いつもの学校風景
みんなからは、『さぬきうどん』、とバカにされたり、時には『肉まん』と
本来だったら、からかってきた奴らが悪いと言ってやりたいが、この場合そうではない。周りから反感を買っているアオという男が半分だけ悪い。
お坊ちゃまヘアーのチビで、ぽっちゃりとした体型の男。
例えるなら飼育されて4か月目のブタか。
見る人によっては、可愛い存在だ。
また、別の見方によっては神経を逆撫でする存在に見えるらしい。
つまり、ボクの事である。
「オラ。陰茎ヘアーがよ!」
「……その名前やめてください」
クラスの男子に何発か腹パンされた後、なぜか集団でボクの頭をしごき上げるという謎の行事が取り行われた。
ホームルーム前の賑やかな教室は、ボクの頭がまるで男の股にぶら下がった何かのようにしごかれる度に大盛り上がり。
いつもの事だけど、みんなはボクを大笑いしていた。
「ひゃっは! はは、んごっ、ん”ぐぅ! ぐふ”、げ、はははは!」
その中に、友達の松野ポンティーヌがいた。
嘘みたいな名前だけど、本当にこういう名前だ。
どういう奴かと言うと、フランス産のブタと日本のブタをミックスした奇跡の配合物。
出荷間際で未知の病原菌が確認されたことから、あえなく処分された哀れなブタ。
それが、松野だ。
ようは、顔の濃いデブだ。
ボクよりも太っていて、ハーフなのにブサイクという奇跡を成しているのだ。大抵のハーフは、可愛い人やカッコいい人ばかりなのに、奴の存在は「そんなことないぜ」と自ら体現しているようなもの。
その気持ち悪い外見にシンパシーを感じて、ボクらは友達になった。
「ひゃっはははは! なあ。見てみ? あいつの頭、ひゃっは! ティンコみてぇだぜ!」
隣の席に座る女子へ話しかけ、松野はクラスの中で一番笑っていた。
言いたいことは山ほどあるが、変に悲観ぶられるよりはマシ。
いっそ、笑ってくれた方が救われる瞬間だってある。
頭を10分くらいしごかれていると、学校のチャイムが鳴った。
「やっべ」
みんなは急いで自分の席に戻る。
ボクは手ぐしで髪を整え、前の席から一番後ろに戻った。
ボクの席は、廊下側だ。
扉から2番目の席。
両側には女子がいる。
松野は女子を挟んで、4番目の席だった。
「スン……、う”」
「チッ……」
本当は松野を睨んでやりたいが、両側の女子から睨まれて、ボクは前を向くことしかできなかった。
左側には、ギャルのハナさん。
髪を二つに分けて結び、水色のメッシュが特徴。
あと、色々とデカいので、かなり男子から人気があった。
そして、右側には同じくギャルというか、ヤンキーが入ってるガラの悪い女子がいる。
この子は、ヒマリさん。
セミロングのウルフヘアーが特徴的だ。
少しふわっとした髪質の長い襟足を肩に垂らし、黒いマスクを常に付けている。
美人だけど、怖い人。
二人は揃ってスマホを見つめていたが、担任が教卓の前に立つと、すぐに顔を上げた。
「起立!」
「ひゃっはははは!」
「うるせええ! おい。松野」
松野はまだ笑っていた。
そのため、担任がブチギレて教卓からこっちに歩いてくる。
松野の前に立つと、目を剥いて睨みつけた。
「松野ぉ」
「あ、は、すいませ――」
べちんっ。
掌底で顎を打ち抜くほどの強烈なビンタ。
世の中に逆行して、担任は体罰さえ辞さないスタンス。
松野は脳みそが揺れたのか。
グラリと体が傾き、その場に倒れ込んだ。
みんなは松野の存在を無視し、ホームルームを始める。
「おはようございます!」
「ざっす!」
「着席!」
退屈な時間が始まった。
先生の話を聞き流し、ボクは家に帰ったらプレイ中のギャルゲーの事を考える。
「えー、最近はね。不審者が出てるから。みんなは気をつけるように」
天候の事でも語るように、淡々と告げる担任。
そうなのだ。
昨今は、かなり物騒で、こういう話は本当に他人ごとではない。
ギャルゲの事を考えていたのに、一気に現実へ戻されてしまった。
「まず、命の危険があるから。不審者とか、そういう場面に遭遇した時はね。本当に
担任は怖いけど、こういう時は素直にボクらの心配をしてくれる。
こういう心配をしてくれている担任に対し、ボクの頭を陰茎に見立てていた男子は、ヘラヘラとバカ面で笑うのだ。
「せんせぇ。迷惑掛けちゃダメなんじゃないですかぁ?」
「炎上するぅ」
「ぎゃっはははは!」
この男子達に一言。
「死にたいなら死ね。以上だ」
男子達は黙ってしまった。
担任は突き放す言動をするが、言ってる事は違いないかな、とボクは思った。
ボクは机の陰でスマホを覗く。
スマホにはビキニ姿のギャルが映っている。
「しゃぶりてぇ」
ボクは自分に嘘を吐かない。
自分をこよなく愛してるからだ。
ていうか、自分が自分を愛さなかったら、誰もボクの事なんか愛さないから。ボクが自分自身を見捨ててはいけない。
「死ね」
黙って、左側の席を見る。
ハナさんがしかめっ面で、ボクを睨みつけていた。
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