子供という化物たち

 ごめんなちゃい。

 本編でも言わなかった一部の会話でございやす。


 「え?創一いくら負けたって?」


 「⋯⋯6」


 煽るように隣で不機嫌そうに潔子の用意した夕食を口にする仁は、ボソッと呟く。

 だがあまりに嬉しいのか、リードはもう一度尋ねる。


 「え?いくらだって?」


 「⋯⋯⋯⋯六億だって聞こえねぇのか?  

 ええ? リード、正直に言えや。ぶち殺されたくなかったら今すぐそのなめくさった言葉遣いを直しやがれ」


 「あら仁くん?お友達にそんな言葉遣いじゃだめじゃない」


 「失礼しました」


 食卓でとても話すような会話ではないのだが、野田一家と仁、そしてこの9人を含めた全員で食事をとっていた。


 「というよりも」


 潔子が短く言葉を切って仁へと視線が向く。それに気付いた仁も顔を上げて言葉を待っていた。


 「今六億って言ったのかしら?」


 「ええ、今かなり落ちましてね株が」


 「⋯⋯ええ?」


 「向こうの株を何十種類持っていたんですが、トチった馬鹿がいたようで、大株主の俺は大ダメージでございます」


 「ごめんなさい。いま色々頭が混乱しているんだけど⋯⋯」


 食事どころではない。

 潔子は目をぱちくりさせて仁を見つめる。


 え?この子⋯⋯金銭感覚狂ってるのかしら?


 「どうしました?」


 潔子は確かに仁の事を普通の子供ではない事を承知の上だった。その事は夫から耳にタコができるほど。

 だがちょくちょく聞こえてくるのもあったが、今やっと狂っている事をある意味理解した瞬間だったのだ。


 「夫から聞いてはいたんだけど、仁くんって本当にお金持ってるのねぇ?」


 何を言いたいのかをその一言で理解した仁は、笑ってその問いに笑って返す。


 「あー。はは、確かにそうですよね」


 「ごめんなさい」


 「いえ謝ることではないですよ。確かにこんなガキが金持ってるようには見えないですよね」


 「仁は凄いんだぞ?っていつも言ってるだろ?潔子」


 「元はといえば具体的な話が空っぽなあなたのせいでしょ!」


 「いったっ!!!!」


 隣で当たり前のようにそう言い放つ誠司に対して、潔子は脛を軽く蹴飛ばす。


 見ていた全員から笑い声が起こる。


 「創一のよしみで⋯⋯良い所教えましょうか?折角だし!」


 リードがお好み焼きをはふはふさせながらそう言うが、潔子は首を横に振る。


 「嬉しい話だけど、失敗のリスクが怖いもの」


 「そういうもんですか?」


 「⋯⋯ええ。それより、リードくんでいいのかしら?」


 「それで大丈夫っす」


 「家族は元気?」


 「あぁ⋯⋯妹ならいるんすけど、親はとっくにいないっす」


 "あぁ⋯⋯"と潔子もすぐに察して謝り、妹の話で盛り上がる。


 「うちのマリーなら、創一に預けてもいいと思うんすよね!」


 「殺すぞリード」


 熱い熱弁の後、女性陣から地獄のような罵声が飛び交い、当人を含む男たちはみんなで意気投合したように何やら小声で喋っている。


 「これ凄いよな⋯⋯みんなは持ってる?」


 「持ってる!」

 「向こうにある」

 「俺も」


 Pstaytion Betaを持ちながら誠司が尋ねると、誠司の問いにみんな縦に頷く。


 「凄いよなぁ⋯⋯俺なんか子供の頃はまだファミコンだったし。今はこんなタッチパネルだっけか?進化が早えよ」


 「確か今年の後半に4が出るんだよな?」


 「そうなんだよ、俺は丁度その話がしたかったんだよ。みんなでやろうぜ!」


 「いいね!」

 「そもそもまだ詳しいの出てないのに?」


 と、若干笑われてもいたが、男たちは結構盛り上がっていた。


 



 「あぁ⋯⋯」と、仁は外の景色を壁に寄りかかって煙草片手に眺める。


 こういうのも悪くない。


 結構良い気分の中、リードが遅れて煙草口に咥えながら騒がしくやって来た。


 「ここにいたのかよ」


 「あぁ。そっちこそ、結構馴染んでんじゃん」


 「まぁな。創一の友達のお母さんなんだろ?良い人じゃん」


 「周りが悪魔みたいに言うなよ、可哀想だろ」


 「⋯⋯自覚ないのかよ」


 「⋯⋯え?」


 リードは火がついた煙草を口に咥えながら両手を大きく広げて力説を始める。


 「いいか?お前と一番仲いいのは、俺を含む上位1%を切る富裕層の一部。他にも過去貴族家であり、資産家の連中。表には出てこない秘密結社や超能力が使えるSH(super human)、一般人どこだよ」


