことあるなら言った方がいいよ。遠慮せずに」
岩本はやはり躊躇したが、思い切って思いのたけを話す。
「実は最近Pink Floydというバンドが好きになって、高中だけじゃなくPink Floydもやりたくなってしまって……」
岩本の告白はみんなを喜ばせてた。
「あー、そういうことか。いいんじゃない? Pink Floyd、俺も田中も今泉さんも好きだしね。今回は間に合わないだろうけど、今度やろうよ」
加藤がそう言うと、田中と今泉の2人もそうだねー、と反応をした。岩本は自分の意見を聞いてもらえてとてもうれしかった。今回は高中だが、次回はPink Floydをやれると思うと、岩本はがぜんやる気が湧いてきた。今回の高中を完璧にして、Pink Floydのデヴィッド・ギルモアのギターに挑もう、そう強く思った。
初ライブの日がやってきた。ライブはサークル内の小さなライブなので、場慣れしている岩本たちにとっては特に緊張もしなかった。岩本たち高中コピーバンドの順番がやってくる。演奏はスタジオ練習通りにうまくいった。田中のドラムも加藤のベースも今泉のキーボードも特に問題なかった。しかし、岩本のギターだけが、デヴィッド・ギルモアを意識してしまったのか、ロングトーンのフュージョンらしくないギターになってしまっていた。バンドメンバーは演奏中、岩本がおかしいと気づいたが、特に演奏を崩すことはなかった。演奏後、バンドメンバーが岩本に言う。
「岩本君、デヴィッド・ギルモア意識したでしょ?」
「はい、つい……」
「まったく……。まあそこまでおかしくならなかったけど、気を付けてね」
岩本は軽く加藤から説教を受けると、少し落ち込んだ。しかし、次はPink Floydが演奏できるのだと思うと、次のライブへの活力が湧いてきた。
岩本と今泉はデートの約束をしていた。秋の季節で紅葉を見に行くという少し学生にしては渋いデートだったが、今泉も岩本もそういうデートが好きだった。免許を取ったばかりの岩本が運転し、紅葉を見に行く。岩本は運転に自信がなかったが、今泉のためならと頑張って運転をすることにした。道中、ドライブスルーでハンバーガーを買って食べたり、高速道路でかなりビビってしまったりと様々なイベントがあったが、岩本は何とか乗り切った。
目的地の紅葉スポットに着くと、たくさんの観光客が押し寄せていた。雰囲気もなにもあったもんじゃないなと思ったが、紅葉はとても綺麗だった。今泉の肩を抱き寄せながら、2人で秋の空気感を楽しんだ。売店でソフトクリームを買った岩本たちは、2人でマロンクリームのソフトクリームを舐めて幸せだなあなどと思った。
帰り道は岩本は退屈だし、緊張していた。なぜなら助手席で今泉が眠ってしまっていたからだ。話し相手はいないし、事故にあったらどうしようという緊張感が岩本を襲っていた。しかし、しっかりこの子を家に送り付けなければならないという使命感が岩本を強くさせた。道中、危ない目にあいながらも、なんとか今泉の家に彼女を送り届けた。今泉をゆすって岩本は起こす。すると目を覚ました今泉は「ちょっと寄っていかない?」と言った。岩本は「レンタカーを返さないと」と言ったが、「いいから」と言って、無理やり家に連れ込まれた。そして、部屋に入るなり、キスをされた。岩本は突然のことに目を丸くしながらも今泉からの愛に応えた。一枚ずつ今泉の服を脱がし、岩本自身も服を脱いでいく。今泉の胸は大きく柔らかかった。一方で岩本の男根も大きく固くなっていた。胸を乱暴に揉むと今泉が「痛い」と言ったが、激しく揉み続けた。だんだんと今泉も興奮が高まっていったようで、岩本の男根を強く擦りだした。岩本はそれだけで射精しそうになるが、なんとか我慢し、財布に入っていたコンドームを装着した。今泉も準備はできていたので、今泉の女性の部分に岩本は自身の男性の部分を挿入した。10回ほど出し入れすると、すぐに射精してしまった。今泉が笑いながら「早すぎ」と文句を言ったが、岩本も笑って返した。これが岩本の初めての体験だった。事後、2人は楽しく話していた。
「昭、初めて?」
「初めてだよ。優子は?」
「私は初めてじゃないよ。ごめんね」
「気にしてないよ。すごくよかった」
「私もすごく気持ちよかった」
「もう1回したところだけど、レンタカーを返さないといけないから、もう行くね」
「うん。またね」
岩本は今泉の部屋を後にした。レンタカーを運転しながら岩本は今泉との行為を思い返していた。こんなに気持ちがいいものなのかと思いながら、帰ったら思い出して1人でしようと思った。レンタカーを返すと岩本は電車に乗り、自宅へ帰っていった。自宅へ着くやいなや、さっきの行為を思い出し、下着を降ろす。自身を擦りながら岩本はすぐに果てた。岩本は満足するとその日は風呂に入ってすぐに眠りに着いた。
