家族、親友、解散
さて、今日はある有名な極道組が養分となる日である。
──え?どうしてって?
そりゃあ勿論⋯⋯あの男のせいだよ?
あぁごめんごめん。
潰れるのは分かってるって?だってあの男、強過ぎるからって?
そうだよね。あの10歳児は笑えないくらい強いもんね。気になるのは"何故"って所だよね?
答えは至ってシンプル。
気分だよ。
え?そんな馬鹿なって?
あはは、消えました。丸々一つ。
・
・
・
田舎へ向かうリムジンの中から、9人の男女が窓の外に見える景色を煙草を吸いながら眺めていた。
「創一はここなんだっけ?」
サングラスを掛けた、赤髪のヘラヘラした男が全員に向けて尋ねる。
「だからわざわざここまで来たんでしょ」
「そうだよリード。分かってないなぁ」
リムジンはやがて一軒の前に止まる。
そうして中から出てきたのは、恐るべきオーラと覇気を身に纏う9人。
「おい、そこに停めといて。俺達これから大事な家族と面白い事をしたいんだから」
***
「ワーオ!ニホンのゴハンは美味しいですネ!!」
「みんなこれを食べているなんて幸せデス!!」
「あらあら、仁くんのお友達はよく食べるのね〜?」
テーブルを囲む大人数の男女に、潔子は上品に笑う。
「おい!程々にしろよ〜?お前らの胃袋と冷蔵庫の中身がなくなる方が怖いんだから」
『分かってるよ!』
『迷惑はかけないよ!』
「本当かよ⋯⋯」
ソファに座ってテレビを眺める仁の隣で、こちらも鼻息を荒くさせて背後にいる男女について聞きたがっている紬がいた。
「ねぇ!ねぇ!!」
「なんだよ」
「あの人たちみんな系統の違うイケメンじゃん!やっぱ類は友を呼ぶってこと!?」
「知らねぇよ。昔からの親友だ」
「あのお姉さんオッパイデカッ!!外国クオリティや⋯⋯」
手で隠す隙間からチラチラ覗く紬。
「それより、リード!」
「んー?なんだ?」
「情報は手に入ったん?」
「勿論だぞ、すぐだすぐ」
「おっと、」
リードの投げる封筒の中にはある組の情報がたんまり入った書類がわんさか出てくる。
仁が数分眺めるとその封筒を閉じ、外へと向かう。
「潔子さん、野田さんいるよね?」
「いるわよー」
「じゃあ紬の方はよろしくって伝えてもらえますかね?」
「ええ!」
(さて、面白くなってきた)
・
・
・
ここは山崎組。
現在九州では知らぬ者がいないくらい有名なヤクザである。
だが、この日⋯⋯たった10人によって滅ぼされることになる。
「今日も良い天気だな」
門の前、門番代わりの男が高級時計で時刻を確認する。
"[14時24分]"
「さて、そろそろ⋯⋯」
男が中に入ろうと背を向けた瞬間、一台の車が止まる音が耳に入って来る。
「ん?なんだ?」
男の視界には黒いリムジンが一台あり、中から出てきたのは美男美女の10人。
特に女の方は全員が選りすぐりのスタイル。男は若干芸能人に会えたような興奮を覚えていた。
「わぁ〜。なぁ創一?ここでいいのか?」
「あぁ、問題ない。面白そうだから」
(何だこいつら?まだガキじゃねぇか)
「おい、ここは山崎組だ。さっさと要件を話せや」
「創一、日本のタバコはガツンとこない。もっと強いのはないの?」
「デケェヤツメインで売るバカがどこにいんだよ。知らん」
「聞いてんのかよ────っ」
怒号の最中、男の視界は突然下がる。たった一瞬。別に見てなかったわけじゃないのに。
「うるさい。静かにして?」
銀髪の麗しい女性が肉眼の限界レベルであるローキックを放ったことによって男は地面に崩れていたのだ。
「⋯⋯あっ」
その更に刹那。白髪の男は男の首を両手にポケットを突っ込んだまま綺麗な回し蹴り放つと、男の首は綺麗に数メーター吹っ飛び、鮮血が舞う。
見下ろす白髪の青年は、虚無。
「なんだよ、邪魔だよこんな所に突っ立ってんのがいけねぇんだよ馬鹿が」
「うわ創一容赦ねえ〜」
「進行方向に障害物があったらそりゃ退かすだろ」
10人の人間はそうして当たり前のように門を壊して中へ入っていく。
***
「な、何事だ!」
山崎組組長⋯⋯山崎滋は、突如起こった状況に完全に目の前の状況に困惑していた。
遡ること数分。
「それで?今後我ら山崎組の全国進出の件について話していこう」
本日、山崎組では重要な会議をする為九州のあらゆる場所から幹部たちがこの山崎組に集まっていたのだ。
ある意味セキュリティ面は万全。
これ以上ないくらい。
既に会議は30分以上経過しており、もう時期まとまるところだった。
だが────それも一言の報告ですぐに終わる事となる。
「組長!」
「なんだ?」
(何やら外から来た人間が暴れているようなのです)
「追い払え」
「⋯⋯ち、違うんです!」
「⋯⋯なんだ?何が言いたい」
聞き返す組長に反して会議をしている扉の外。そこからは悲鳴やら軽い雄叫びに近いものが聞こえる。
一気に会議室は静寂に包まれ、外の様子が明らかに異常な事になっていることに気付く一同。
だが次の瞬間──。
「「ここどーこだっ!!!!!」」
ドガンッッッ─────!!!!