 上を向いて考える仁。


 ⋯⋯確かに。 内心他にも誰かいるだろうと仁は思考するが、全くと言っていいほど誰も思い浮かばない。


 ジュリアはマフィアのボス。

 あと喋るのは気分屋のウィリアム。

 中国でも名だたる武術の名家や資産家しか浮かばない。


 何も言い返せず負けを悟る仁。


 「俺の負けだ」

 

 「素直に負けを認めるのも器ってもんだ」


 細いタバコの煙が2つ夜空へと登っていく。数秒の間が空いたあと、リードは口を開いた。


 「そういえば」


 「⋯⋯ん?」


 「何処だっけな⋯⋯向こうのさ、ほら⋯⋯ハンバーガー会議だっけ?」 


 「セントラル会議な」


 「あーそうそう!それ! 創一にぜひ来てほしいらしいぜ?」


 「あそこは某アニメみたいなところだろ?富、名声、権力の三拍子がねぇと。腐っても俺もみたいなどこの馬の骨かもわからんガキに用があるんだってんだ?」


 「そりゃ⋯⋯まぁ⋯⋯みんなそこまで馬鹿じゃねぇって話だろ?」


 「そりゃそうか」


 1拍置いて仁は笑って納得したように返した。


 「一応ツテはまともだし、行ってあげたら?悪い話ではないと思うけど?」


 「どこが来るかは知ってるのか?」


 「んー、一部はわかってるが、全部は俺も流石にだな。とりあえずメイシンの連中とアーサール家、後は素性の分からねぇ奴らだ。多分創一と似たような連中だろ」

 

 「錚々たるメンツだな。そんなに人集めて何をやりたいんだ?」


 「そりゃ⋯⋯神にでもなりたいんじゃねぇの?」


 肩を竦めてリードはわからんと微笑んだ。


 「ほーん。中々面白そうじゃねぇの」


 「ていうかお前さ、一体どんだけ権力あんだよ。ちょっと見たらダミー会社が死ぬほど乗ってるぞ?証券のサイト」


 「ダミーとは人聞きの悪い。しっかりと経営していますがねぇ?」


 「その顔。上手い具合にやってるのがタチワリィって話だ」


 仁が持っている株の種類は数百にも上る。そもそも説明していなかったのだが、この男の戸籍は無限にある。


 代表としてこの神城仁。

 本人が一番良く使う日本人の戸籍。


 アレン・ヒューストン。

 テイラー・ジェイク。

 エリシオ・ハインゼンライン。


 等々、言い出したらきりがない。

 様々な会社の代表を務めていて、その会社と戸籍を使って世界中の株式を保有している化物と裏で呼ばれている程の力を持っている。

 

 例えばアレン。

 アレンは物流関係の株式を9割以上の会社に投資しており、その大企業の殆どの大株主として君臨している。


 テイラーはテクノロジー関連。

 エネルギーを始めとしたAI、バイオテクノロジーなどの企業、非公開での投資を行っている。


 エリシオなんかは不動産関連。

 まぁ言い出したらきりがない。

 ポートフォリオを覗いたら多分ほとんどの人間は無くか失神するレベルで種類がある。

 

 しかしまぁ、人物それぞれが辿ればたった一人の⋯⋯しかも少年とは──誰も気付かないが。


 「というか、未だに気付かれないなんて笑うレベルだぞ?」


 「いや、まぁ完全に姿形変わってるしね。分かるわけないだろ?」


 「それもそうか」


 「明日俺の知り合いの企業が上場するってよ」


 「おっ?創一がそこまで言うんだから結構あたりなのか?」


 「そりゃ⋯⋯勿論。テスラの後継者なんて言われてる奴が筆頭の小さい所だがな。俺が手を貸してやった」


 「⋯⋯おいおい、マジか」


 あんぐり口を開けてリードがビビっている。


 「あぁ。フリーエネルギー関連な資料も内々にしかないものなんかも一部持ってるらしいしな。こりゃ関わって正解だ」


 二人の会話はまだまだ続く。

 しかし世の中には、こんな化物みたいな子どもたちが存在するなんて⋯⋯影から聞いていた誠司は半分なきそうになっていた。

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