普通の護衛⋯⋯?
『それでは神城くん、自己紹介を』
教師の一言で一人の生徒神城は教室の中へ。教室のボルテージが過去現在未来においてこれ以上上がることはなかったという。
伝説の生徒として後に写真が残されたと言うくらい⋯⋯この男の存在感はでかかったと数年後の卒業生の言葉で一気に広まったらしい。
「神城仁だ。通常の自己紹介ならば様々なことを話す必要があるのは理解できるが、生憎俺はそこの一番後ろにいる生徒の護衛として正式に派遣されているので最低限の情報で終わらせる」
10歳児の自己紹介にしては色々あるだろう、そう言いたいのは山々だが、彼はそう言って紬の背後に立って腕を組み、窓の外を見てボケ〜っとしているだけだった。
あまりスムーズに行うそれは、全員が笑ってしまうほど。紬も思わず仁の腰辺りを軽く叩いてツッコミを入れる。
「別にしばらくいるんだから情報はいるでしょ!」
「⋯⋯俺にそんな興味を抱く理由はあるのか?」
「それ本気で言っているの?」
信じられないと紬は仁の表情を察し、呆れて机を見下ろす。
「知らん。とりあえず学生の本分は学業だろ?勉学に励め」
「ちなみに勉強は出来るの?」
「ん?学業レベルは知り合いの出題者に出された難易度オックスフォードは満点だった記憶があるが」
「あっ、ごめん、何でもない」
(このガキ⋯⋯!マジで超人なんじゃないの!?何よ、まだ10歳なんでしょ?なんでもう難題大学のレベルにいるのよ!)
「1時間目は?」
「数学」
「なら頑張れよ、朝の会が終わったらちょっと付き合え⋯⋯煙草がすいたい」
「⋯⋯っ貴方ねぇー」
「ちなみに法で捕まえるには難しいぞ?しっかり許可は得ているし、最悪全員ブチ殺せば問題ない」
(しっかり中身まで終わってやがる!)
「拒否権はないのね」
「あるわけないだろ?そもそもこちらから頼んだわけでもないんだから」
「⋯⋯仰る通りで」
二人はそれから先生たちの"特別な許可"によって、当たり前のように職員用の喫煙室にやってくる。
「うわくっさー。そりゃ臭いって言われるわ」
「黙って立ってろ。一服は大人の世界ではとても重要なことだ。それがわからないガキンチョにはどうしようもないがな」
「例えば何が大事なのよ?」
「あぁ?そもそも休憩がてら大体の奴らが仕事の延長線上の話をしているからだ。中にはいないというやつも多いが、それは信頼も関係値も築けていない馬鹿どもの戯言だ。本当だったら話されていることも話されていないということになる」
「ふーん、でも全員って訳じゃないでしょ?」
「お前バカなのか?全人類煙草をやってるとか言うアホな前提で進めるな。重役の上、会社によく出社している奴らの大半の話をしているんだからそんな質問は糞の役も立たない」
「むむ⋯⋯!!!」
「よし、とりあえず要件混じり一服終了。おい、戻るぞ」
(コイツ⋯⋯!実力はあるのかもしれないけど、性格が歪んでる!!)
絶対この10歳児の性格を叩き直してやる!!
そう、パパですら頭が上がらないのだから、やれるのは私しかいない!
***
「おい、ガキンチョ、何でそれがわかんないんだ」
「う、うるさいのよ⋯⋯!小声だからっていつまでも耳元で煽ってくるのやめてくれる!?」
(くそっ、声も外見が良すぎて話が入ってこない!)
「では野田さん、ここの問いを」
「は、はいっ!」
(えーっと、これを因数分解して⋯⋯え?やばいわかんない!)
「-4x²+16x-4だ」
「ま、-4x²+16x-4です」
「おぉ、よく分かったな野田、いつもは全然計算が遅いのに」
(この超人⋯⋯!マジでノートも黒板すら見ていない!)
問題を一回読み上げただけで当たり前に回答すんのバグでしょ!?
「あ、ありがと」
「これも護衛の一つだ。あまり護衛者を目立たせると碌な事がない」
「なるほど、貴方は自分の価値に気づいていないのね?」
「⋯⋯何?」
(周りを見なさいよ?全女子があなたの顔と声に全神経を注いでいるのがわからないなんて──貴方はアホってことよ!)
「ふん!」
「何だお前」
こうして私と仁の奇妙な1日が始まった。
その後も様々な授業を仁は腕を組んで窓の外をただぼうっと見つめていた。
でも時々、何処か噛み締めたように辛そうな表情するときがあって、私も表面上でしかこの子供を見れていなかったのをその時初めて感じた。
⋯⋯パパもたまにあった。凄く目がギラギラしてて、ママですら一時期怖がってた時があって。最初は仲が悪いと思っていたけどそれは違った。
軍人にしか分からない苦悩というのがあるのだろうと。
その点この10歳児は目に見えてよく分からない分、こういう一瞬の表情が私には衝撃が強かった。
・
・
・
「なんだこれは?」
「ちょっと、私の友達に向かってその言い方はないでしょ?」
「お前の友達?なるほど、お名前を聞いても?」
「伊藤樹里です!神城くん、良かった食べる?」
「仕事中だから問題ない。家に帰ってからでも十分だ」
「あのねぇ、そんな命の危機なんてそうそうこの場所じゃあ起きたもんじゃないよ?」
「⋯⋯⋯⋯さぁ、どうかな?」
少し間をおいて、仁はそう言って窓の外をずっと見ている。
「また窓の向こうを見てるの?ほら、卵焼きでもあげるから食事をとりなさいよ」
「はぁ、呑気なものだな」
そうは言いながらも、黙って椅子に座るところは子供なのだと思う。私はすぐに自分のと樹里の出したご飯を仁の前に並べ、予備でとっておいた割り箸を渡す。
「しっかり食べないと」
「問題ないって言ってんのに」
「貴方にはこういう穏やかな一日もあった方が⋯⋯」
しまった。と思った。
「ん?なんだよ」
(良かった〜機嫌の変化が起こらなかった)
「いただきます!」
そうして私の地獄だった学校生活に、新しい光が差した。こんなに安心して学校に来れたのは久しぶりで、私は気付かぬうちに放課後になっていたことにすら気づいていなかったから。
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