クリスマス

 クリスマスを迎えた。

 ボクの家では、クリスマスパーティーなんてやらない。

 やらないが、ワカナさんがケーキを買ってきてくれて、肉料理まで作ってくれた。


「おお! うまっそ!」


 どこで調達したのか。

 どでかいチキンを丸々と器に載せていた。


 本人には言えないが、マワリさんの料理は壊滅的にマズい。

 まず、肉が生だし、野菜は茹でただけ。

 ホカホカの野菜に囲まれた生肉というのは、かなり衝撃的だった。


 可愛いけど。美人な八尺様だけど。

 料理だけはゴメンだ。


「あの。熱すぎませんか? アタシ達、食べれないんですけど……」


 前にリツがかっさらたのは、肉汁が溢れるほどの熱さはなかったからだ。温度次第で、リツ達は食べれるけど。さすがに肉汁たっぷりの熱々チキンは無理みたいだ。


「ぷー、ぷー」


 リツは諦めていなかった。

 蛇の執着心を見せ、息を吹きかけている。


「切り分けて冷ますから。向こう行ってろ」

「ちぇー」


 ワカナさんが料理を作っている中、ボクは皿を並べたり、飲み物を用意する。ちなみに、リツ達の飲み物は、冷蔵庫ではなく物置にダンボールで置いている。


 常温じゃないと嫌がるので、絶対に冷蔵庫には入れないようにしている。


 皿を並べ終えて、一息。

 ワカナさんが後の事はやっておくと言うので、ボクはソファに――座る際、長い腕に捕まって、マワリさんの膝に乗せられた。


「あ、……この前のニュース」


 地元のテレビ局では、事件として捜査が進められている事を報道されていた。

 夜中の学校に押し入って迷惑行為。

 でも、犯人が分からずに、迷宮入りだろう。


 だって、全員食べてしまいました、なんて事になったら、猟奇事件に発展してしまう。学校では、みんながワイワイ騒いでいたけど、すぐに鎮静化。大半が人外なので、たぶん触れないように意識が働いていたのかも。


 テレビの画面を見つめながら、ボクは松野の事を考えた。


 今頃、松野は退院して、家で療養しているだろう。

 じっとしているわけもなく、ジオラマ作りに没頭しているはずだ。


 ボクは、改めて自分のしたい事を考えた。


「なーに悩んでんのよ」

「いや。将来のこと、どうしようって」

「将来? 適当に遊んで、適当に暮らせば?」

「ちょ、それ、大人が言う事じゃないでしょ!」


 リツは奔放ほんぽうすぎるんだよ。


「でも、働く必要あります?」

「マワリさんまで……」

「だって、アオくんはアタシと暮らすんですよ? 衣食住はアタシが用意しますし。何不自由なく暮らせるのに。どうして働く必要が?」


 あ、この人、男をダメにするタイプだ。

 メチャクチャ甘やかして、虜にするタイプだ。


「食べ物はダメでしょぉ」

「なんですって?」


 リツはさらっと毒を吐く。


「だって、クッソマズいもの。わたしなら食べれるけど。アオは無理よ」

「そんなことありません!」

「あのね。生肉なんて出したら、腹を壊すでしょうに」

「……うぅ」


 おっしゃる通り。

 人間は肉を生で食えないのです。

 ユッケとか言う例外はあるけど。

 基本は肉を加熱して食べる生き物なんです。


 すると、ムキになったマワリさんが言った。


「だったら、リツさんは?」

「わたし? コンビニ弁当買ってくるわよ」

「最悪ぅ! ちょっと! この人の食事じゃ長生きできないよ!」


 栄養の事なんて考えていない。

 作れないなら、作られてる物を買ってくる。

 リツはポケーっとした顔で、ソファのひじ掛けに背中を乗せ、軟体を仰け反らせた。


「ていうか、進路決めるなら打ってつけがあるじゃない」

「え?」


 リツはにんまりと笑う。

 その笑顔だけで、ボクは嫌な予感がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る