広い会議室の硬い扉は白髪と赤髪をしている二人の狂気じみた表情の青年にタックルでぶち壊され、破片が部屋中に舞った。
「⋯⋯ん?ここっぽくね?創一」
「ホンマや。ここだな」
(な、なんだ?このガキどもは)
現れたのは、『今日もお疲れ様です』と書かれたパーカーにジャージのヘラヘラしてそうなサングラスを掛けた赤髪の男と、片や全身黒のジャージ姿のこちらもサングラスを掛けた白髪の男。
組長が発言をする前に、幹部の数人が青年の二人を囲う。彼らは喧嘩で負けなしでようやく就ける今の立ち位置の者ばかり。彼らが負けるとは誰もが思っていなかった。
⋯⋯数秒前までは。
「おい、ヤクザがこれくらいでどうする?」
「創一〜、ジャパニーズヤクザは大したことないじゃあん〜。これじゃあイジメみたいじゃないかぁ〜」
数十人が囲む中、仁は両の拳で。
リードと呼ばれる青年は持っていた謎のケーブルで囲む男たちの猛攻を当たり前のように躱し、淡々と一撃でどんどん人が倒れていっていた。
『ここを何処だと⋯⋯』
「知らん、ヤクザだろ」
『おい舐め腐りやがって!!』
「はぁ〜?弱いのがいけないんだろ〜?おい創一!俺のだぞ!奪うんじゃねぇ!!」
猛攻の中、近くにいた仁に対してリードはケーブルを首にパチンと鞭のように当てる。あまりに威力のあるその一撃で、やや仰け反る仁。
「あぁっ?誰に向かって言ってんだ?俺のだろ」
そのまま流れるように反撃しながら仁は腕を引く動作のまま回転し、リードの首にフルスイング。
もうそれだけでその場の空気が一変するほどの威力であるが、二人は容赦なく喧嘩が始まる。
「なんだと?ここの取り分は俺が6だ!」
「いーや、俺が6だ」
「「⋯⋯⋯⋯」」
黙って向かい合ったまま沈黙する二人。
地獄のような空気の中開口を切ったのはリード。
「殺るか?久しぶりに」
「丁度良い。あの時の決着でも付けるか?」
リードは表情筋はヘラヘラしつつもその奥の瞳はガチガチの
反対に仁は真顔のまま。
両者ともにサングラスを少しずらすと、中から今にも燃え上がりそうな赤い瞳孔が姿を表す。
二人の身体から異様な風圧が一瞬吹き出したその時。
『うるせぇよガキ共!!』
二人の剣呑な空気をぶち壊したのは、駆けつけた増援数百人。
仁とリードは入ってきた者たちを横目で見つめ、それを眺めていた幹部達はホッと胸をなでおろした。
"これでなんとなかったと"。
⋯⋯⋯⋯勿論、この二人を何も知らない者たちだからこそなのだが。
「ッたく、折角取り分の話をしようとしていたのに⋯⋯⋯⋯邪魔する気か?」
「創一、この話は次の取り分の時にでもだ」
『テメェらかかれ!!プライドなんて二の次だ!!』
号令によって数百人が続々と二人に襲いかかる。もちろん広さがあっても外ではない。その為少し減らして突入してはいるが────それでも全員の目には、修羅が見えた。
『⋯⋯⋯⋯え?』
空間無視。
一人の男に必滅の拳が理外の速度で飛ぶ。
────神門流極真空手、正拳突き。
鍛え上げられたその拳をモロにもらった男の"首が飛んだ"。
だが諦めずに更に数十人が殴りかかるも。
────正拳突き連打。
連続でガトリングのように向かっていくその光景はまさにアニメのよう。一撃一撃が即死級の威力を持つその拳は数十人の命を軽々奪う。
『こっちのやつなら問題ないだろ!』
「おおっ、生贄1号じゃん〜」
(良い武器見つけたぞ♪)
一人の男がドスを振りかぶる。しかしリードは柔らかい体の運びでグニャグニャ動いて男の予想外の軌道から首に何かが刺さった。
『⋯⋯え?』
首から流れ出るのは血。リードは先程壊した破片の尖っている部分を手にとってそれを首へと刺したのだ。
「Fuuuuu〜〜!!!盛り上がってきました!ランランラン♪」
一人だけ遊園地に遊びに来ているようなノリノリ加減。完全に遊んでいる。
『ぶち殺して⋯⋯!!』
だがそれも束の間。
落ちている椅子でリードは男の頭を容赦なく殴りつけ、壁へとふっ飛ばす。
「駄目じゃないか。遊びが足りない」
背後から迫る数人に向けて今度は椅子を投げつけ、床に落ちているドスを掴む。
「リチャードエレクトリカルパレードの解禁だ〜!!!」
***
空間無視。
人数無視。
武器関係なし。
数百人の増援もあっけなく地面に崩れ去り、残るは組長と一部の幹部のみとなった。
「集金でーす」
腰を抜かして壁際へと追い詰められた組長たちへ、リードは嬉しそうに明るい口調で煽る。
「お前ら、山崎組に通達する。これから毎月、五億の金を集金しに来るから、用意しておけ。それが出来ないなら即この組は無くなると思え。返答はいらない」
改まってしっかり要件を伝える仁。そして二人はクルッと踵を返して煙草を吸いながら来た道を引き返す。
「なぁ?五億なんて少なくない?もっとふんだくろうぜ!」
「やめとけ。用意できない金を提示したところで意味がない」
瞳から二人の姿が消えるまで、組長を含めた数十人は震えて声も出なかった。
あれだけ有名な極道、山崎組。
その日、ある意味養分以外の用途がなくなったその日から⋯⋯死んだとされる。
金を用意し、青年たちのお遊びとなるくらいには。
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