第4話 秘密を知った者は生かしておけない
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マルコとエリスはオフィーリアとシレンに山の薬草園を紹介した。
危険な山奥深くまで分け入らなくても沢山の種類の薬草類を採取できるようにと、村の先人たちが近くの山を開墾して薬木や薬草の移植を行ってきた。
というより、現在ではマオック村周辺に生えている草木は大半が何らかの薬効成分を持つ植物ばかりであった。
ある程度は計画的に栽培を行い収穫時期のコントロールも行っているため山に入った村人が手当たり次第に薬草を採取すれば良いというわけではない。
村内で収入に不公平が生じないよう通常の薬草は収穫量の割り振りが行われていた。
村全体として週の収穫量、日の収穫量を決定し、それを細かく当日山に入る予定の村人の戸数で割って一家族当たりの収穫量が決められている。
したがって早起きをしなくても、ゆっくりと山に入って規定量を収穫して帰りさえすれば一日の収入は確保できる仕組みだった。
逆に早く山に入って村から近い場所で既定の収穫量を採取できた者には時間的な余裕ができる。
栽培が難しく自然任せで年によっては採れたり採れなかったりという希少な薬効植物の採取は早い者勝ちのため、通常薬草の採取に割く時間を短縮し、できた時間を希少薬効植物の採取に当てれば当てるだけ生活は良くなるという理屈である。
休むのも良し、自生している希少な薬効植物を探して収穫するも良し、だった。
もっとも村の大半の住民は時間に追われてあくせく働くことを嫌い、まったりゆったりとスローライフをおくっていた。マルコもそちら側の住人である。
主にエリスが、そのような村の薬草採取の仕組みや具体的な採取方法の説明を行いオフィーリアとシレンも薬草の採取を行っている。
仕事であるマルコやエリスと違ってオフィーリアとシレンにとっては薬草の採取は山での収穫体験というレクリエーションの一種である。まったく苦ではないらしい。
オフィーリアは、わあわあ、きゃあきゃあ、虫が出た、と、一人で大はしゃぎだ。
一方のシレンは、にこりともせずに黙々と採取にいそしんでいた。
嫌々やっているわけでもなさそうなので堅物とか馬鹿まじめといった表現がよく似合う。多分、はしゃぐのが苦手なたちなのだろう。
だが、マルコは気のせいか、薬草の採取を行っているシレンから時々じっと見つめられているような気配を感じていた。
けれども、気配に気がついてシレンの様子を伺ったところで黙々と薬草を採取している姿があるだけだから、やはり気のせいなのかも知れない。
「ちょっと、あんた何したの?」
と、マルコの左側に並んでしゃがみ込み薬草を採取していたエリスが小声でささやきながら右肘でマルコの脇をつついた。
「なに?」
「転生勇者様が、ずっとあんたのこと睨んでるみたいなんだけど」
「やっぱり。なんかさっきから見られてる気がしてたんだ」
マルコは、ひそひそと返事をした。
「睨んでる?」
「物凄く怖い顔で」
「何もしてないよ。エリスだって一緒にいただろ」
「そうね」
「あ! もしかして、ばれたのかも」
「何が?」
「黒歴史、知ってること」
エリスは、一瞬、きょとんとした顔をした。
「そっか。あんた、馬車から降りてきた転生勇者様が誰かわかってたもんね。あんたの夢、ただの変な夢じゃなかったんだ」
マルコは、ちょっとだけ得意げな顔になる。
「でも、それでなんで睨まれるの?」
「ほら、秘密を知った者は生かしておけない、って奴じゃない?」
言ってから二人は顔を見合わせて青くなった。
シレンの様子を、こっそりとのぞき見る。
シレンは地面にしゃがみ込み、てきぱきと薬草をむしりとっていた。
オフィーリアもそうだが儀礼用のぴかぴかの鎧や衣装で行う作業では絶対にない。
見られている気配を感じたのかシレンが手を止めた。
「ひ!」と、マルコとエリスは息を呑む。
二人は慌てて目をそらした。
がしゃりと鎧のこすれる音がする。シレンが立ち上がったのだ。
静寂。
何も起こらない。
マルコとエリスは、ゆっくりとシレンへ振り返る。
シレンは立ち上がり、村がある方向を、じっと見つめていた。
「何だろう?」
マルコとエリスも立ち上がって同じ方向を見る。
変わった様子は何もない。ただ草木が続いているだけだ。
三人の様子に気がついたオフィーリアがシレンに声をかけた。
「シレンさん。どうかいたしまして?」
「誰か来ます」
シレンの言うとおり、しばらくすると木陰から走ってくる人影が現れた。
門番のトマスだった。
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