アクシデント

 人外の存在に気づいてから、今日で3日目。

 朝の電車に揺られたボクは、前と左右の3方向を見る。


 何気ない日常風景。

 電車に揺れるサラリーマン。

 談笑する他の学校の生徒達。

 女子生徒の尻を揉む、女子生徒。


 どれもありふれた日常だ。


 ――ボクが知らないだけで、この中にも、いるんだよな。


 どれだけの人たちが、人外の存在に気付いているんだろう。

 ボクは寝る前とか、勉強する合間に、色々な事を調べている。


 まだ調べ始めて間もないけど、ネットの情報だけでも嘘か本当か分からない話が盛りだくさんだった。


 一つ言えるのは、不思議な話があることか。


 郷土資料。民俗。伝承。伝奇。

 本当に全国各地に似たような話があるのだ。

 違うのは、


 それが、という存在にスポットを当てると、みんな蛇である。

 結局、種が違えども、蛇は蛇。

 若い女に化けた、なんて話まである。


 もちろん、蛇以外にも、狼であったり、牛であったり、様々だ。

 これが海外も含めると、膨大な量の資料に埋もれる事となる。

 ハッキリ言って、頭痛どころではない。


「グローバルとは言うけど。……グローバルになり過ぎでしょ」


 グローバルも、行き過ぎるとダメだな、と心から思った。

 ようは、収拾がつかないのである。

 近所のお姉さんが狼だった、なんて話だけでも困惑するのに。

 他の人外まで出てきたら、ボクはいよいよ安心して眠れなくなる。


 そう思い、ボクは真横を向いて、座席の仕切りに寄りかかる。


「…………ぁ」


 朝から何を言ってるのか分からないと思うが、ボクの前にはおっぱいがあった。

 白いカーディガンに包まれた、大きな肉塊が電車の振動に合わせて、上下しているのだ。


 たぷ。たぷ。たぷ。

 催眠術にでも掛かったように、ボクは大きく揺れるおっぱいを目で追う。


「……見るな」


 視線を持ち上げると、ボクの前にはハナさんがいた。

 気が付けば、先ほどまでサラリーマンが立っていた場所に、ヒマリさんが立っている。


「お前の頭、イカ臭いんだよ」

「どういう状態っすか。異臭するんスか。マジっすか」


 頭がイカ臭いって、生まれて初めて言われた。

 ヒマリさんの言葉に戸惑っていると、電車がスピードを落とし始めた。

 それに伴い、大きく前後に揺れる。


 ギギ……ッ。


 ボクの立っている側が開くはずだ。

 出る準備のため、扉の前に立つと、いきなり顔が柔らかいもので包まれる。


「う、ぶっ」


 もふぁ、と甘い香りの物体だった。


「わ、わ」

「大丈夫?」


 どうやら、ハナさんの胸部に顔面サンドイッチをされたらしい。

 ヒマリさんが離してくれたけど、ボクは朝から刺激が強い目に遭っているので、股間がえらい事になりそうだった。


「気を付けてよっ。アンタ、卑猥なのよ」

「ねえええええ。もういいって。何で、みんなして、ボクの頭部を陰茎扱いするんだよぉ」


 世界がボクをイジメていた。

 ていうか、ぶつかってきたのはハナさんの方なのに。

 理不尽な怒り方をされて、落ち込んでしまう。


 さりげなくポケットに手を突っ込んで、股間の位置を調整。

 扉が開くと、ボクはさっさと電車を降り、二人から距離を離すのだった。

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