下着

 昼食時、松野の回答に納得がいったボクは、少しだけ意識が変わった。

 いるものは、いる。

 適当な感じだが、ざっくりと言えばこんな感じ。


 同時に、ボクはワクワクとした気持ちが込み上げていた。

 ボクは二次元が好きだ。


 二次元のファンタジー物は好きだし、現代を舞台にした伝奇物やオカルト系のアニメが好きだ。

 ていうか、全般好き。


 小さい頃は、「本当にいればいいのに」と何度考えた事か。

 高校生になった現在は、「二次元にしかいないでしょ」と、何ともつまらない人間になってしまっていた。


 だから、忘れかけていた童心を取り戻したみたいで、嬉しくもあり、わくわくしている。


 放課後。

 リツのために色々と買い出しをすることにした。


 授業中にスマホを弄り、教師が数字の羅列を説明している間、ボクはネットでマムシの事について調べた。

 マムシだけではなく、蛇全般の知識も、浅く広く仕入れた。


 松野の言う通り、調べてみると本当に気持ち悪い画像が大量に出てきた。というのも、得意ではない人間にとって、しなりを作った蛇のセクシーポーズは、心臓を寒くさせてくるのだ。


 だけど、苦行に耐え抜いてボクは情報を得た。


 蛇というのは、存外らしい。

 首を切られても動き回っている生命力を持つ一方で、矛盾した話だが、本当の事だ。


 調べた限りだと、蛇にとっての天敵は、だ。


 今は頭の中にリツがいるから、なおさらボクの結論はそっちに結び付いた。


 寒すぎると、凍え死ぬ。

 熱すぎると、干からびる。


 変温動物は、体温調整の面がきついらしい。

 だから、彼女は朝方ボクの布団に潜り込んできたわけだ。


 せっかく、夢にまで見た美女が目の前に現れたのだ。

 死なせるわけにはいかない。と、込み上げるスケベ心に火が点いたボクは、モールにやってきた。


 駅前に建っている5階建てのショッピングモールだ。


 中は、地下がスーパーで、1階や2階には飲食店などがある。

 ボクが向かったのは、3階のランジェリーショップ。


「お、……すっげ」


 股の部分に穴が空いているパンツを見つけ、ボクは興奮を隠しきれなかった。ここまでくると、ボクは自分の気持ち悪さを自覚し、開き直ってしまう。


 周りにいる店員は、真顔でボクの方を見ていた。


 警備員を呼ばれたら困るので、目的の物を買う。

 リツには、ストッキングやタイツの類を買うことに決めた。

 体温調整のことを考えれば、肌にフィットして隙間風が入らないようにした方が、たぶんいいだろうと思ったからだ。


 親からもらった生活費を切り崩し、パンツも買った。


 あとは、4階のスポーツショップ。

 ここで買うのは、ヒートテックだ。

 ヒートテックは、野球部が上に着ている黒のピッチリしたインナーだ。


 男が着ると、爽やかさと、むさ苦しさが際立つアイテム。

 なんてことを言ったら野球部に怒られそうだが、ヒートテックは夏でも冬でも関係なく着てた奴がいたので、丁度いいと思ったのだ。


「女の子着たら……うん……」


 間違いなく、艶しかなかった。

 むしろ、込み上げる欲望が最大限にまで達してしまう。

 自分の欲望を叶えながらも、リツの命を救う行動に繋げていく。


 人生において、ここまで頑張ったことはなかった。


「服は、母ちゃんの入るかな……。いや、ボクのでいいか」


 母ちゃんは歩くトドだが、肩幅が狭いデブだ。

 ボクの方が男というのもあり、肩幅がある。

 リツはスラリと背が高いので、そこまで肩幅はなさそうだが、母ちゃんよりはあると思うので、母の衣服は合わないだろうと判断した。


「よし。早く帰ろう」


 興奮が止まらない。

 着せ替え人形を手に入れたキモオタのボクは、わくわくしながら家路につく。


 ていうか、マムシに対してここまで情熱を注ぐのは、今の所ボクだけだろうと自負した瞬間だった。

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