次の日、岩本は今泉を見かけると、すぐに駆け寄っていく。
「優子」
「ああ、昭。おはよう」
「昨日は楽しかったね」
「うん!」
今泉も岩本も昨日のことを思いだし、楽しい気持ちになっていた。そして、会話は次のライブの話になる。
「Pink Floydやりたいって言ったけど、昭は何やりたい?」
「俺は「Money」やりたいかな。優子は?」
「私も「Money」やりたい! ちょうどいいね」
「よかった。先輩にも聞いてみないとね」
加藤と田中、2人の先輩にもやりたい曲を聞いてみたが、「Time」と「Money」をやりたいという回答だった。それならみんなやりたいしちょうどいいという話になって、あっさりと曲が決まった。それからは楽器の練習の日々が続いた。今泉と岩本の関係も安定しており、喧嘩なども一度も起きなかった。バンドメンバーで集まり、練習し、岩本と今泉が一緒に帰って、行為に及ぶという流れが多かった。バンドメンバーでのスタジオ練習もみんな演奏力があったので、大して問題にはならなかったが、デヴィッド・ギルモア役の岩本の負担が大きかった。歌いながら弾くことに慣れておらず、どちらかに寄ってしまう癖があった。さらに岩本は耳が悪いので英語の発音の聞き取りがうまくできず、ボーカルには不向きだった。なので、ボーカルの経験がある加藤がベースボーカルを担当した。そうして、あっという間にライブの日がやってきた。
岩本たちのバンドは、予定通り「Time」と「Money」を演奏した。Pink Floydはサークル内でも人気のバンドだったので、盛り上がった。だが、他のバンドがコピーしていたKing Crimsonの方が場が盛り上がっていた。岩本たちもそのコピーバンドの演奏を聴いていたが自分たちよりもはるかにうまく、盛り上がる様を見て、悔しさがメラメラと燃え上がった。けれどもそれ以上に、King Crimsonというかっこいい曲を持ったバンドの方に興味が湧いた。打ち上げの席で演奏していた先輩に岩本は話しかけた。
「King Crimsonってすごいかっこいいんですね。先輩のたちの演奏もものすごかったです。今日やったKing Crimsonの曲はなんていうんですか?」
「ああ、ありがとう。岩本たちのPink Floydも良かったよ。今日やったのは「太陽と戦慄Part2」と「Easy Money」だよ。両方太陽と戦慄ってアルバムには入っているよ」
「買って聴いてみます」
岩本は音楽に対してとても熱心になっていた。
岩本はKing Crimsonの魅力にも夢中になっていった。どうやらKing CrimsonもPink Floydと同じプログレッシブロックというジャンルらしいと知って、なお音楽への興味が深まった。岩本は次のライブはKing Crimsonをやろうと固く誓った。さらにプログレッシブロックの他のバンドも聴き漁るようになっていった。
それからの岩本の学生生活はとても楽しく、充実していた。友達も多くいたし、今泉との交際も順調だった。バンドもKing Crimsonや高中など様々な音楽を披露していった。岩本は本当にこの頃生きていてよかったと実感していた。そして、岩本は就職活動をする時期に差し掛かっていた。岩本は専門学校とつながりのある佐藤工業と縁があり入社することが決まった。そんな折、今泉の方から話があると港町にデートしに行き、ディナーを楽しんだのち、港で今泉が岩本にプロポーズをしてきた。
「昭、結婚しようよ」
「俺耳悪いけどいいのか?」
「関係ないよ」
岩本はこれまでの人生を思い返し、思わず涙があふれた。今までの辛かったことが今泉によって上書きされ、いい記憶に変わっていく。そして今回のプロポーズにより、岩本は過去最高に幸せだった。そうして2人は結婚し、子供にも恵まれた。2人は幸せだった。しかし、トラブルメーカーの岩本には会社員として働くのは難しかった。日々、問題を起こしていたが、その度に周りの人たちに助けられた。だが、岩本は助けられている自覚はなく、当たり前ととらえていた。そんな厄介者の岩本は当然、会社で嫌われていった。その都度、岩本は妻である今泉に当たり、妻を悲しませていた。子供たちもそんな家族仲だったので、委縮してしまうことが多かった。岩本は会社や家族を不幸にしていた。
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