第5話 お迎え

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 村からトマスが慌てた様子で駆けてくる。


 トマスの後ろには、もう一人、ドタドタと駆けてくる人物がいた。老人である。


「誰だろう?」と、マルコは顔を確認し、「村長だ」と声を上げた。


 トマスと村長はマルコたちの元に辿り着いた。


「どうしたの?」


 と、マルコが尋ねる。


 村長は、ぜいぜいと荒い息を整えてからシレンに向き直り、


「マオック村の村長のサンチョです。転生勇者様たちが既に山に入られたと聞き及び、ご挨拶に参りました」


 シレンと村長の間に割って入るようにオフィーリアが前に出た。


「ご苦労様です。こちらが転生勇者のシレン様。わたしは宮廷で女官長を勤めておりますオフィーリア・スラゼントスと申します」


「おばさん、偉い人だったんだ!」


 と、マルコが大声を出す。


「これ!」と、村長がマルコをたしなめた。


 村長が握手をしようとオフィーリアに手をさしのべる。


「いえ」


 と、オフィーリアは握手を断った。


「こんなですから」と両手を顔の前にかざす。


 オフィーリアの両手の指先は土と草の汁で泥だらけになっていた。


 ちなみにシレンも同様だ。


「おまえら、何をやらせとるか!」


 と、村長の雷はマルコの上に落ちた。


「だって、自分でやりたがったんだよ」


 村長は聞く耳を持たない。


「さて、マルコ。悪いが残りの収穫は一人でやってくれ」


 村長の言葉で地面に置いてあるマルコの籠をトマスが持ち上げた。


 やはり地面に置かれているエリスの籠にマルコの籠の中身を移し替える。


 もちろん二人の籠にはオフィーリアとシレンが採取した薬草も入っていた。


 トマスはエリスの籠を背負った。四人が採取した薬草が、すべて入っている。


「重いだろうから、こいつは先に持ち帰っておくからな」


「え? 何? どういうこと?」


 マルコは、わけがわからない。


 村長がオフィーリアとシレン、次いでエリスに言う。


「皆様も村にお戻り下さい。エリスは転生勇者様たちのご案内だ。わざわざ迎えに来て下さったのだぞ」


「やっぱり」


 と、エリスはうつむいた。


「明日だって聞いてたのに」


「出発はな。今日は転生勇者様のお忍びの国内視察だ」


 その割には派手な姿だけど。


「エリス、どっか行くの?」


 マルコはうつむいてしまったエリスに問いかけた。


 覚悟を決めたようにエリスは顔を上げマルコの顔を正面から見返す。


「クスリナ王立薬草学院の特待生に選ばれたの。明日から三年間、王都に行ってくる」


「やだ」


 マルコの返答は間髪がなかった。


「三年よ、たった三年。卒業したら村へ戻ってきて薬師をやるわ」


 エリスは慌てて取り繕った。


「僕も行く」


 エリスの瞳には必死の形相のマルコが映っている。


「『僕も』と言ってもエリスは特待生に選ばれたんだから」と村長。


「エリス、マルコに伝えていなかったのか?」


 エリスは嫌々をするように首を振った。


 マルコを除く誰もが『きっと言いだせなかったのだろう』とエリスの心情を察した。


 マルコには、そのような余裕はない。


「じゃ、僕も特待生になる。オフィーリアさん、どうやったらなれる?」


 オフィーリアは返答に窮した。


「各地の町村長から推薦状をもらった者に対して王都で厳正な審査を行って」などと無味乾燥な説明文的な言葉を口にする。


 終いまで聞かずマルコは村長に詰め寄った。


「村長、推薦状書いて!」


「書けるかっ! 村始まって以来の才女であるエリスと典型的な村人Aのおまえでは大違いじゃ!」


「村長っ!」


 エリスがキッと村長を睨みつけた。


 村長はハッとする。


「あ、いや、別に村人Aを馬鹿にして言っているわけじゃないぞ。ただ、まあ今回は間に合わない話であるしエリスには準備もあるから皆様方にはひとまず村に戻っていただいて。マルコ、後は頼んだぞ」


 村長はマルコ以外の面々を追い立てるようにして、そそくさとその場を後にした。


 マルコは空になった状態で置かれている自分の籠の脇に沈むように座り込む。


 先刻、何か面白くなりそうな気がして高鳴っていたマルコの胸が今はつぶれそうだ。


 面白さは、あっという間に、どこかに消え去っていた。

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