日常と非日常

守り神

 人間には、人間のコミュニティが存在するように。

 人外には、人外のコミュニティが存在する。


 町内会、と一括りにしてしまえば、それは見えないものだった。

 表向きは人間を交えて、町内会の活動をする。

 子供を見守る交通安全や祭りの準備など、人外達は積極的に手伝っているし、むしろ文化伝統を守る活動までしていた。


 でも、高齢化が進んでいる今、昔のように大人たちで子供を守るのが厳しい背景がある。それでも、「無理だ」とは言っちゃいけない。


「子供は大事よぉ。自分勝手な人間もいるけど。まあ、……自分の未来にまで関わることなんだから、それぐらいはしっかりしないとねぇ」


 リツはリビングのソファで寛ぎ、欠伸をする。


 ようするに、人間で無理な事は、「こっそりやるか」といった事が、人外達の間で決まっていた。


 町の事は、町内会がしっかり守っている。――人外達を含めて。

 時には、隣町や他の区との提携もする。

 そのために、日ごろから近所付き合いであったり、関係を作っておくのだそうだ。


 大半の人間は、いつの間にか人外に囲まれている事実に気づいていない。ところが――。


「サチコさんは割と早く気づいたんじゃない?」

「ああ。ちょうど、アオと同じくらいの歳だったな」

「まあ、アタシは気づいてくれて嬉しいのですけど」


 マワリさんに頭を撫でられ、ひんやりとした頬を押し当てられる。


「ボクの母ちゃんって何者だい? 公安か何かなのかい?」

「普通の人間。普通に会社員でしょ」

「ちょっと上の立場っぽいから、お金は結構貰ってるな」


 母ちゃんさ。何で話してくれないんだよ。

 放任するのはいいけど、大事なことは話してくれよ。

 いつも、こうなんだ。


「こ、今回の件、ボクには黙って動いていたの?」

「当たり前でしょ。子供を巻き込む大人がどこにいるのよ」


 リツに怒られ、ボクはしょぼくれてしまう。


「いや、待て。この人、ちょっとヤバいことしてなかった?」

「アタシですか?」


 マワリさん、普通に人を襲ってた気がする。


「いや、だから。人間と変わらないのよ。色恋沙汰だったり、喧嘩だったり。トラブルが起きる事は、しょっちゅうでしょうに。人間でも連日テレビで報道しているでしょ」


 マワリさんが悲しげに眉を下げ、口を尖らせた。


「アオくんのためにしたのに。反省だってしてるのに。……一緒に……死ぬしかないのかなぁ」

「ご、ごめん。言い過ぎた」


 アオダイショウは、すぐに病む。

 いや、マワリさんだけか。


「ほんっとに。この顔面チンコは……」

「人の顔を性器扱いするなよ!」

「とにかく、終わったことは忘れなさい。……んー、いや。教訓にしなさいよ。お友達の見舞いに行かないとでしょ」


 そう。実は、今日はワカナさんと一緒に松野が入院した病院に向かう予定だ。ネズミに噛まれたという事もあり、抗生物質を打って治療し、検査入院をすることになったらしい。


 リツは眠そうにして、ソファの上で丸くなった。


「リツ」

「なあに?」

「お前って、神様なの?」


 すると、リツは首だけ回して、こっちを向いた。

 相変わらず、意地の悪い笑みを浮かべて、舌先をチロチロと出す。


「エッチの神様よ。大事にしないと一生童貞だからね。ふぁ~あ」


 マワリさんがイラっとした表情を浮かべた。

 掴みどころのない蛇だけど、リツが裏で色々と動いてくれていたのは分かった。


 今日はこれから怯えている友人に会って、できる限りのフォローをしよう。同じ人間として、ケアはしないといけない。


 ボクはリツの尻に向かって言った。


「まあ、……ありがとね」

「感謝するなら体で支払いなさい」

「ちょっと、リツさん!」


 本当に相変わらずだった。

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